第141話
「根深いよ、そりゃあ……」
そう言って、太助は自身の携帯を取り出し、眼の前の端末に差し出した。
端末に表示されている映像――“正義 少年サイボーグ部隊”と書かれた垂れ幕の前で、サイボーグ義肢をつけた子供達と太助が並んでの記念撮影。
『――なんですか、これは?』
「その保護区画で撮った写真。言っておくけど、もう場所は移してあるから」
『場所の特定なんてしませんよ』
「念の為だよ。さっきも言ったけど、これは信用できるか出来ないかで判断していい物じゃないんだから」
『……それなら仕方がないですね。しかし、これは』
「将来戦闘サイボーグ義肢をつけて、僕達の戦力になりたいって子供達だよ――勿論、最近は増加傾向にある」
流石にこれには、アキもいい顔はしなかった。
『……東城さん』
「認可なんてする気はないよ。ただ……」
『これから次第では、分からなくなると……?』
「元々サイボーグ保護区画自体が、反契約者思想や一般人に対する不満や反感の吹き溜まりだからね。過去の暴動を差し引いても、正義に対して否定的な人間に対する印象って、成長だ変化だと難癖つけて、実質弱い者いじめやブレイカーの恩恵しか目を向けない、嘘つきな乱暴者だから」
『お言葉ですが、サイボーグ保護区画は隔離された環境に閉じこもっている所為か、明らかに妙な先入観や偏見が混ざってるじゃないですか。隔離された場でまともな情報が入るとも思えませんし、ワザと不満を増長させるような環境に置いて居る可能性も、ない訳ではないでしょう?』
そうだね、と太助は頷く。
実際サイボーグ保護区画は、差別意識を持つ一般人や利用しようとする大地の賛美者から守るために、場所を隔離してある。
その隔離された環境で何をしているか等、疑われても仕方がない――位の自覚はあった。
「――けどね、彼らを保護する自体が、かなりの反発を呼んでたんだ。当時は僕達も今の様な方針じゃなく、不満のぶつけ先としか認識されなかった時期で、保護環境そろえる事自体困難だったからね」
――その過程で、守るより殺す事に意味を見出した正義傘下だって、少なくないし
太助はそう吐き捨てる様に呟き……その次には、少々顔をほころばせた。
「――けどね。仲裁派閥の話が舞い込んで来た時は、正直な話……安心した」
『安心……ですか?』
「だってさ、仲裁なんて誰も考えもしなかっただろ? ――ブレイカーの恩恵か危険性か、そのどっちかしか見ない奴には出来ない発想だからね」
『それならわかる気がします。技術を使うのはあくまで人間ですので、そこに善も悪もありません』
「うん……だから僕もこの話が成就すれば、過去の事は――」
そこで言葉を切って、今は服の下に隠れているだろう自身の傷に手を添え――
「――水に流しても良いって思ってる」
『そうですか。そうしたい……いえ、そうしなければ』
「そっちも頑張ってね――少なくとも、妙なことでこの話がダメにならない様に」
そう言った太助の態度は、先ほどの穏やかな物から一変していた。
アキは画面越しに太助と目が合い……。
『以前にも思った事ですが……』
「? 何かな?」
『――東城さんは時々、異様なまでに冷たい目をする事がありますね?』
「うん……発作みたいな物だよ。時々ね、自分でも怖くなる位に人が憎くてたまらなくなる事があってさ……まるで、僕じゃない怪物が僕の中に住みついてる気分だよ」
『……それが表に出ない様、私も全力は尽くしますよ』
「ありがとう――話が上手く言ったらさ、君の所の――クエイクだっけ? あれの医療系モデルの開発プラン、僕に組ませてよ」
『――その時は、喜んで』




