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第126話

「――しかし、北郷もまた思い切った事をしたモノだな」

「時には思い切った決断も必要ではあるが、しかし……」

「……せめて、僕達に相談の一言位あって欲しい物だよ」


我々“正義”は、方針の見直しを検討する必要が出てきた。


傲慢の連戦連勝のあおりを受けた政府議会で、正義と勇気の和平を提案する派閥が現れた。

それをきっかけとして、北郷正輝が発表したのがそれだった。


当然それは、正義の戦闘部隊のみならず、正義のナワバリ、そしてサイボーグ義肢装備者保護区画の住民達と言った、正義の方針に賛同する者たちに驚愕を与え――。


「正輝様、どういう事ですか!!?」

「欲望を斬り捨ててこそ生まれる真の平和は、一体どうなると言うのです!!?」

「どうかお考えなおしを!! 正輝様がそんなことをおっしゃられては、我等どころかこの世界は一体どうなると言うのですか!!?」

「正輝様ー! 欲望を持った悪い人達やっつけるのやめないでー!!」

「我々人類の未来は、欲望を斬り捨てた正しき世界に他ないのです!!」


正輝に発表の撤回を求める一団が、正義城に詰め寄り――正義のナワバリはパニックに陥っていた。


「皆さん、落ちついて!」

「――! 東城先生……! 先生はこれをどうお考えなのですか!?」

「オレ達、正輝様や東城先生に見捨てられたら、一体どうやって生きて行けばいいんだよ!!?」

「落ちついてください! 僕の方から……」

「なあ東城先生! どうか先生の方から、正輝様を説得してください!!」

「正輝様に何があったかは知りませんが、これではまたあの混乱に逆戻りです!! 政府なんかお気になさらないよう!!」

「だから、話を聞いてください!! 今から事情を説明します。正輝様は皆さんを、そして僕達を裏切った訳ではありません!!」



「――太助君まで駆りだして、ナワバリの方々を説得に回ってるようだけどね」

「最早今更だ……正義の方針以外で生きる事が出来ない人間が多くなり過ぎた」

「だが、そう言う訳にも行くまい……経過はどうあれ、政府に見てとれる変化が現れた以上、一般人にも少なからず影響はある――その行方次第では、正義も変わらざるを得ない」

「正義の方針も、土台あってこそ――だからね。けれど」


やり方はどうあれ、それが秩序の要になっていた事は事実。

今は正義のナワバリ内部の騒動だけではあるが、直に正義の手が緩んだ事を利用しての暴動、テロも起こる事は予想等十分にできる。


「――だが、北郷はあえて一石投じた」

「ああっ……もうどれが正しいか間違いかに意味はない。ここからは、全ての人間の行動、思惑、願いが複雑に絡み合ったその先にしか、答えはない」

「そうだね……全ての人間が答えを左右する。時代ほど我儘で自分勝手な物はないかな」

「――違いないな。それより天草、本題はそこではないのだろう?」


王牙の指摘を受け、昴はメガネの淵に指を当て――


「物は相談だけど……この先はね、僕達は動くべきではないと思うんだ」

「……どういう事だ?」

「この先は、僕達ではなく人が選ぶべきだと考えてるのさ」

「……正義のナワバリの事情を考えれば、とてもまともな未来が待つとは思えんぞ」


――そこで昴が目をすっと細めた。


「――別に僕達は一般人の召使でも奴隷でもない筈だよ? 我儘まで聞き入れる理由はない筈……違うかい?」

「――お前はお前で、思う所はあったか」

「間違ってるって言うだけで叩き潰していいのなら、正義が正しい何よりの証拠――間違ってると言うのなら、他人を殺さず済む方法を提示してからだよ」


そう言って昴は、議題が報じられた新聞を、2人に差し出す。


「人は他人を殺さなきゃ幸福になんてなれない――それが今の人さ」


そう言って昴は席を立つ。


「――すまないが昴、お前の提案に私は賛同できない」

「そうかい?」

「私は“未来”を司る美徳、誠実だ。私の力は迷える者に導を授ける為の物――故に私は、この混乱で進むべき道を見失った者たちを、救済せねばならん」

「……なら好きにしたまえ。君は、王牙君?」

「ワシもナワバリの住民達と話してみるつもりだ。誰が何を目指すのも、何を欲しがるのも自由……人道、仁義に背かない限りは、許容出来る様にな」

「そうかい」

「――小奇麗で居させるより、少々汚れさせた方が人は変わる物だからな。それにワシは熱血根性が心情、泥まみれにならずして貫ける物か」

「なら結構――凪君も鳴神君も、自分の成すべき事を理解している様でなにより」


そう言って、昴はその場を――


「――やれやれ、お前も不器用な男だな」

「僕は不器用な位でいいのさ、鳴神君。知識は不器用でないと、最善以上は出せないからね」

「――王牙、昴は不器用ではない。器用にしてないだけだ」

「凪君、それは買いかぶり過ぎだよ」


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