大神白夜、正義のナワバリ侵攻
契約者社会のディストピア、正義のナワバリ。
今や最大規模の人口数と土地を保有しながら、外界からは完全に隔離された徹底的な管理社会となっている。
それにも拘らず、正義のナワバリへの移住者は主にサイボーグ義肢を必要とするものをはじめとする……
「弱者には死あるのみ……ゆえに、弱者はくだらん願いを抱く。"人よ、自分より弱くあれ”と」
"そんな願いに踏み躙られ、"絶対悪”という生きた玩具に成り果てた、圧倒的な弱者たちの最後の聖域”
「見違えた物だ。私が最後に訪れたあの時の景色……あれと比較にならんほど大きくなっている」
城塞のような隔壁を見上げるは"傲慢”の契約者、大神白夜
全身を覆う純白のマントを纏い、顔だけを露出させて正義のナワバリの隔壁の扉へと歩を進める。
--その手に、愛用の大剣を携えて。
--その内部、正義のナワバリにて
「あっ、クラウス様!」
「クラウス様、あの……正樹様は、元に戻っていただけるのでしょうか?」
「正樹様、僕たちを見捨てたりしないよね? また、欲望を持った悪い奴らをやっつけてくれるよね?」
政府における仲裁派閥と会見し、その意見を持ち帰ったクラウスを出迎えたのは、不安そうな正義のナワバリの住民たち。
「--まずは、落ち着いてください。仲裁派閥と話し合って、彼らは平和を望んでいる事が重々理解できました。ですので、これから正樹様にご報告して、皆さんに納得していただけるよう……」
バギィッ!!
「--なっ、何事!?」」
そこに突如響き渡る轟音。
そして、クラウスが振り返った先ーーそこに居たのは。
「ぐっ、がはっ……!!」
「ここが正義のナワバリか……思っていた以上に、随分と賑やかだな」
正義のナワバリの出入りを管理していた契約者を串刺しにし、引きちぎった扉を引きずる男ーー大神白夜
「きゃああああああああああああっ!!」
「ふっ、負の契約者だ!! 負の契約者が攻めてきたんだ!!」
「ひいいっ! こっ、殺される!!」
「わああああああああっ!! クラウス様、助けてっ!!」
クラウスに群がっていた住民たちは、白夜の姿ーー特に、串刺しにされた男の姿にパニックを起こす。
そんな中、クラウスが颯爽と住民たちと白夜の間に入り、メタトロンを展開。
「ーー帰っていたか、クラウス」
「どういうつもりですか? 白夜様」
「ーー正義のナワバリに、一番適切かつ理に適った死を与えにきた」
「……なんですって?」
「言っている事がわからなかったなら、言い直してやろう……北郷正樹以外の、正義のナワバリに住まう者。契約者、一般人問わずすべてを殺しにきた。成り行き上……」
串刺しにしていた屍を投げ捨て、血がべっとりとついた大剣を軽く周囲を指すように振るう。
「まずはこの場にいるものから、という事になるな」
「……どうか考えを改めてください。今この契約者社会が大きく変わる可能性が生まれたその時に」
「変わる事はない」
そう告げると、軽く大験を地面にーー自身の足元の空間に突き立て、派手な轟音を響かせながら剣を抉るように動かすと同時に、白夜は姿を消した。
周囲が白夜の姿が消えた事にほっとするも、クラウスはメタトロンに飛び乗り、超感覚の思念を使いながら周囲を見回し、耳を澄ませる
「ーー"奈落への揺り籠」
はっと振り向いたその先ーーこの街の中心に位置する場所に剣を振り下ろす、白夜の姿を見つけたその瞬間。
「--え?」
白夜の大剣が地面に叩き付けられたと同時に、その地点を円状に空間が歪みーー
その町の住人ーークラウス以外の、歪められた空間に触れた者がその場に力なく倒れ付した。
「まさか、そんな……」
メタトロンから飛び降りたクラウスは、周囲を見回しーー
生存者は契約者、一般人問わず1人としていない事を即座に把握した。
「--次はお前だ、クラウス・マクガイア」」
「何故です。何故このような、可能性を否定するような……」
「"力こそがすべて、弱さは罪”……それを信条とする私が、いつまでも黙っているとでも思っていたか?」
「……最初から、こうするつもりだったのですか?」
「いつかは潰すつもりだったとも。可能性を捨てねば明日さえもない弱者の聖域も、現実逃避と弱いもの虐めを繰り返すだけの腐った楽園も。それと……」
そういって、白夜はクラウスに大剣を突きつけた
「可能性とは善悪、幸不幸、大小問わず、万人に存在し、常に衝突する運命にあるもの……それを暴力だ理不尽だと抜かし、無理やり罪とし暴力未満の免罪符にし続け出来上がったのが、欲望なき世界を平和とする正義と、そんな世界でしか生きられん絶対的弱者だ」
「……!」
「正義の思想など、所詮は弱者の被害妄想の繰り返しに侵された物に過ぎん……だから、ここで潰す」