第123話
「……ふぅっ」
九十九と大輔、両人格との会話を終え……井上弥生は、ため息をついた。
中原大輔の思想は、純粋で尊い物――であるにも関わらず、淘汰された。
椎名九十九の思想は、常軌を逸した強硬姿勢――であるにも関わらず、受け入れられた。
おかしな事ではない――結果を出したのは、後者なのだから。
どれだけ反対しようと、どれだけおかしかろうと――これが最善手である事は、ゆるぎなき事実なのだから。
「お疲れのようですね」
「――大神君も、でしょう?」
「突かれた内にも入りません――それで」
「――今はちょっと整理する時間が欲しいから、黙っててくれない?」
「わかりました」
声をかけた白夜に、そう言っておいてなんだが――そう思いつつも実際の所、首相にはすで1つの結論は出ていた。
“人は既に平和など望んではいない”
遺恨は増え過ぎている――犯罪契約者然り、大地の賛美者然り、正義然り、一般人然り。
そして……
「諍いがなくなっては困る――と言う輩も、既に居るやもしれませんね」
その心中を見抜いたのか、白夜がそう呟いた。
亀裂、諍い、戦争――それらは必ず何らかの利害が絡む以上、それらを利用しようとする事等今に始まった事ではない。
契約者、大地の賛美者、正義――これらを敵とみなしている者は、敵視できなくなる状況を忌み嫌うかもしれない。
敵討ち、敵対心、嫌悪感。
それらにとり憑かれた者が、正と負の友好を望む訳がない。
「――第三次世界大戦は、終わってなどいない」
「……!」
「我等14人は、表面の戦いを止めただけ――あなたは、新たな時代の地盤を創り上げただけ。人は新たな戦いの火種を求め始め、それを誰よりも早く触れた北郷正輝は逸早く行動を起こし、一条宇宙もそれに続いた」
そう言って、白夜は口元を歪めた笑みを浮かべ――
「時代は常に、意思の貫き方を知っている者を選ぶ――それだけの話」




