第20話
「――包囲、完了しました」
「御苦労」
「では、住人の避難の――」
「必要ない。それで潜伏しているテロリストどもに感付かれたら、全てが台無しになってしまう」
「え……?」
「では、始めるぞ--貴様等は突入次第、全てを殺せ」
「そっ、そんな――」
ドスっ!!
「おごっ!」
「悪の存在を許すな――そう言った筈だがな。契約者社会で命が大事とほざくのは、“美徳の恥さらし”一条宇宙の様な現実逃避者のみ……わかったか?」
「――りょっ、了解しました」
「では行くぞ。負の契約者を始めとする、全ての悪の存在を絶やしにだ!!」
「「「了解!」」」
「では、始めるぞ……“大地震”!」
ドゴォォォオオオオオン!!
「なっ、何だ?!」
「うわあああっ!」
「撃て! 言葉を聞くな。奴等は悪、その存在を絶対に許すな!!」
ドドドドドドドドッ!
「ぎゃああああっ!」
「きゃああああっ!」
「まっ、待て! 俺達はギャアアアア!!」
「なっ、何て奴だよ! 一般人まで容赦なく……」
「“紅蓮地獄”の頭目だな?」
「! まっ、待て! ほら、この通り投降す……」
グシャっ!!
「――悪に命を持つ資格はない」
コツ……コツ……コツ……!
「……やれやれ、酷い光景だね」
「酷い? ――素晴らしいの間違いだろう? これこそが平和だ。悪が血にまみれ、倒れ伏す光景――これ以上の平和などあり得ない」
「人の命を蔑ろにすれば、確かにそう言う見方もできるね」
「古今東西、人の権利が額面通りの価値を持った事等、一度としてあるまい……法も権利を捻じ曲げ差別の基準点とし、他人の権利を踏みにじり唾を吐きかける者――それを駆逐する、強い意志と確固たる正義こそが人を人とたらしめるのだ。歴史は常に、そうやって変わっている」
「――その通りだし、今の美徳の方針は君の物。存分に振るうと良いよ」
“正義の勢力、契約者テロリスト組織の殲滅に成功!”
朝一番の見出しは、その一言だった。
「こっちが色々と手間をかけてる間に、向こうは着実に成果上げてるね」
「――北郷さんの成果は、言うなれば虐殺じゃんか。この殲滅戦だって、住民ごと皆殺しにしたって話なのに」
「……仕方ないよ。一般人にとっては住民の惨殺より、契約者の暴走決起の鎮圧の方がインパクト強いんだから」
「うっ……」
勇気側としては、面白くはなかった。
元々勇気が美徳より離反した理由は、正義の虐殺ともいえるやり方故の確執が原因。
――故に鷹久も綾香も、正義の契約者北郷正輝には、あまりいい感情を抱いていない。
「――朝っぱらから荒れてるな」
「あっ、ごめん。見苦しい所を」
「いや、まあ予想は出来てた。さて、始めよう。今日は――」
朝食後のミーティング。
上級系譜のみで行われるそれは、主に正負共同任務についての話し合い。
「――以上だな。じゃあ」
本日の予定を極め、解散。
「俺達は戻るよ」
「じゃあまたね」
現在地は、勇気のナワバリ。
勇気と憤怒の間での取り決めもあり、上級系譜はミーティングの為に互いのナワバリを行き来している。
――ただ、憤怒側には瞬間移動能力者が居ないため、移動には少々手間がかかる事が欠点。
しかしクエイクが開発されてからは、そうでもなく。
「――いやー、空の旅はやっぱここち良いね。宇宙さんが羨ましい」
「契約者社会の空の覇者だからね」
クエイクの背の上で、空の旅を満喫しつつ行き来していた。
「――そう言えば光一君、例の話は?」
「ん? ああ、あれ? ――一応、勇気側の協力とATCシステムの開発で、何とかなりそうだけど」
上級系譜暗殺、そしてクエイク披露式におけるテロ。
立て続けに2度も引き起こされたテロは、着実に不安を募らせていた。
それを払拭するため、憤怒は戦力を増やすことを考慮に入れ、フォールダウン
――その中で、もう一度正の契約者に戻るため、ボランティアや慈善活動を行う善玉の契約者。
あるいは、パワードスーツを予備軍として組み入れる計画を立てていた。
「――契約者、一般人の自警団みたいな物だよね?」
「結果次第じゃ勇気の傘下に、っていう共同事業じゃなきゃ、実現は無理だがな」
「でも、正負友好がなきゃ実現できない事だから、やる価値はあるよ。きっと」
「実際その通り。ただ善玉フォールダウンの場合、荒事に慣れてない奴が多いから――」
「それで、この前の鬼灯君に頼んだあのシステム?」
「そう。“操縦感覚を覚えれば、誰でも扱える機体”――危ないコンセプトではあるけど、自警団に配備するからにはそうしなきゃならないし、悪用出来ないよう来島先生に頼んで、色々と制限は着けるつもりだけど――」
「――大変だね」
「やりがいはあるがな」
ヴィーっ! ヴィーっ!
