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閑話 井上首相の傲慢訪問(2)

「……否定したいならしてもかまいませんが」

「――出来るならやってるわ。北郷君が今に至る前に」


――政治に携われば、間違いでは済まない事などいくらでもある。

歴史的な名君、名政治家と呼ばれる様な存在など、そうそう現れる物ではない。


自身とて“契約者社会の母”等と呼ばれ、一時代を築き上げた名君と謳われているだろうが、その過程で決して褒められた物ではない手段等、幾らでも使ってきた。

そして何より、契約者社会を崩壊させる爆弾を抱えている以上、その名声とていつまで続くかどうか等わからないし、誰にどう利用されるのか等わからない。


――実際、この表敬訪問すらも、綱渡りである。


「――質問を変えるわ。君は、何をしたいのかしら?」

「それはむしろ、この世界にすべき事だと思いますが?」

「……質問しているのは私で、君はされる側なのだけど?」

「――別に、大して意味はありません。ただ、勇気と正義に関しては、この世界を左右する立ち位置に立つ資格があるかどうか、この眼で見極める為」

「……資格はあった。そう見たの?」

「ええ――なければ殺してましたが」


……そう淡々と言い放つ白夜に、得体の知れなさは相変わらずだと首相は思った。


正義と勇気を殺す。

――世界の勢力バランスを保つ上で、最も有力であるその2人をどちらか一方だけでも殺せば、この世は一体どれだけの混沌に見舞われるか。

そんな事がわからない人間ではない筈だが――それでもやりかねない危うさは確かにある。


「――それが一体何を意味しているのか、わかって……」

「文句など言われる筋合いはありませんね。私は“力こそが全て、弱さは罪”の信念を曲げる気もなければ、誰かに自身の行く先を委ねるつもりなどありません」

「あくまで、自分の意思で全てを決める……そう言いたいの?」

「ご心配なく。貴方の意思も、大罪としての存在意義に義務も、蔑ろにするつもりはありません。成すべき事は成す、その上で私は私自身の行く先を決める――そう言いたいのですよ」


事によっては、危険思想にもなるかもしれない。

しかし、御せない訳ではない――が。


「……政府としては、面白くないでしょうね」

「ふんっ……未だに自分達の半分も生きていないガキの、どちらに甘え縋りつくか。そんな役にも立たん事を真剣に討議している、老けこんだ赤ん坊どもに何が出来ます?」

「……」

「そんなことを論じる暇があるのならば、人の定義が“血の通っている事”以上に“気に入るか気に入らないか”が重要である事を、問題視すればいい物を」

「――君にとっては、世を左右する事象もその程度なのね」


実際政治など、その手の話等有り余っている位で、1つの決断が多くの闘争を引き起こすのが現状なのだが――

白夜にとっては、取るに足らない事象なのだと実感し、ため息をついた。


「――わかりました。政府としては面白くないでしょうけど、君に対する処分は私の方で保留と言う形で、この話は終了します」

「言っておいてなんですが、よろしいのですか?」

「君のいい分も最もな部分もあるからね――些細な認識の違いが、理不尽なまでの誤解と憎悪を生むなんて事、する訳にはいかないのでしょう」

「……そうですか」


白夜もそれ以上は、何も言わなかった。

ただし、何も言わないと言うだけだが――。


「それともう1つ」

「? 何か?」

「ヘルオンアースの視察と、九十九君と面会をしたいのだけど」

「そうですね――中で見た物は他言無用。それを約束して頂けるのなら」

「――政府首相の名において誓います」

「そう強張らずとも、首相が想像している様な光景などありませんよ」

「?」

「大方、窮屈なだけの牢屋、ただ時間ばかりを浪費するだけのサディズム先行の拷問、血と鉄と錆の匂いで充満した拷問器具、等と古臭い物を想像しているでしょうが、そんな大昔の地獄絵図を連想させる様な苦痛など、とうに時代遅れ――新時代の地獄、お見せしましょう」


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