閑話 井上首相の傲慢訪問
傲慢は最強格の組織の中で、最も統率がとれた組織である。
それは契約者社会の中では、常識的な鉄則の1つでもあった。
傲慢の契約者、大神白夜の掲げた思想は実力主義。
契約者としての強さ、研究者としての向上心……挙げればキリがないが、それらの向上心を尊重し、装備を始めとする設備や研究資金、それらにかける資金は潤沢。
ただし、結果が伴わない――あるいは、伸び悩んだり行き詰ったりする理由が順当な物でない場合は、研究費のストップ、設備の差し押さえもある等、判断基準は厳しい上に白夜に嘘など通用しないし、発覚した場合は問答無用でヘルオンアースへと送られる。
――と言っても、ここで不正を行う様な者等、1人としていない。
「……こんな事を言うべきではないのはわかっているのだけど、いつ来ても異常だと思えなくならない光景ね」
憤怒襲撃に対する事情聴取及び、傲慢のナワバリの視察と言う名目で訪れた政府首相、井上弥生の第一声だった。
その言葉に対面する白夜は、(元からだが)表情を微塵も変えず、寧ろそう言われる事も1度や2度ではない為、何も言わない。
――傲慢に所属する者は、研究者にしても戦闘員にしても、ほぼ大半が俗にマッドと呼ばれる様な、一癖も二癖も難のある者が多い。
ニュースで話題を呼んだ犯罪フォールダウン、常軌を逸した研究者など、まだ良い方。
特に系譜格に至っては、傲慢が示す通りにプライドが高く、とても人に従う様には見えない顔ぶれでありながら、傲慢は最も統制がとれた組織として名をはせている。
「――何か問題でも?」
「いいえ――私の眼は確かだったと思っただけ」
頂点達の中で、最も早く頭角を現したのは白夜だった。
決して、他が劣る――と言う訳ではなく、普通と比べればそれでも常軌を逸した速さで、組織の長として、最強格としての意識と器量を手に入れている。
最も才能に恵まれた……と言うのは、同格である事が事実である以上は違う。
才能の開花の速さ、才能の使い方……それらが白夜を大罪最強の根幹であると、首相は考えているし――年不相応ながら、白夜の才能を羨ましいと思わない事はなかった。。
“進化を齎す眼”
白夜がそう呼ぶ眼の開花も、首相は知っていた為に。
過ぎたことを悔やんでも仕方がない――そこから学び取り、次に活かさねば無意味になってしまうのだから。
「さて――憤怒の侵攻、その理由ですか? 来訪の目的は」
「ええ……勇気と正義に対する攻撃に、此度の憤怒への攻撃と、世のバランスを崩す行動が最近目立ちます。今まで不干渉を貫いてきただけに、政府でも貴方の動向を問題視する人は少なくないの」
「問題視? ……利用価値の見定めの間違いではないですか?」
「……問題発言よ、それは。私的な会見である以上眼を瞑るけど、公の場では控える様に」
――他の大罪や美徳と違い、傲慢は政府の決定に逆らう事が多い。
それは首相に対しても同じ事で、首相の意に逆らう事はないが、自分の意に反する事ならば賛同はせず、討論になった事も少なくはない。
ただ、井上首相自身は言い分を受け入れるだけの器量はあった為、双方納得のいく条件を整う事で、大事になってはいなかった。
しかし、他がそう――と言う訳でもなく、政府には傲慢を忌み嫌う者が多い。
「何を今更――問題を欲しがる者等、居ない訳がないでしょう? 他人をゴミにする為に必要な物ですから」
「……そう言う言い方は感心しないのだけど」
「――契約者社会の始まりから今まで、人が証明出来る事と言えば“ゴミは何をやろうとゴミ”、“ゴミに陥れてしまえば無意味にできる”……ただそれだけの筈」
包帯の巻かれた個所を摩りつつ、白夜は首相に問いかける。
「“正しさとは理不尽”――そんな考えで、一体人はどのような成長を遂げられるか。見者ではある」




