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第142話

「――偶然だな」

「お前程偶然という言葉が似合わん人間を、我は知らん」

「いや、今回は本当に偶然だ――まあ、話をしたいとは思っていたが」


政府直轄地にある、とある大学にて。

正輝はこれからの為の“ある頼み”の為に、単身で訪れていた。


――その行く途中に、白夜と出くわしいまに至る。


「――随分と思い切った事をした物だな?」

「あの時我がやらねば、仲裁派閥に力を持たせることなど出来なかったんだ。多少の無理は覚悟の上だ」

「断言か」

「断言だ。我は方針を検討するとは言ったが、変えるとは言っていない――最も、それだけでも世は揺らいだようだな」


揺らいだと言えば、正義のナワバリの暴動。

正輝の方針検討を反対し、政府に抗議をするほどにまで発展した件。


「よほど、お前が考えを変える事がお気に召さないらしいな」

「……ああっ、毎日のように泣きつかれているとも。比喩ではなく、その物の意味で」

「良かったじゃないか。お前のやってきた事が認められている証拠だ」

「――裏を返せば、それだけ契約者社会の……いや、今の人の在り方が忌み嫌われている証拠だ。正直な話、どういう感情を抱いていいのか未だにわからん」

「それで、撤回するか? 泣きついてくる迷える子羊の為に」


白夜にしては珍しい、冗談めかした口調でそう問いかける。


「まだダメだ。今は彼らをなだめつつ、我は我でこの世界の変革の為に動くのみ」

「――それで、ここにか?」


正輝が赴いているのは、政府直轄地にある大学。

そこでは、社会学や経済学と言った、世の流れを汲む――契約者の恩恵の届いていない学問を手掛ける場所である。


「――そうだ。ここに在籍する社会学者、人間学者と言った方々に契約者社会を題材とした本を書いて貰う様に頼みにな」

「理由は?」

「文明の発達と強い力を求める事に感け、精神性や人間性と言った、人その物の根幹を蔑ろに――いや、見向きもしなくなったが故の限界を破る手助けの為だ」


そこで正輝は言葉を切って、深呼吸する

正輝の脳裏に浮かぶのは、太助のサイボーグ義肢。


「――高度な文明や強い力“だけ”で成長、発展だと言った所で、出来る事等ペテンと弱い者いじめだけだと思い知らされた。これからの成長、発展はこれら契約者の恩恵の及ばない物で齎さねばならん」

「確かに、社会学や人間学は契約者の手で――ブレイカーで発展を促せない学問だ。眼のつけどころは悪くはない」

「――通用するかどうかは別だ。今更どの面下げて、と言う罵倒も……!」


突如白夜の雰囲気が変わり、それを察知した正輝は咄嗟に――


「……どういうつもりだ?」

「……寝ぼけた頭に活を入れてやっているだけだ」


白夜の喉を掴み、その白夜も正輝の首筋に大剣の刃をあてていた


「正義であるお前の対は、傲慢である私だ」

「――? 何をいまさら?」

「故にお前を否定する権利は、私だけにある――私以外の、権利も持たないバカ者の否定などに、意味を持たせるな」

「ならばお前から見て、我の行動は許容できると言うのか?」

「出来る――そもそも、“正しさに理不尽もやり過ぎもない”。それをお前に提示し、未だに行使しているのは、他でもない人だ」


正輝の喉に白夜の大剣が、白夜の喉に正輝の掌が喰い込む。

しかし互いに、表情は微動だにしない。


特に白夜は、契約者最強の攻撃力を誇る正輝に首を掴まれている。

如何に白夜だろうと、この状況で逃れる事も正輝の握力に耐える事も出来ないのに、表情にも雰囲気にも揺るぎはなかった。


「それで、お前は一体どういうつもりだ? 仲裁派閥に一番に接触しているのはお前だが?」

「無駄な犠牲を出すだけのバカどもの味方をする気はない――それだけで不満か?」

「不満だ」


ギリっと、白夜の首を掴む正輝の手に力が入る。

同じ最強格と言えど、正輝の握力には流石に白夜も耐えられないし、耐えられるとも思っていない。


もう少し力を込めれば、十分へし折れるかもしれない――にもかかわらず、白夜の表情に変化等ない。

それどころか平常時その物――そう言わんばかりに、


「――不満だと言った」

「ならば好きにしろ」

「……」


正輝は白夜の眼を――絶対零度の瞳をじっと見据えつつ、正輝の喉を握りしめる。

自身の喉にも、剣が突きつけられながら。


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