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第15話

「――勘違いしてもらっては困るな」

「何がだ?」

「僕が君に賛同したのは、君の厳しさが人である事の意味も、命の価値も風化しきったこの時代に必要だと判断したが故――だがその厳しさが差別意識ゆえだと言うなら、拒否せざるを得ないな」

「確かに我が正義、我が行いを非難する者は数多い。だが正義で救われた者達、我が正義を必要としている者達も要るのだ。ならばその者達の為にも、貫くべきだと考えている」

「――ならいいが、法律も善悪も差別の基準ではない事だけは忘れないでくれたまえ」

「自我なき男かと思いきや――」

「自我どころか、そもそも人格自体が、環境によって作られた――つまりは、与えられた物にすぎない。自分らしさなんて、言葉と偏見と決めつけだけの空虚な物でしかないさ。しかし――」

「?」

「度が過ぎるようなら、やめさせなければならない物である事も確か、か……宇宙君についての判断は僕が下すけど、構わないね? 北郷さん」

「――好きにしろ」




光一復帰から2週間後。

その間、復帰早々の光一とひばりは慌しい日々を送り、とある準備に帆走していた。


「新型エンジン“クリア・レヴ”に装甲機構、フレームに兵装。更に最新の人工筋肉機構――今憤怒の技術で成し得られる最新鋭技術を用い、作り上げた量産試作型戦闘用ロボット“クエイク”です」


クエイクの完成、お披露目式。


時期量産主力兵器になりうるそれは、完成したと同時にお披露目もまだだと言うのに脚光を浴び、そのお披露目式には首相が視察に来る事になっている。

量産体制が整い次第、首相官邸にも配備する事を考慮するために。


「漸くの完成か。ご苦労さん、アキ」

「まだまだ、量産試作機が出来ただけです。ここから稼働データを取って、量産体制に移行する訳ですから」

「じゃあガンガンデータとって、早く勇気側にも配備できるようにするか」

「そう簡単にいかないから、久遠さんはここにいる訳でしょう?」

「――そうなんだよね」


憤怒の最新鋭技術満載のロボット。

それだけで狙われる要素など、たっぷりである。


それこそ奪取から破壊まで、大地の賛美者に正の契約者側と、狙われる理由にも相手にも事欠かない。


「――所で来島大先生」

「ええ。こちらを」

「ん。予算上乗せしとくよ」

「感謝します」



その次の日。


「お待ちしておりました。首相」

「ええ――久しぶり、ユウ君。大きくなったわね」

「首相もお変わりない様で、何よりです」


政府首相、井上弥生。

契約者の保護を唱え、契約者の社会的立場の確立と契約者社会の政治的根幹を築き上げた、一般人側の契約者社会の立役者。


温厚な雰囲気の漂う年配の女性は、笑顔でユウと握手。


「では、ご案内いたします」

「ええ」


用意した車の戸を開き、首相を乗せユウも乗り込み、出立。


「――宇宙君と同盟を結んだって?」

「え? ええ」

「……確かに、それが一番なのかもしれないけど」

「? ……何か、不満でも?」

「そうじゃないわ。ただ――」



――一方。


「すごい人だかりだな」

「やっぱり戦闘用とはいえ、最新ロボットのお披露目となれば見たがる人って結構いるな」

「そうだね。実を言うと俺も、ワクワクしてるから」

「男の子って、こういうの好きなんだね」

「そう言うものよ」


お披露目会場。

普段、陸上競技場として使われているスタジアムの観客席は、人であふれかえっていた。


「なあ修哉、やっぱり光一たちに頼めば良かったんじゃね?」

「そう言うの良くないわよ。退院したばかりなのに、忙しそうだったじゃない」

「姉さんの言う通りだよ、錬」

「うっ……」


佐伯姉妹に諭され、尻込みする錬。


「あっ、あれ支倉さんじゃない?」

「え? どこどこ?」

「ほら、あそこ」


愛奈の指さした方向――つまり、スタジアムの中心。

そこで、護衛らしき黒服の契約者と思われる面々に囲まれ……


「…………」


遠目にも緊張している事がわかる様子で、正装したひばりが立っていた。


「あははっ、緊張しちゃって。可愛いね」

「そうね――ところで、支倉さんだけ?」

「そう言えば、光一が居ないね?」

「2人のボスの姿も見えねえな。何やってんだ?」

「政府の首相が視察に来るって話があるから――あっ、あそこ」


今度は修哉が指さした方向に、4人は目を向ける。

憤怒の契約者、朝霧裕樹と――ニュースなどで見覚えのある、年配の女性。


首相がユウに護衛されつつ、来賓席へと案内され席についた。


「VIPと顔見知りって、すごいね」

「……てか大丈夫なのかここ? 前みたいなテロとか起こりそうな気がしてきた」

「ちょっ、縁起でもない事言わないでよ!?」

「すっ、すまん……ん? おい、あれ!」


ゴォォオオオオオオオ!


「なんだ?」

「まさか、あれが?」

「誰かのってるぞ?」

「こっち来るよ!」


鉄の塊を、人型につなげた様なフォルムの6メートルはありそうなロボット。

それは存在をアピールする様に、重量感の在りそうなそのフォルムからは、想像できない程軽快に空を飛び、複雑な軌道を描いて――


スタジアムの中央に着地した。


「いやー……大空を駆け巡るダンス、最高だったぜー」

「お疲れ様、光一君。はい」

「ん? ああ、首相もご到着――ここまでは予定通りだな。さて」


ひばりが駆け寄り、差し出したマイクを光一は手にとり――


「えー……大変長らくお待たせしました。それでは、我ら“憤怒”の開発した新型ロボット“クエイク”のお披露目式を始めたいと思います!」




「――よし、来たぞ」

「――手はずは?」

「――整っている。自ら作り上げた兵器を墓標に、広大なる大地の贄となれ。悪魔ども」


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