第19話
クエイクのお披露目式から、一週間が経過。
度重なる大規模テロ失敗故か、大地の賛美者の足跡はぱったりと途絶えていた。
補足だが、パワードスーツは非常に高価で、特に重爆撃装備となるとそう何体もそろえられない物である。
「――テロをするにも、金はかかるからなあ」
「……何気に危ない内容を世知辛い風に言わないで」
そんな中で、光一とひばりは喫茶店AMAGIで、昼食をとりつつ仕事の話。
「さて……これからだけど」
「クエイクの稼働データ収集と、正負共同の任務。でしょ?」
「それについては、プランは立てた。ただ、反対者からの妨害は酷くなるだろうけど、それでも前へ進めない訳じゃあない」
「――それはわかるよ。でも、前に進まなきゃ、何も変わらないと思う」
「その辺りを何とかするのが、俺達の役目だ」
「うん。誰もが笑顔になる世の中を造る為にも、頑張らないと!」
小さく気合いを入れるひばりに、光一は小さく笑みを浮かべる。
「――それでさ、ひばり。今日はもう終わりだし、デートでもしない?」
「悪ふざけは程々にね。でも、最近は色々と忙しいし、一緒に遊ぶ位は良いよね」
「……まあいいか」
半分落ち込み、半分嬉しさ。
そんな複雑さに苛まれつつ、光一はコーヒーを飲みほした。
カチャッ!
「ただいま――あっ、光一」
「よう、修哉に――今日も皆お揃いか」
「久遠さんは、今日もひばりちゃんと一緒なんだね」
「仕事上じゃ、相棒みたいな物だからだよ、江藤」
帰って来た修哉と、それに伴って遊びに来た佐伯姉弟、江藤愛奈に……
「久遠! 頼みがある!」
「!? なっ、なんだよ?」
鬼灯錬が、真剣な顔で光一の前に立ち……
「金貸してくれ!」
「……は?」
「――成程。つまりデートの約束はできたが、小遣い使い切る寸前だったの忘れてたと?」
「そう言う事だ。頼む、契約者なら金持ちだろ?」
「――そう言う訳じゃないんだが……あっ、そうだ。だったら1つ、仕事引き受けてくれないか?」
「仕事? ――俺、契約者じゃないんだけど」
「大丈夫、普通の一般人でも出来る事だから。守秘義務はついてくるけど、給料はそこらのバイトとは段違いの金額を約束する」
「――借金よりはマシか。わかった、それで何やればいい?」
――所変わって。
「――あの、ここって? それにこれは?」
「ここは憤怒の施設で、これはパワードスーツ」
「いや、それはわかってる」
錬が連れてこられたのは、憤怒の地下施設。
そして、眼前には簡素な造りのパワードスーツが鎮座していた。
――それも明らかに20メートルは超す、大型サイズの物が
「――それで、俺何やればいいんだ?」
「改めて聞くけど、ここで見聞きしたことは一切口外してはいけません――わかったか?」
「わかってるよ。それより、仕事は何を――」
「簡単だ。あれに乗って、簡単な作業してくれればいいんだよ」
「は? ちょっと待て。パワードスーツにって、俺免許持ってないぞ」
「大丈夫。許可は取ってあるし、ある意味必要ないから」
「はっ……?」
「――えーっと」
錬は周囲を見回す。
自分がいるのは、周囲が球体の様になっている部屋――先ほど、自分が見ていたパワードスーツのコクピット。
そして自分は、関節部を中継にして、ゴムの様なコードが伸びているプロテクターを着け、設置されている固定台に固定されている。
『どうだ? ATCシステムは』
「ATCシステム?」
通信システムから、光一の声が響く。
――アニメみたいな画像込みではなく、サウンドオンリーで。
『ActionTraceControlシステム。この前発表したクエイク開発において発案され、開発してる新システムで、今お前が着けてるプロテクターを介し、操縦者の動きを機体にトレースさせて操縦するシステムだ』
「つまり、俺の動きをそのまま、このパワードスーツが再現するってコトか?」
『そう言う事』
「――成程、それで免許がいらないのか。考えてみれば、簡素とはいえロボットを操縦できるなんて、感激だな」
『それで、鬼灯に頼みたい事は』
「んじゃ早速……」
意気揚々と、一歩踏み出したパワードスーツは――
ドガシャーン!!
『まだシステム自体が出来たばかりの試作品で、まともに歩く事も出来ない――って、話聞いてから動けよ』
「先に言えよそう言う事は!!」
……見事なまでのすっ転びぶりを晒していた。
『鬼灯に頼みたい事は、這ってでも良いから簡単な作業をクリアして、稼働データを作って欲しいってことなんだ』
「這ってでもって……って、完璧俺噛ませ犬みたいな扱いじゃねえか!?」
『当たり前だ。そうでなきゃ、最先端技術を一般人に触れさせる訳ないだろ』
「うっ――待てよ? 弁償とか言わないだろうな?」
『パワードスーツと、テストで使う物品については保障する』
「――それ以外はダメってコトか。気をつけよう」
とりあえず、立ちあがろうとゆっくりと膝をつき、立ちあがろうと――
ドガシャーンっ!!
……失敗し、またもや横転してしまう。
『大丈夫か?』
「――お前、まさか散々毛嫌いしたことの仕返し、嫌がらせじゃないだろうな?」
『アホ。そのパワードスーツいくらすると思ってんだ?』
「――わかったよ、信用する……給料の方は大丈夫なんだろうな?」
『心配すんな。満足いくと断言できる見返りは用意してあるから、頑張れ。頑張り次第じゃ、上乗せも保障する』
「うし! やってやろうじゃねえか!」
――時は過ぎ。
「お疲れ様」
「――ありがとよ、ひばりちゃん」
テーブルに突っ伏し、うったりとする錬に、ひばりがジュースを差し入れ。
あれから横転を繰り返し、簡単な作業をいくつかこなし、終了。
「ご苦労さん。はい、報酬」
「――日払い?」
「ああっ。デートで使うんだろ?」
「――お前いい奴だな……って、こんなにくれるのか!?」
「ああ。後、重ねて言うけど」
「ここで見聞きしたことは、命に代えても一切喋りません!」
「よろしい」
――数日後
「…………」
「――どうしたんだ?」
「フラれたんだって」
「……」




