第16話
『契約者社会の始まりから3年。世界を救った子供たちは、時が立つ度に立派になり世の発展、向上に従事し、様々な面での目覚ましい活躍を成し遂げるに至りました。そして本日も、後の世に多大な貢献を成してくれる成果を目の当たりにでき――』
「――あの人どういう人なんだ?」
「鬼灯君、新聞位読みなさいよ。井上弥生、現政府首相であり、契約者社会の政治的根幹を築き上げた、“契約者社会の母”って言われてる人よ」
「一般人側で1番の女傑ってコトかあ……すごいなあ。ボク、憧れちゃうよ」
「確かにすごいよね。実際大罪、美徳の誰からも慕われてるって話だし、首相官邸って衣食住に至るまで契約者の最新鋭技術が、提供されてるそうだから」
「その代わり、大地の賛美者を始めとする反契約者思想の目の敵にされてて、常日頃から暗殺や襲撃の危機にさらされてるって話だけど」
プログラムの1つ、首相祝辞の最中。
首相の近くでは朝霧裕樹が控え、周囲は久遠光一と支倉ひばりが目を光らせ――
彼らの指揮下の契約者達は、緊張を解かない。
『――――』
中央では、お披露目式の主役、クエイクが鎮座している。
人工知能、武装、フレーム、駆動機構、装甲、エンジン――稼働データ次第で、あらゆる面のこの先の技術の行方が決まる。
そう言っても過言ではない、未来を担うロボット。
「ありがとうございました。では次は……」
『ごふっ!!』
光一のアナウンスを遮る様に、聞き覚えのない声が。
ふと見た先では……
「ぎっ……」
「甘い」
首相の後ろで、首相を拘束しようとする1人の男。
その腹に、ユウの足が喰い込んでいる光景。
――その男は地面から伸びる様な形となっていて、下半身から下は地面と同化していた。
「周囲を警戒しろ! 来場者の方々の安全を最優先に! ひばり、こっちに」
「うん!」
即座に光一が周囲の部下たちに指示を飛ばし、周囲は即座に対応。
ひばりも双剣を取り出し、光一に駆け寄った。
「――クエイク、戦闘モード起動しろ」
『Yes.My master!』
ボゴォッ! ボゴォッ!
「! 下から!?」
「クエイク、飛べ!」
『Yes!』
突如、地面が割れる様に、あるいは巻き上げる様に隆起が起こり、それが溶ける様に、あるいは崩れる様にと様々な経過を経て――人へと変貌した。
「へへっ、貰ったあっ!!」
「やるぞ!」
数人が泥を握った手をかざし、手が徐々に泥と同化し――クエイク向けて伸び、それが絡みつく。
「クエイク!」
「ははっ、開発研究ご苦労だったな。負のクズども!」
「これは俺達“土塊の墓守”が正しく有効活用してやるよ!」
「……フォールダウンかよ」
フォールダウン
量産型ブレイカーは、その契約者の最も強い感情を契約条件として稼働する。
その機能故に、元々正の契約者だったが負の契約者に堕ち、それを認めず様々な差別行為を行う様になった者達の総称である。
それらは犯罪者に対する暴行、殺害。
あるいは負の契約者に対するリンチ、強姦等、法や秩序を抱げた差別行為、暴力が主であり、反契約者思想を助長させる要素ともなっている。
「フォールダウンと呼ぶな!!」
「俺達は正の契約者だ! ブレイカーの誤作動程度で、どいつもこいつも蔑みやがって!」
「――そんなだから……まあいい。クエイク、振りほどけ」b
『Yes!』
光一の指示を受け、クエイクは降下し着地。
そのまま一歩踏み出し、自身に絡みつく泥の腕を――
「なっ! うっ、うわあああああっ!」
「ひっ! わっ、わああああああっ!」
纏めて抱えつつブン回し、地面にたたきつけた。
「うっ!」
「怯むな! いけえっ!」
数名が地面に手をつき、地面を隆起させ土の人形を構成。
あるいは土を身体に纏い、クエイクに負けず劣らずの巨人へと変貌。
「おいおい、俺達もいるんだがな」
「殺しはしないけど、反省してくださいね」
光一が電撃を纏わせたリボルバーを構え、民間に被害が出ない角度で“超電磁砲”を撃ち、土人形達を薙ぎ払い――。
「“属性武装・凍剣”」
両手の双剣に冷気を纏わせ、自身に向けられた土巨人の拳を回避し――
それを突き立て、そこから徐々に凍らせ、砕いた。
観客席でも、民間人に被害は出てなく、程なく鎮圧され――
「ぐっ、くうっ……!」
「大人しく投降しろ。今ならそんなひどい事は――」
ドオォォォオン!
