第21話
「――にわかに信じられないな。あの光一とひばりがだぞ?」
「わかってる――でも、事実だよ。宇宙兄」
光一とひばりの攻撃の後片付けと、戦闘準備が終わった後。
鷹久と綾香の2人は、事の仔細を宇宙へと報告し、光一の血が未だこびりつくナイフを、綾香は宇宙に差し出す。
「――憤怒の様子は?」
「……あれからすぐ、斥候を放ちましたが――閉鎖状態にあるそうです」
「閉鎖?」
「ええ。調べてみたら、昨日からだそうで。それに境目の警備も異様に厳重で、入ろうとする者は問答無用で追い返してるそうです」
「……綾香、話がある。ちょっと来い」
「え? うん、わかったよ」
――一方、憤怒のナワバリ。
朝霧裕樹の名においての外出禁止令が敷かれ、憤怒傘下の契約者と警察だけが外を出歩いている状態。
一般人たちは、いきなりの行動制限に何かがあったのかと、不安にさいなまれ時を過ごす事に。
「――メシ出来たぞー」
AMAGIにおいても、同様だった。
佐伯の家に泊まりの話になってた愛奈に、こちらは天城家で泊まる話になってた錬と和人。
いつもの5人は、喫茶AMAGIで身動きが取れなくなっていた。
「ユウさんの家にはつながらないし、光一の携帯にもつながらないって……」
「――昨日から一体どうしちまったんだよ? 今までこんな事、なかっただろ」
「わからないよ。ただ、出入りも情報も制限されてるし、連絡までつかないとなると――一般人でしかない俺達には、どうにもできない」
「――もしかして、この前の勇気と慈愛の様に、どこかが攻めて来たとかかな?」
「だったら、避難を促すわよ――何かあったのかしらね?」
修哉、錬、和人、愛奈、紫苑。
それぞれが、いきなりの閉鎖状態に不安を抱きつつ――
――そして
「――すまないな、光一にひばり」
「いや……良いよ」
「……うん。ユウさんは気にしなくて大丈夫」
「……今にも泣きそうな顔でそんな事言われても」
「それで、連絡はあったのか?」
朝霧の家にて。
こちらも事の仔細を伝えた後に、光一は懸念していた事をユウに聞くが――首は横に振られた。
「――今のところは」
「そうか……迎撃準備進めるぞ? こうなった以上勇気は敵、他の美徳も黙ってない筈」
「――わかった」
そう言って光一は出て行き、少し後に噴射音が響き――クエイクと共に去って行った。
「お爺さんは?」
「――今寝てるよ。取り乱しちまってたから、鎮静剤打ってからね」
「……お粥でも作るよ。ユウさんも、あれから何も食べてないでしょ?」
「料理はいい。女の涙が味付けの料理なんて食いたくない」
――次の日。
「持ちこたえろ!!」
「早くバリケードを補強しろ!!」
勇気のナワバリは今、侵略を受けていた。
「突っ込め!!」
「ナワバリ内へ進めえっ!!」
――憤怒勢力によって。
「くっそおっ! 憤怒め!!」
「綾香さん達はまだか!?」
「守備を固めろ!!」
いきなりの襲撃、強襲により守備隊は苦戦を余儀なくされ、今にも破られそうな勢い。
更には上級系譜まで攻撃している以上、まだ持っているのが不思議な位――
ザッ!
だが、それももはやこれまでとも言えた。
憤怒の部隊が突如2つにわれ、その中心では1人の男が銃を構えていた。
――憤怒の上級系譜、久遠光一がリボルバーを構え“超電磁砲”を発射しようとしていたが故に。
「総員退避! 射線上から離れるんだ!!」
「くっそおっ、ここまでか!!」
指揮官が慌てて、射線上からの退避を促すも――
“超電磁砲”は発射され、部隊ごと境のバリケードをブチ破る。
ガシィッ!!
――事はなかった。
「――すまない。遅くなった」
勇気の契約者、一条宇宙。
彼がバリケードの前に立ち、“超電磁砲”を片手で受け止めたが故に。
「やった! 宇宙さんだ!」
「うおおおおおっ!」
宇宙の姿を見た警備隊から、歓声が上がり始める。
「――やっぱしんどいな。2人も連れてのテレポートは」
「そう言わない。綾香のおかげで間に合ったのも事実なんだから」
その後ろから、上級系譜に綾香と鷹久の2人も宇宙に並ぶように立つと、より歓声は大きくなる。
「――俺が綾香とやるから、ひばりは鷹久を頼む」
「――わかった」
――一方光一とひばりは、それぞれ武器を取り出し構える。
「――光一、ひばり」
「どうしても、やるんだね?」
綾香が片刃の2本の片手剣を構え、鷹久も両手の特殊金属性の籠手で包まれた拳を、ガチンと打ち鳴らし、レガースをつけた足でぐっと踏み込み構えをとる。
だっ!
「!」
ガシイッ!!
その空気を斬り裂くように、憤怒から1つの影が駆け抜け――宇宙とぶつかった。
「お前……」
「――俺も所詮は人の子って事だ」
拳と剣、2つがぶつかり――
「――やらなきゃならないのかよ!?」
「やらなきゃならないな」
光一が綾香に向け、銃を撃ちだし――
「……支倉さん」
「――行くよ、吉田君」
ひばりが双剣を構え、鷹久に向け駆けだした。
「そろそろ接触した時分だな」
「ああ。正と負は殺し合ってなんぼ、友好なんざクソ喰らえ。一条宇宙もこれで理解出来ただろ」
「二度と友好なんてバカな考えが出ないように、派手にやって貰いたいな」
「――ユウ、にい……ちゃ……」
「ところで、勝ったら他の大罪を潰して貰うとして――負けたらこのガキ、どうする?」
「殺すに決まってんだろ。妹なら憤怒を受け継ぐ可能性もありえる以上、このまま生かしておけば害悪にしかならない――妹を嬲り殺された揚句、俺ともどもに火を掛けやがったあいつ等以上のだ!」
「賛成だ――家族を遊び半分で滅多切りにしやがった奴等に、誰が遠慮なんてするかよ」
「ん? 苦しいか、クソガキ? ――だがな、俺達はお前の兄の所為で、これ以上の苦しみを味あわされたんだ! 負の契約者なんてな、死ぬ事以外で役にも立たないゴミでしかねえ!」
「もうよせ。そのガキは死ぬ運命だ」
「そうだな。どっち道裁きで」
ゴトっ! ゴトっ!
「死け……?」
「――?」
「――見苦しい上に醜く、浅ましいよ君達……っと、聞こえないか」
「動くな! 両手をあげて人質を――!? あっ、貴方は!?」




