第140話
「まあ、君にしか出来ない事だって言うのは認めるよ。君は負の契約者側でありながら、僕や正輝様と個人的な繋がりがある」
『正確には、協力者――ですよ。感情を失った私に、ブレイカーの起動は出来ませんので』
「まあ今は僕達も、負の契約者を敵とみなす事や、テロリスト相手でも犠牲を出す様な手段を取る事は禁止されてるから、この事で責められる事はないけどね」
発表以降、正輝は戦闘部隊に対しての説得の後に、それらを告げた。
『反発は出たのではないですか?』
「出たよ。戦闘部隊から一般市民まで、大量にね――穏健派が少なかった事が痛手になる日が来るだなんて、思いもよらなかったよ」
『……私はそのやり方で戦闘部隊ならばともかく、まさかナワバリの住民達までもここまでの一枚岩になっていたなんて、思いもよりませんでした』
「そりゃあそうだろうね。報道関係者が手掛けてる正義の情報と言えば戦闘部隊メインで、住民の様子なんて知ろうともしてない――というより、見向きもしてなかったんだから」
正義のナワバリに関する事で、メディア経由で手に入る情報はどれも戦闘部隊の事ばかり。
今までナワバリの住民がどういう生活をして、どういう考えでその場にいるのか等、報じられてもいなければ、気にされた事もない。
住民達に関する事が報じられ始めたのは、ここ最近の事である。
『――ですから私も改めて貴方達を詳しく知ろうと思い、こうしてハッキングした訳です』
「僕がいたからよかったようなものの、他の奴が出たらどうするつもりだったのさ?」
『このラボのセキュリティ内容は確認済みです。私も流石に、他の誰かが出るやもしれない状況でこんな事をする程、間が抜けてはいませんよ』
太助は必要な事は全部自分でやる主義の為、この研究ラボに他人を入れる事等殆どないし、太助が留守中の間は正輝でも入る事は出来ない。
「で、サイボーグ保護区画に行きたいって話だけど……」
『まずは、ある程度話が通じる貴方と、北郷さんを知ることから始めようと思いまして――貴方の身に起きた事を目の当たりにはしておきながら、失礼になるのはわかってますが』
「いや、そうじゃなくてね。うーん……」
そこで太助が難しい顔をして、唸り始めた。
「……ここから話す事は、絶対に誰にも話さないって約束してくれるかな?」
『――わかりました』
「よし……あそこは、僕と住民の家族以外の五体満足の人間が踏み入る事を、忌み嫌ってるんだよ。だから僕の助手として紹介しても」
『歓迎はされない、位で済むかどうか……ですか?』
「そうだよ。更に言えば、あの発表で一番激怒してるのもあそこの住人だからね。最近は戦闘用サイボーグ義肢をつけて、正義の戦力に加えてくれって懇願が絶えなくてね」
『――軽く見ているつもりはありませんでしたが、随分と根深い物があるようですね』