「!」
「何!?」
ドドドドドドドドッ!
「ぎゃっ!」
「ぐあっ!」
突如の爆発。
それに次ぐ銃撃で、襲撃して来たフォールダウンが撃ち抜かれる。
「ヘヘヘ、ゴ苦労ダッタナ。バケモノドモ」
「謝礼ダ。楽ニ広大ナル大地ノ贄ニシテヤルゼ」
「サーテ、コノ場全員皆殺シニシテ、ロボット奪取ダ」
爆発による粉じんの中から現れた、3体のサイボーグ。
片腕がバルカン砲となっており、発射したばかりと主張する様に銃口から煙を出しているそれを、光一達に向け構える。
「――今度は大地の賛美者のサイボーグか。千客万来だな」
「そんな事言ってる場合じゃ!」
ドドドドドッ!
「!」
観客席で、銃撃や爆音が響き渡る。
「オオッ、始マリヤガッタカ。ギャハハハ!」
「オーオー、死ンデイキヤガルゼ!」
「タマンネエヤ! 契約者ノ家畜ドモノ断末魔ハヨ……!」
その光景を見て笑うサイボーグ達は、銃撃によって阻まれた。
光一とひばり、合わせて4丁の銃によって。
「下種な意見どうもありがとう。反吐が出る」
「――貴方達、人をなんだと思ってるんです!?」
「人? ギャハハハ! ドコニ人ガ居ルッテ!? 契約者ハモンスター、異形ノ力ヲ持ッタ人類ノ天敵、悪魔ダ! ソノ庇護下ニイルヤツハ、人間ヤメタ家畜ダ!」
「俺達ガヤッテルノハモンスター退治ダ! カヨワキ人々ヲ、異形ノ力デ害成ス貴様ラ契約者ッツーモンスターノナ!」
「テメー等契約者ガ、罪ナキ人々ニヤッテキタ数々ノ非道、棚ニアゲテンジャネーヨ!」
「――否定はしないが、だからってお前らのやった事を許せってのも無理だな」
光一がジャケットから薬品入りの小瓶を取り出すと、ひばりにジャケットを投げ渡す。
小瓶のふたを開け、その薬品をくいっと飲み干し――
「――ひばり、観客席頼む」
「え?」
「こいつらは俺がやる。観客席は手が足りないかもしれないから」
「うん、わかった」
ひばりが駆けて行くと――
「――正直、ひばりにはあんま見せたくないからな」
光一の顔、腕等、肌が黒く染まっていく。
その上に顔は黒い獣の様な形状の、両腕は二の腕刃が伸びている形状の装甲が構築され――
「“雷凶獣”での戦いは」
全身が黒に染まり、雷光を纏う漆黒の獣人となった。
「“属性武装・火銃”!」
「うああっ!」
「ぎゃっ!」
ひばりの能力“属性武装”
光一と同じ元素操作をベースに、自身の武器に属性を付加する能力。
「死ねえバケモノ!」
「広大なる大地の贄となれ!」
倒れたテロリストの後ろから、右腕がチェーンソーになっている男と、マシンガンを構えた男がひばりに向け、武器を構える
「!」
ひばりが両手の武器に、今度は冷気を纏わせ構える――
ガンッ! ガンッ! ――ドサッ!
「え?」
「ふぅっ……何とかなったわ」
「――寿命縮んだ気がしますよ」
いきなり倒れたテロリストの後ろ。
武器の残骸を振り抜いた体勢の、紫苑と修哉が。
「佐伯さんに、天城君!?」
「俺達もいるぜ」
恐る恐る、物陰から錬、和人、愛奈が姿を現す。
「江藤さん達まで……」
「あははっ……また巻き込まれちゃった」
――苦笑いしながら。
「――けがはない?」
「なんとかね」
「佐伯さんに天城君、助けてくれた事はありがとう。でも危ないよ、素人があんな事して……」
「うっ……それは、ごめんなさい」
「とにかく、出来るだけココで身をかがめて――」
「あっ、ここにいたのか。ひばり!」
その声に、はっとひばりが振り向く。
2人の男女、夏目綾香と吉田鷹久が、テロリストを駆逐しながらこっちに向かっていた。
「綾香ちゃん、吉田君!」
「お待たせ」
「綾香が寝坊した所為で慌てて来てみれば、ビックリしたよ」
「タカ、余計な事言うな!」
「あはは……とにかく」
「わかってる」
「僕達も正の上級系譜。これを黙って見過ごせないよ!」




