第25話
正義の攻撃による、憤怒の機能停止と弱体化。
――負の契約者は、その力を私利私欲のために振るう無法者
その認識が強い世の中で、正義の所業は責められる事はなく、寧ろ称賛の声が出ていた。
「ふざけんなよ!!」
――被害地区の難民キャンプ。
そこで、あちこちから怒号があふれ出ていた。
実際、負の契約者による数々の悪逆非道な所業は、否定出来るものではない。
しかし、それで納得出来る様な被害ではなく――。
憤怒のナワバリでは、反契約者の機運が高まっていた。
「――そう言う訳だから、しばらくそちらには出向けないし、出向かない方がいい」
『――そうか。まあ、仕方ないよな。あたし等は街をそんなにした奴等と、同じカテゴリの契約者なんだから……ただ、憤怒に何かあったら協力は惜しまない』
「すまん――履歴は削除しといてくれよ?」
『ん、了解。それと朝霧さんの妹だけど――』
「俺が迎えに行く――それを機に、同盟は破棄だ」
『――わかった』
これに対し憤怒は、勇気との一時的な同盟破棄と、ナワバリ復興と鎮静を中心に尽力する事に。
「――綾香ちゃん達は何て?」
「理解はしてくれた――今ナワバリの住民は恐慌状態だ。勇気は離反したとはいえ、同じ正の契約者。暴動が起きないとも限らない」
「――そう」
「――気を落とすな。それじゃ、裕香ちゃん迎えに行こう」
「……うん」
この時代、ナワバリ間の問題があるが故に、移動の際は携帯電話を介しての身元証明は必須となる。
――場所によっては契約者、あるいは正負のナワバリの住民であることを理由に、立ち入りを断る場所もある
――鉄道もまた、同様である。
「――? 佐伯姉弟か。どうしたんだ?」
「――色欲の病院まで、修哉に錬、愛奈ちゃんのお見舞い。光一に支倉さんは?」
「野暮用だ」
「じゃあ、終わったら一緒に来ない? 久遠君なら愛奈ちゃんが、支倉さんなら鬼灯君も喜ぶと思うから」
「わかった。ひばりもいいな?」
「うん」
クエイクが調整に入ったため、光一は1人鉄道を使い勇気のナワバリへと向かう事に。
そこで発券する際に、見知った顔がいたため声をかける。
――修哉と錬はケガで、愛奈はショックで、現在は色欲の傘下病院に入院している。
「――ちと遠回りになるけど、構わないか?」
「――それは構わないけど、良いの? 勇気のナワバリに行くんなら……」
「構わんさ。同盟破棄の知らせだから」
「――この前の事が原因なの?」
「勇気も正の契約者。嫌悪感が強まってる以上、同盟続けると暴動が起きかねん」
「――嫌な感じだよ」
「元々、正と負の間柄なんてこんなもんさ。寧ろ、仲良くしようって方が邪道なんだよ。正と負はね」
――ボルグ105B型
知識の設計、開発した新型流線フォルムが特徴のモデルで、現陸上運搬の主役となっている列車。
その一席に陣取り、光一達4人は鉄道の度を開始。
「動くなあ!!
――とはいかず、武装テロによる列車襲撃事件発生。
「――俺達、どうしてこうこんな事件に巻き込まれるんだろ?」
「――私が聞きたいわ」
佐伯姉弟がごちる前で――
「無事か?」
「当然」
何事もなく、襲撃犯を取り押さえるひばりと光一。
幸い、4人が陣取っていた車両は最後尾車両のため、前から来た襲撃犯を光一とひばりの2人で取り押さえることで、無事終了。
「――最近何と言うか、治安悪くなってんな」
「他人事のように言わないで」
「――しっ」
ふと感じた気配
光一はベアリング弾を構え、前車両への連絡扉にそっと駆け寄る。
「……」
「……(コクっ)」
光一が送った目線に、ひばりが頷く。
ひばりが通路からは死角になるよう、身をかがめて歩み寄り――光一とは反対側に、陣取り扉に手をかける。
ガラっ!
開くと同時に、光一はベアリングを指弾で構え、踏み出す。
『きゅぅ!』
「「――は?」」
出てきたのは、一匹のちっちゃな竜の様な生物――と。
「わわっ!」
まるで女の子の様に線が細い、1人の子どもだった。
「――大丈夫か?」
どう見ても襲撃犯に見えない少年に、光一はゆっくりと手を差し伸べる。
「はっ、はい――! ざっ、残虐の契約者!?」
「?」
手を取ろうとし、顔を上げ――光一の顔を見た途端、手を払いのけ後ずさり。
「ちょっ、落ちつけよ。お嬢ちゃん」
「お嬢っ! 僕は男です!」
「――そりゃ悪かった。とりあえず……ん? まさかお前、東郷龍清か?」
「どっ、どうして僕の名前を?」
「――誠実期待のルーキーの名は、注目されたからね。で、そっちがお前の思念獣か?」
『きゅぅきゅぅ』
頭から尻尾に賭けて、全身を覆う青い鱗。
四肢にある爪、翡翠色の瞳を輝かせる頭には、サンゴの様な角の生えた生物。
まるで、竜をデフォルメした様な生き物が、そうだと言わんばかりに鳴き声を上げる。
「思念獣って何?」
「契約者の能力の1つで、媒介を使用して思念による疑似生命体を造り出し、操る能力の事だよ。美徳の1つ、誠実の傘下はその能力が主になってるんだよ」
「そうなんだ」
紫苑と和人を庇う様に立つひばりが、質問に答える。
「てか落ちつけよ。別に取って食いや――」
「嘘だ! 血染めの黒装束、悪逆非道の凶王の言う事なんて信じられない!」
「いや、別にお前の血なんて……」
「――なんか、弱そうだね」
「本当に系譜なのかな?」
光一に怯える少年の姿に、一般人2人はとある正の契約者を思い出し、ギャップに驚いていた。
――一方、少年龍清は、弱そうと言われた事に、少々ショックを受けていた。
『きゅうきゅうっ!』
そのちび竜は、光一を威嚇する様に吠えては、飛びかかって雷のブレスを吐き出し、攻撃している。
「――へえっ。思念獣をここまで使いこなすだなんて、すごいな」
「そうなの?」
「うん。思念獣の性格は、契約者の自我が大きく影響するから、人によっては扱いきれない事が多いんだよ。そう言う意味じゃ、期待のルーキーってのも頷ける」
へえっと、一般人2人が感心した様な声を上げる。
「……さて」
光一はポケットから、ベアリング弾を取り出し指弾の構えをとる。
指先に電気を集中させ、発光し――
「っ!」
それが龍清に向けられ、慌てて何枚かの髪を取り出し、防壁を張ると同時に――
「ぐわっ!」
指弾は放たれ、龍清の後ろでナイフを振り上げている襲撃者のナイフをへし折り――。
バヂバヂバヂっ!!
「ぐああああっ!!」
追撃する様に放電し、収益者の意識を駆り取った。
「――さて」
「っ!」
――格の違い。
それを見せつけられ、龍清は完全に委縮していた
「――俺と戦うか?」
「……(ふるふる)」
「ならちょっと来い。これから襲撃犯ブチのめすから、手を貸せ」
「え!? ちょっ、待ってください! そんないきなり!?」
「じゃあひばり、ここは任せた」
「え? あの、光一君?」
「よーし、出発進行だ」
「人の話聞いてくださいよー!!」




