第14話
大罪の1人、色欲の契約者、花柳月
植物を操る能力を持ち、自身のナワバリでは植物と医学の研究を進める、医者である。
「ふぅっ……」
色欲に所属する場合は医療技術、あるいは植物知識が必須。
彼女、色欲の上級系譜、背徳の契約者、仁科青葉は上級系譜であり、色欲の医療主任を担当する医者でもある。
「あの……」
「クリスティーナ・ウェストロードさんですが、随分と大量に投与された様で、すぐには目覚めそうにありません」
「――そんな」
「ですが、命に別条はありません。時間こそかかりますが、完治させて見せます」
「――お願いします」
怜奈、つぐみ、蓮華の3名は、ティナの現状を聞き、頭を下げてそう告げた。
「宇宙兄。ウェストロードさんは、命に別条はないってさ」
「今は寝てるそうです」
「そうか――」
光一、ひばりに対する、上級系譜暗殺テロ。
そして今回の、慈愛を使っての戦争勃発。
――短期間で2つもの大事件が、立て続けに大地の賛美者によって引き起こされている。
「宇宙兄。どうした?」
「……昴の言う通り、時期尚早だったかもしれない。明らかに大地の賛美者は、俺達に狙いを定めている」
「――当然と言えば、当然だけどね。大地の賛美者にとって、契約者の戦争は僕達契約者を効率よく殺す為の手段でもあり、契約者の危険性をアピールする絶好の材料だから」
正と負の軋轢、大地の賛美者――恐らく、この状況が続けば、美徳も潰しに来る筈
現状、正負友好の足がかりどころか、テロの足がかりにしかなっていない現状――どう考えた所で、誰もが納得できる代物ではない。
「しっかりしてくれよ、宇宙兄もタカも! 時期だの何だの、そんな悠長なことじゃないから、美徳から独立してまで正負友好を結んだんだろ!?」
「――誰もやめるなんて言ってない。ただ、あいつの言う事にも一理あるって思っただけだ。だが、すまない」
「――だね。不信感持ったまま居座った所で、マイナスにしかならないから」
「だったら、これから昴さんや散々貶した奴等を見返す為にも、これからどうするか――」
「病院内での大声は他の方々にご迷惑がかかりますので」
「――ごめんなさい」
3人は場所を変え――
「大丈夫か、光一?」
「――何とか」
――光一が横になってる病室へと入っていた。
「しっかし、14でだなんて――」
「いや、そこまではなってないよ!? 押し倒されてキスされたり――そう、あれはスキンシップの一環で済む! あれはスキンシップの一環で済む!」
「綾香、そこまでにしておけ。フレッシュEXの影響が出てるんだから、無暗に刺激するんじゃない」
「――悪い」
「それにしても光一って、意外と取り乱しやすいね」
――光一もクリスティーナの唾液を通じ、フレッシュEXの影響が出てはいた。
しかし効果自体は薄まっていた為、理性は残っていて抵抗し続けてはいたが――その理性もギリギリのところで深紅が合流し、事なきを得て――宇宙達と合流に至る。
「……タイミング良かったよ。最悪、深紅にまで手を出しそうな勢いだったから」
「なんだよ、面白くない」
「――殺意沸いたぞ今!」
それから一週間が経過
クリスティーナ・ウェストロードの失踪は、反契約者団体の誘拐
更に、部下の契約者の幼い弟妹を人質に取られた事が発覚し、彼女の汚名は返上
――しかし、誘拐の際に薬品を投与され、それが巷で問題となっているフレッシュEXだった為、慈愛は色欲に治療を依頼。
と言うのが、世間に報じられた内容である。
「――光一君、準備は?」
「出来てる」
そんな中光一は、漸く薬が抜けた身体を捻り、迎えのひばりに笑顔を向ける。
「さて、まずは……
シュルっ……!
「ん? うわっ!」
「――もうっ、月さん」
その光一が突如蔦で一本釣りされ、そのまま女性の胸に顔を埋める形で引き寄せられ、抱きしめられた。
彼女こそ、色欲の契約者、花柳月。
負の契約者の頂点、大罪の1人である彼女は――。
「さみしくなっちゃうわ、ダーリン」
「むぐーっ!!」
残虐の契約者、久遠光一にぞっこんだった。
「……相変わらずですね、月さん」
「あらひばりちゃん、久しぶり。相変わらずちっちゃくて可愛いわね」
「ちっちゃくないよ! あの、頭なでないで!」
「じゃあここ」
「ふひゃっ!? なんで胸撫でるんですか!?」
「あっ、久遠君に支倉さん――どうしたの? なんか、疲れてるみたいだけど」
「いや、ちょっと――」
月のスキンシップで疲弊した2人は、一路ウェストロードの病室へ。
そこにはひばり同様、小柄な体躯の少女にして、慈愛の上級系譜の1人、雨宮つぐみが付き添っていた。
「まだ、意識は戻らない?」
「いえ、今は寝てるだけです。意識は戻ってるんですが――」
「そっか――出来れば謝りたかったけど」
「――わかりました。伝えておきましょうか?」
「――いや、俺から伝えたいから……じゃあ」
「はい、お気をつけて」
「――そう」
「とてもいい人たちでした。負の契約者だからと、悪い人ばかりではないですね」
「みたいね。信用して正解だったわ……それで、組織の方は?」
「今、組織内の徹底調査を行ってますが――やっぱりひどかったようで。特に蓮華さんは、ティナさんがこんな事になったのは自分の所為だと」
「そう――つぐみ」
「はい?」
――戦争の騒動後の処理も1段落。
世はようやく落ち着き、人々はすっかり元の生活へと戻っていた。
「ふぅーっ……やっぱり、住んでる街は落ちつくな―」
「そうだね。急ぎはあたしがやってたけど、仕事は溜まってるからね。光一君」
「……はーい」
「それじゃまずは、喫茶AMAGIに行くよ」
「?」
パンッ! パパ―ン!
「退院おめでとう!」
「「「「おめでとー!!」」」」
ユウを始め、勇気の3名、そして修哉達。
それらが集まり、退院祝いを計画していたのである。
「――びっくりしたなー」
「支倉から連絡があって、準備したんだ」
「それに、助けてもらったお礼もまだだったからね」
「大変だったぜ。それと――」
「「「テロの時、ありがとう」」」
修哉、和人、錬。
そう口々に言い、テロの時の礼を言う。
「ははっ……あっ、ありがとなひばり」
「大事なパートナーだもん、当たり前だよ」
「じゃあこれからもよろしくって事でな」
「うん」
「さて、お2人が愛を確かめ合った所で――」
「「確かめ合ってない!!」」
ユウの言葉と2人のツッコミで、場が笑いに包まれた。
「ひゅーひゅー」
「熱いねー」
「ロリコン」
「憎いよ、この!」
「おい誰だ今ロリコンっつったの!?」




