第116話
リクエスト応募、ありがとうございました。
では、今回も楽しんでいただけたらと思います
「――流石にきついな」
凶雷獣こそ使ってない物の、そもそもが串刺しにされた上に、その直後にカオスとの遭遇。
休む間もなく傲慢のナワバリに飛ばされ、今に至る。
串刺しにされた傷は元素操作で塞いではいるが、元々精度自体が高くない上に、生体操作には向かない能力。
今も巨人の攻撃で多少開いており、そこから血が漏れ出している状態。
『大丈夫デスカ?』
「……そう見えるか?」
『……信ジラレン。マサカコンナ状態デ我ガマスタートナルトハ』
すぅーっと息を吸い、深呼吸しまず呼吸を整える。
そして、身体全体の血の流れをイメージし――ゆっくりとだが、傷口の血が止まる。
「――とはいえ、あんまり長持ちはしねえか。早い所脱出を……」
ドドドドドドドッ!
「ちっ……!」
すぐさまに、大勢の駆ける音が響き渡り、光一は右手に電撃を発し――拳を握りしめ、地面に突き立てると、光一の拳が纏っていた電撃が地を走り、傲慢兵達を薙ぎ払う。
それでも回避し、あるいは耐えきった兵達は光一めがけ飛びかかる。
――その数分後。
「――ふぅっ」
ある程度片付け、一息つき――そのまままっすぐに進むと、またもや扉が見えてきた。
その扉を開くと――
「――?」
そこは、先ほどの巨人たちの部屋程ではないが、だだっ広い部屋。
まるで引っ越す前のマンションかアパートか、と言った雰囲気を漂わせる中に……。
ヒュンっ!
「――!」
傲慢の系譜、野心の契約者、岩崎賢二が1人佇んでおり――光一の姿を確認するや否や、愛等である蛇腹大刀“竜頭蛇尾”を振るう。
咄嗟に光一はしゃがむと、壁が×型に抉られ、扉がはじけ飛び、光一の背後で重い音をたてて転がって行く。
「――“刃龍”」
最大限まで伸びきった連結刃が引き戻され、元の形に戻ると同時に賢二が蛇腹大刀を突き出す所で、光一が改造リボルバーを構えて“超電磁砲”を、賢二の足を狙って撃ち出すと、横に転がる様に回避する。
「お久しぶりですね、光一君」
「――お元気そうでなにより、だよ。賢二さん」
第三次世界大戦――それを終結させた14人の子供達。
しかし正確には、14人の子供達とそれらにつき従う子供達――当時は“最強落ち”と呼ばれる、現在で言う上級系譜達が居た。
今居る上級系譜は、大罪と美徳の候補でありながら、現在の最強格に敗れ候補落ちしてしまい、側近に甘んじざるを得なかった子供達と、大戦後に力をつけてその地位についた者とに分かれる。
光一と賢二は“最強格落ち”であり、互いに第三次世界大戦前から面識があった。
「――出来ればコーヒーと茶菓子でも用意して、お互い積もる話をしたいところですが」
「そう言う訳にはいかねえよな? お互い」
「そう言う事です」
光一がカオスに電撃を纏わせて駆けだし、賢二も小太刀を抜いて、刃がぶつかる。
「カオスは手に馴染みましたか?」
「――知ってんのかよ?」
「ええ。完成した暁には、僕の部下になる予定でしたから。僕は“竜頭蛇尾”とこの小太刀があれば十分です」
「そうかい」
刃から柄まで、他の余分な色彩など一切ない、漆黒の肉厚の刃。
形式は両刃のロングソード、魔剣カオスが小太刀がぶつかる。
「カオスも、良い主に巡り合えましたね」
『賢二様、ヨモヤ裏切リト申サレマスカ?』
「まさか。意思と罪は切り離せない物だから、人の世には法があるのでしょう?」
賢二が小太刀で光一のカオスを受け流し、身体を回して小太刀を振るうのを、光一も同じようにして剣をぶつけ合う。
「――そう言うんなら、聞きたい事があるんだけど」
「何でしょう?」
「傲慢の目的は何だよ?」
「聞いてどうする気ですか? ――まさか、そんな事する暇があるなら正義を止めろ、とでも仰るつもりなら、それは我儘と言う物ですよ」
二合三合と光一と賢二が打ち合い、一際大きな轟音がなると同時に互いに後ろへ飛び、突き出す構えを取って交差。
互いの身体に一閃の傷が刻まれ、振り向くと同時に光一が改造リボルバー、賢二が竜頭蛇尾を抜いて、互いに“超電磁砲”と“刃龍”を撃ち、それがぶつかりその衝撃で地面が陥没し、周囲に衝撃波が走った。
「別に僕は、一条宇宙君の方針も北郷正輝君の方針も、否定する気はありませんけどね――けれど、一条宇宙の方針はこの世界では通用しない」
「――何故そんな事を言いきれる?」
「一条宇宙君の方針は、あくまで人としての平和と秩序を齎す事でしょう? ――人としての幸福が手に入るのは、人である内ですよ。光一君」
「この世界は既に人ならざる世……とでも? 大地の賛美者みたいな事を言いますね?」
「ならば、何を持って北郷正輝の方針が間違っているなんて言えるのです? 彼の方針が間違っているならば、人の意思も命ももっと重い筈でしょう? それこそ理由1つで罪悪感がなくなりはしない位には――トランス」
「――!」
賢二が竜頭蛇尾に“刃龍”を展開し、フレイルかモーニングスターかと言わんばかりに、勢いをつけてふるい、それを殺さないままに地面にたたきつける。
「踊れ、竜頭蛇尾。大地を砕く程に、強靭かつしなやかな剣舞を――“ヨルムンガンド”」
剣先が地面にめり込み、賢二が剣を振るう動きに呼応するかのように、地面が唸り声を上げるかのように亀裂を走らせる。
賢二が踏み込み、一際大きく振るうと、地面がその軌道に合わせるかのように地面が砕け、大規模な隆起を引き起こし、それらが津波の様になって光一を呑みこむ。
賢二が剣をふるって元の形に戻す頃には、その目の前の光景は完全にガレキの様になっており、平坦な地面であった痕跡など残らないありさまとなった。
「最強だろうと何だろうと、人である限りは出来る事はその時常に1つの事だけ――故に生きる事とは懸命だから、尊く綺麗な物なのですよ。光一君」




