第114話
ブレイカーには、シンクロと言う能力がある。
機械的な以心伝心を可能にし、より高度な連携を駆使する事、能力を複合させる事が可能となる等のメリットは大きい。
しかし、考えている事がダダ漏れになる等のデメリットもあり、シンクロを行った際に大喧嘩になった――と言う事例も、決して少なくはない。
しかしそれを克服し、2人1組で使用する高密度の複合能力――そのメリットは、デメリットに見合うだけの物は確かにあった。
「……さて」
“光鏡の迷宮”
恐らくそれが能力名でもあるだろう、眼を開ける事も苦行だと言わんばかりの光で満ちた、鏡で造られた迷宮。
2人1組で来るからには、恐らくシンクロを使用してくる可能性が高い――が、わかるのはそれだけ。
昴同様に光を操る能力か、それとも鏡を媒体とした干渉能力か。
その両方か、あるいはどちらかがカムフラージュか発動条件かで、対処法は大きく変わってくる。
「――進むか」
待っていても何も変わらない――そう判断し、光一は一歩踏み込む。
眼に入るのは、光と鏡に映る自分だけ。
強烈な光で目を開ける事も苦痛な為に、極限まで狭めた視界に入ってくる光景は、まるで自分が何人も居る様な錯覚を覚える
ある程度まで進むと――そこで光が突如消え、普通の照明程度にまで治まる。
「――!?」
それと同時に、鏡が一斉に砕け散り――その破片が集まり、幾多もの光一へと変貌。
それらが一斉に魔剣カオスを、あるいは“超電磁砲”を展開した改造リボルバーを構え、光一本人を狙い定める。
「――成程ね。侵入者その物に侵入者を排除させる能力か……参ったな、鏡って事はガラスだから、電気通さないんだよな」
光には“接触感応”の能力が込められていて、それを使って光一自身の能力、思考などのデータを読み取り、それを媒体としての鏡が反射する際にその情報を焼きつけ、それを元にコピーを作りだす。
そう言う能力だと辺りをつけ――。
「――まあ別に、大して驚く事でもないか」
数人がカオスを振るい、あるいは突き出してくるのを――光一は難なく斬り裂き、銃で撃ち抜き、またカオスで貫く。
ガラスが壊れる音を響かせながら、コピーが砕け――それが足元から破片が合わさって行くかのように、また光一の姿を模る。
それを見ても光一は動揺せず、周囲を警戒しつつ見回す。
鏡が剥がれ、コンクリートが露わになった壁。
少なくとも、ただだだっ広いだけの部屋よりも、迷路にすればより多くの鏡が配置でき、また能力者の姿も隠せる。
「――一手間で十分」
『?』
魔剣カオスが疑問符を浮かべると同時に、ベルトに引っ掛け素手で相対。
1体が剣を振り降ろすのを、光一は軽く手を添え――
バキンッ!
そこからコピーが砕け、砂の様に崩れ去って行った。
『――? アノ、マスター? 何ヲサレタノデスカ?』
「俺は発電能力と一緒に、“元素操作”が使えるのさ」
媒体を扱う能力の場合、条件を限定すればより強力な力を扱えるようになる。
しかしその反面、条件から外れれば即座に使用不能となる可能性も孕む為、条件がそろわなくなれば全くの無力となる。
「だから、鏡の原料――例えば、二酸化ケイ素な。それを分解して、別者にした訳」
『成程』
「それに、これなら能力者じゃなくて扉探すだけで済むしな」
その数十分後
部屋に設置されていたガラスは全て分解され、能力者の姿を拝む事無く光一はその場を後にした。
「……私達って、一体?」
「……うぅっ……白夜様に、合わせる顔がない」
――光一の後姿を見送り、そんな事を呟いたとか何とか。
「――? なんか今、聞こえた様な?」
『気ノ所為デショウ。ソロソロ次ノ部屋デスゾ』
「ああっ……さて、次はどんなかな?」
眼の前に見えてきた扉を開き、光一は中へ。
「…………おいおい、いきなりかよ!?」
そこは広さどころか天井も先ほどとは段違いに高く広く、まるで野球のドーム球場にでも来たかのような錯覚を覚えるほど。
そして……
ズーーンッ! ズーーンッ!
「……はい?」
突如鳴り響く地響き――そして、自身を覆う巨大な影。
光一が見上げた先――。
「なんだあ? 思ったより弱そうじゃねえか」
「気を抜くな。これでも上級系譜、油断して勝てる相手ではないぞ!」
「我等傲慢巨人部隊、一世一代の大舞台だ。上級系譜、相手にとって不足なし」
「――全くだ」
自分の十倍を軽く凌駕する様な、巨大な人間が4人。
契約者には、2mどころか3mと言う体躯も珍しくはないし、憤怒にも10mを超えた巨人と言える存在は確かに存在する
しかし――これほどの巨大さは、光一も見た事がなかった。
「おいおい、幾らなんでもでか過ぎだろ。なんか小人になった気分だな」
剣を持った、4人の中では平均な体躯の、リーダー格の風格を漂わせる巨人。
金棒を持った、ずんぐりとした体躯の、ガラの悪そうな巨人。
槍を持った、少々細めな体躯の、生真面目な雰囲気の巨人
斧を持った、岩の様な筋骨隆々の体躯の、寡黙な巨人。
それぞれが光一を見据え――武器を構える。
「――なんかこうしてみると、俺とひばりの身長差って、さして変わりないんだな……帰ったら謝ろう、うん」




