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第120話

「――やっぱ流石に、そう簡単にはいかないか」

「簡単にいく――等と思っているから、誰も彼もが軽々しいのではないですか?」

「まあ違いないっちゃ違いないけどな。けど……」

「もしくは、黄金色か山吹色ではない人は、赤く染めなければならない――ですか?」


何を言いたいのかは、光一にはよくわかった。


「――気持ち悪い絵柄の上に、斬新な人種差別だな」

「今の人等、そう言う物でしょう。山吹色や黄金色は喋りませんし、喜怒哀楽もなく考える事もしない――ただ得ばかりを運ぶ、都合がいいだけの存在ですからね」

「ははっ……笑えるのに全然面白くねえってのは初めてだな。人の基準がそういうのだったら、確かに欲望が邪魔だって考えが主流になるのは……」

「主流どころか常識でしょう? ――北郷正輝を殺せば、契約者を殺せば、井上首相さえ殺せば、そんなたらればに固執し続けている事が、何よりの照明の筈ですけどね」


――限界は自分たちで証明している。


賢二はそう告げ、ウロボロスを振り上げ――そこで止める


「それに、君は知っておいたほうがよろしいでしょうね」

「?」

「既に正義が今に至る経緯は、大神君から憤怒には伝わっています――しかし、ヘルオンアースに収監されている椎名九十九が、誰も予想だにしなかった思わぬ力を手にした事」

「――!」

「椎名九十九は、本来は中原大輔と言う守る正義を掲げた男でしたが、彼は守るべき者達に売られ、今の滅ぼす正義の尖兵へと変貌……いえ、そう表現するのは正しくはありませんね」



――所変わり、ヘルオンアース特別独居房。


「……久しぶりね、九十九君」

「ええ……お久しぶりですね」


声はかすれていたが、それでも眼は輝きを失ってはいなかった。

この無明の空間でただ一人、動く事も許されない中では発狂していてもおかしくないと言うのに、九十九は未だにその意思をへし折られてはいない。


寧ろ逆に、この鬱屈した空間でその意思を強めたとさえ思うほどに。


「……それで、何をしにいらしたのですか? まだ成長だの人情だの、そんな絵空事を持ちだされますか?」

「――絵空事と、そう言うの?」

「絵空事ではないとおっしゃるなら――あれから些細だろうと、何かが変わったとでも?」

「何故そこまで人の欲望を否定しようとするの?」

「存在してはならない悪だからです。これは言い訳でも虚偽でも何でもない、正真正銘の真実である物――成長も可能性も言い訳の材料にすぎないと言うのに、そんな物を突きつけた偽善で一体何を成せるのか、是非伺ってみたい物ですね」


九十九が収監されてからも、人は結局何も変わってはいない。

寧ろ、酷くなる一方だった。


――人の欲望に歯止めがかけられないのも事実、正義を狂気に駆り立て暴走させなければならないのも事実、そして椎名九十九の言い分がまかり通るのも事実。

そして北郷正輝がいなければ、人は人としての機能さえ成せない事も事実。


説教とは、罵倒する事ではなく正す事――井上弥生自身が、それを成せない情けない大人である事も事実。


「――やはり変わっていない様ですね。だからおっしゃったでしょう? 人など放っておけば勝手に生まれると……平和等、悪の屍を積み上げることで出来上がる物。情だの可能性だの、そんなゴミは平和を乱す害悪にすぎないのです」

「――そうね。確かに欲望も過ぎれば、身を滅ぼす害悪である事は事実よ。けれどその一方で、人と言う存在が理解するにも機能するにも欠かせない要素で……」

「理解する必要などないでしょう。機能するかどうかより、得があるかどうかが重要――得さえ存在すれば、人でなくても良い。得がなければ、人として存在してはならない。自分と大輔のバカを比較すれば、よくわかると思いますが?」


そこで首相は、疑問を持った。

椎名九十九は、今の正義を執行する様になってから名乗るようになった名前で――本来の名は、中原大輔である事は、知識として知ってはいた。


しかし、今の言い方は過去を嫌悪する物ではなく――明らかに、自分ではない者に向けた物の様にしか思えなかった。


「――やめなさい、自分の事でしょう? 過去の自分を否定した所で……」

「自分? ――自分は椎名九十九ですよ。まあ正輝様も太助も確信に至れなかった以上、無理もないかもしれませんが」

「……?」

「あのバカと自分が同一人物である――そう考えるのは妥当でしょうが、それは上辺しか見ないバカが絶対に陥る袋小路でしょうね」

「――何が言いたいのか、よくわからないのだけど?」

「自分は椎名九十九であり、中原大輔ではない――そして中原大輔は、椎名九十九である自分ではない。このヘルオンアースでの日々は、その言葉が自分と大輔を表す言葉にしました」

「――まさか」


そこで、九十九がまるでぷつりと糸の切れた操り人形のように意識が途切れ、縛られた個所に支えられるようにだらりと身体を崩した。

そして、その数秒した後にゆっくりと顔をあげ――


「――!? つく……」


井上首相は眼を疑い、呼ぼうとした声を止めた。

そして――


「――君は、誰……なの?」


ゆっくりと、そして身長に言葉を選ぶ様に、首相は疑問を投げかけた。



「中原大輔の意思は、生きています――もう1つの、眠った人格として……」



「――今の“俺”は、中原大輔ですよ。首相」


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