第137話
カチャッ!
「……!」
「あっ、ボス」
漆黒の空間に、突如光が差し込んで修哉の眼がくらむ。
「よう、ご苦労だったな。夜叉」
「いえ。それで、状況はどうですか?」
「ぼちぼちだよ」
ドアが閉じられ、修哉の前に来訪者――朝霧裕樹が腰を下ろす。
その後ろでは、夜叉も立ち上がって直立不動の姿勢を取っていた。
「すまないな。本当はもっと早く来たかったんだが……」
「いえ、俺も……それにしても、来たのわからなかったですよ」
「なんだ? もう使いこなした気で居るのかよ? っと、それよりも……」
そこで裕樹が表情を引き締めた。
「……俺、どうなるんですか?」
「ココに軟禁か、契約者になるか――は聞いただろ? これは政府の特例項目だから、俺も逆らう事は出来ないんだ」
「その辺りは聞きました。それで……俺が契約者になるのにも、ユウさんに決定権があるって」
「ああそうだ――けど正直な話、今不安要素を抱えたくない」
不安要素と堂々と言われた事に顔をしかめたが、光一が串刺しにされた光景を思い出し、否定しきれなくなった。
それで“今”という言葉で、修哉はふと疑問を聞いてみることにした。
自分がこうしている間、情報こそは言ってはいる物の、肝心な自身の周りの人達については一体どうなっているのか。
「――あの、錬や和人、紫苑さんは、あれからどうなってるんですか?」
「今は元の中学校で以前どおりの生活だ。ただあの時に関する記憶は、催眠能力者を使って消した上で、お前は引っ越したって疑似記憶を植え付けた上でな」
「……あっ、やっぱり」
とりあえず、変な事にはなってないことに安心する。
と同時に、裕樹はある写真を取りだした。
「これは……ん?」
「光一“らしい”人物が、今仲裁派閥に派遣されてる傲慢傘下の契約者達で見つかった」
「傲慢って……」
「その辺りは目下調査中。憤怒に今、仲裁派閥と接触できるだけの余裕がない」
仲裁派閥。
正義と勇気の対立を仲裁し、今以外の新しい方針を作ろうと言う考え。
そしてそれを受けた正義に、世を揺るがす発表をさせるきっかけでもある。
「その仲裁派閥ですけど……今世はどうなってるんですか?」
「新聞の通りさ。ただこれは明日になってわかる事だけど、正義側が仲裁派閥に表敬訪問の使者を送った。これで明日には正義は、あの発表について前向きに検討してる事が明るみになるだろうが……」
「――それなんですけど、本当なんですか? あの方針を変えることを反対してる奴等がいるって」
「本当だ。戦闘部隊だけじゃなくて、ナワバリの住民たちにも暴動起こせる位にな」
――新聞を読んでいれば、嫌でも入ってくる情報だった。
戦闘部隊ならともかく、自分たちと同じなんの力もない一般人でありながら、正義のやり方に賛同している事
あんなやり方が自分勝手などではなく、ちゃんと自分たちと同じような人間が大勢支持し、その上で存在しているという事実がある事に、不快感を感じずにはいられなかった。
「――思う所はあるだろうが、それは表に出すなよ」
「けど……」
「それじゃ何のために正義が変わろうとしてるのか、わからなくなるだろ。忘れろとも納得しろとも言わないが、事実として認める――位はしてくれ」
「……言いたい事はわかりますよ、けど」
「だから、忘れろとも納得しろとも言ってない。ただ今は、人はどう変われば正義はあんな方針を取らずに済むか――それを考えなきゃいけないんだよ。っと、そろそろ時間か」
裕樹は時計を見て、立ち上がる。
「あの、もしかして相当きつい合間を……」
「機の巡りなんてあっと言う間さ。ボサッとしてたら、簡単になくなっちまう」
「……」
「さて、と……」
裕樹がポケットから、あるモノを
そして、一本の刀を取り出し修哉に差し出した。
「これは……刀に、ブレイカー?」
「ああは言ったが、何もしなきゃ変わろうにも変われんから、仮契約は許可する。それと夜叉」
「はい、ボス」
「引き続き頼む。次来る時までには、本契約の許可が出せる様にしといてくれ」
「畏まりました」
恐る恐る受け取ったそれを、まじまじと眺める中……
「それと言う事聞かん様なら、多少手荒な事をしてもかまわんからな」
「ちょっ!?」
「畏まりました」
「心配しなくても、あっと言う間さ――変わるべきなのは正義だけじゃないって、自覚するまでな」