「ん? ――もしもし……」
――次の日。
「さてと、今日は光一が色々と案作ってるって話だったよな?」
「うん。楽しみだね」
勇気のナワバリの、勇気の集会所。
綾香と鷹久は身支度を済ませ、朝食を食べ終えると一路会議室へ。
「お待たせ。ひばりに光一」
「それじゃ始めようか。光一、早速だけど――」
チャっ!
「え?」
鷹久が見た物。
自身の眼前に銃を――電撃を纏ったリボルバーを構える光一。
その直後、鷹久の視界は反転し、先ほどまでその直後光の線が描かれ――集会所の壁や天井を撃ち破った。
「……大丈夫か、タカ!」
「うっ、うん……」
視界が反転したのは、綾香に庇われたが故。
そう判断した鷹久は――次は、光一たちに目を向ける。
銃口から煙を出す銃を構える光一。
そして、それを庇う様に両手に双剣を構えるひばり。
「――何のつもり?」
「おい、冗談にしては――!」
ガギィっ!
「くぅっ!」
「……」
「おいひばり、一体どうしたんだよ!? あたし達、何かやったのか!?」
綾香はナイフを取り出し、ひばりの双剣を受け止め糾弾する。
――しかしひばりは、何も言わない。
「綾香!」
「…………」
「!」
綾香の援護に向かおうとする鷹久は、銃撃に阻まれた。
ただし、リボルバーではなく自動拳銃のそれで。
タッタッタッタッタ!
「何事ですか!?」
「これは……」
「……!」
そこへ、勇気の構成員たちが駆け付け、その場を見て固まった。
綾香と鍔迫り合いしているひばりと、鷹久に銃を向けている光一。
「ちぃっ!」
光一がその構成員たちに向けて、リボルバーを構える。
「! やめろおっ!! “幻想舞踏”!」
「!」
突如ひばりの眼前から、綾香の姿が溶けるように消え去った。
ドコォッ!
「!?」
その直後に、光一は綾香の体当りを受け壁にたたきつけられ、銃撃はそれ違う天井を撃ち抜く。
「――!?」
ポタ……ポタ……
「くっ……」
「光一君!」
ひばりが援護で銃を抜き、綾香に向けて撃ちだし綾香がそれを回避。
綾香の握るナイフは血で濡れ、光一は左の二の腕からは、血が滴り落ちていた。
「そんな……なんで? ナイフは納め――!」
「ひばり、撤退するぞ!」
「うん。クエイク!!」
『Yes!』
ひばりはクエイクを呼び、光一と共に飛び乗って空へと飛び去って行った。
それを茫然と見送る鷹久と――
「……どうして」
「……タカ」
光一の血で濡れたナイフを握りしめる綾香。
「綾香? ……! ――皆、戦闘準備だ。憤怒はもう、僕達の同胞じゃない……敵だ!」
「「「了解!!」」」
「……光一君。腕、大丈夫?」
「大丈夫……もう治った」
「そう……うっ……うぅっ…………」
「――はぁっ……どうすりゃいいのやら?」




