第128話
勇気と憤怒の活動メインは、混乱の鎮圧と対談になっていた。
そもそも、正輝が方針の検討を考えていると言うなら、またとない好機。
上手くいけば、正義と勇気の二枚看板という、元の鞘に戻るやもしれないし、今度こそ協力し合っての秩序を形成できるかもしれない。
しかしそれは、“大地の賛美者”を始めとする反契約者思想の好機でもあった。
そもそもやり方がどうあれ、秩序の要を担っていたのは他でもない正義。
それが揺らいでいると言うなら、活動を起こすにはこの上ない機会とみなし、各地ではテロが発生し、それが正義の戦闘部隊の反発気運を高める悪循環を齎していた。
「――ふぅっ」
そんな中で、綾香は一軍を率いて、テロの鎮圧に赴いていた。
「綾香さん、テロリストたちの護送の手配、撤収準備整いました」
自身の副官を務める下級系譜の報告を受けて、綾香は整列する部下達に――
「よし、んじゃ次行くぞ!」
「「「了解!」」」
次へ向かう為の檄を飛ばした。
そして――
「――ふぅっ」
「お疲れ様」
「タカも、お疲れ」
ある程度鎮圧した所で、綾香は交代要員にバトンタッチし、休憩に。
「どうだった?」
「――あっちもこっちもうじゃうじゃだ。無人機メインだったし、向こうも本気らしい」
「そっか」
余談だが、鷹久は後方で事務仕事。
流石に上級系譜が2人して留守、などとそう頻繁に会ってはならないための配慮である。
「――ただ単に、綾香が事務仕事嫌いなのもあるけどね」
「あたしは前線に出て皆を引っ張る方が性に合ってる!」
「だから僕が留守番しなきゃいけないんだけどね」
「それよりタカ、正義の方はどうなってる?」
「――相変わらずだよ。皆北郷さんに、発表の撤回を求めてる。それに発表したのは、方針の検討をするって言うだけで……」
「――行動自体は止めてはいないんだろ? ひばりでも凶悪犯呼ばわりしかね……いや、間違いなくすると断言できる奴らなんだ。この程度で止まるなんて思えない」
綾香も何度か正義と揉めていた為に、相手の出方くらいはわかるようになっていた。
その経験上、正輝があんな発表をしたからと言って、動揺する者等正義にはいない。
それに九十九が居ないとはいえ、それに近い思想の持ち主は決して少なくはない。
一般人達にも、本気で支持している物は多く、発表の撤回を求める者達が正義の本拠地付近でキャンプを張っていたり、政府に抗議など行っていて、ちょっとした社会問題にまで発展させていた。
「――まさかここまで、正義を本気で支持してる奴が多いなんてな」
「……流石に僕も驚いたよ。けどユウさんから聞いた話もあるから、中には罪悪感から……何て人も居るかもしれないね」
「あたしだって、正義に守られてる人達まで否定する気はねえし、金の為に東城先生やサイボーグ義肢装備者達を売った奴等も許せないけど……」
「綾香、僕達はそう言うのもひっくるめて、変わらなきゃいけない……そうでしょ?」
「……そうだな。人が変わろうとしたから、正義も変わろうとしてる……だったらその意思、無駄にしちゃいけない。今度こそ、間違えないようにしないと、だな」
「うん――さて、と。今日はもう疲れたし……何?」
そこで綾香が、笑みを浮かべながら鷹久を見つめていた。
「なあタカ、慈愛に連絡しないでいいのか?」
「慈愛? なんで?」
「ん? 愛しの蓮華ちゃんに、連絡しなくていいのか?」
「いっ……!? ちょっ、綾香! 何言ってるのさ!?」」
「とぼけんなよ。正義と勇気が決裂する前の花火大会で、仲良くなったそうじゃんか? それに今でも、ちょくちょく連絡は取り合ってんだろ?」
「そう言うのじゃないよ! ただ黛さんは同じ上級系譜で、話もあうから……」
「ま、確かに生真面目なとこそっくりだよな。で、どうなんだよ?」
「うっ……ん?」
余談だが2人が居るのは、勇気の詰所の設置している休憩所。
周囲も良いゴシップが見つかったと、注目している中――
「ちょっ、何してるんだよ!?」
「いや、何って……」
「いつも通りの勇気名物、吉田さんと夏目さんの痴話ゲンカが始まってるんですから、注目しない方がおかしいでしょ」
「しかもなんだか、興味深い内容が混ざってますし」
「上級系譜は重婚OKですが、程ほどになさってくださいよ?」
「スケベー」
「なんでそんな話に……って誰だよ!? 今スケベって言ったの!!」
--数分後
「なあタカ、光一見つかったか?」
「まだ全然。憤怒の方でも探して入るみたいだけど」
「ひばり、無茶してなきゃいいんだがな」




