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第107話

中原大輔の突如の失踪

そして、それから1週間したころ――サイボーグテロに至る経緯、その事実が露見。


元凶は程なく逮捕され、そこから正義のナワバリに潜伏する“大地の賛美者”は壊滅。

……しかしそれで治まる程、火種は決して小さくはなく、新たな事態をも引き起こした。


住人達が正義傘下の契約者達に行った、横暴の度を超えた扱い――“人間様”発言に加え、気に入らないことを理由としたリンチ。

他にも挙げればキリがないが、元凶とは関係のない所で積み重なった迫害は、正義の傘下契約者達に深い遺恨を残していた。


「……どうでもいいよ、もう」


そして東城太助は、サイボーグ義肢装備者保護区画――正輝達がほぼ強引に取り決めた区画に籠り、サイボーグ義肢装備者達の義肢メンテに勤しんでいた

事の真相を聞いても表情1つ変えず、どうでもいいと言わんばかりに斬って捨てていた。


保護区画の住人達も同様で、怒りを通り越して何も感じなかったのか――

恩人である東城太助、そして北郷正輝が決めた事なら、と淡々と承諾していた。


お小遣い稼ぎの為に人の醜い部分が露呈し過ぎた事で、正義の傘下契約者達と住民――その人間関係は、完全に狂うどころか壊れていた。


「……ふぅっ」


騒動の一段落……と、正義の補佐官である林康平には、一息つく余裕などなかった。


「……事の移り変わりがあまりにも早すぎる。だが――恐らくこれを皮切りに、反契約者団体も畳みかけようとする筈。注意しなければ、正義はバラバラになる事もあり得る」


北郷正輝を始めとする、契約者達はまだ子供。

力は大きかろうと、まだ精神的に成長しきってはいない――まだまだ自分たちが守り、導かねばならない子供にすぎない事を、十分に理解していた。


「――だが、やるしかない」


「林さん」


ただ確かな事は、目の前の少年――北郷正輝達に対し、弱気を見せない事。

そして、自分自身が揺らいではダメであると言う事……。


「大丈夫ですか?」

「ん? ああっ、大丈夫……君こそ、大丈夫か?」

「……大丈夫です」


子供としては、強いと林は思う

しかしそれでも――


「……君達には酷だと思う。だがそれでも、君は決して揺らいではいけない」

「……」

「組織の長というのは、決して揺らいではならないんだ……君が不安がれば、皆が不安になる。そして今組織は、君が頼りなんだ。わかるね?」

「――はい」

「……政治的な話は私に任せてくれ。君は大丈夫だと誇示し、不安を取り除く事を優先するんだ。今はまず、出来る事からやっていこう」


弱気は見せられない。

そう奮起して、2人は成すべき事の為にまずは一歩踏み出す。


――しかし、既に手遅れだった事は、この時点で2人は気付いてはいなかった。




「--何を願い、何を想えば人は納得するか……明確な答えはない。幸福の程度など、幸福と認識できるかどうかでしかないからだ」

「……幸福と認識できるかどうか?」

「そうだ……そして、かつての正義の守りたいと言う意思と願いは、人にとっては幸福とはみなされなかった」




中原大輔が失踪し、1ヶ月が経過。


事態は一向に好転せず、住人の中には反契約者思想、サイボーグ義肢反対を堂々と掲げ、デモを起こす者達。

契約者側においても、正輝の努力も空しく傘下契約者達の不満はどんどん募るばかりで、サイボーグ義肢装備者の保護区画においても、未だに差別意識を持つ者達による嫌がらせがあるらしく、不満は募る一方。


最早何をしてもダメにされるか、利用されるかの悪循環。

――という、最悪を上書きする事ばかりが募る一方だった。


――そんな中。


「よし、準備はいいな?」

「ああ……やっぱこのままは拙いだろ」

「太助君、あんなに頑張ってたのに酷いことしちゃったし、大輔君も……今まで守って貰っときながら、あんなことしちゃったからね」

「恨まれても仕方がない――けどやっぱ、人としてケジメはつけないとな」

「――では行こう」


正義に対して、謝罪しよう――そう考える人達が、謝罪の品を手に正輝達の居る詰所へと向かっていた。


「正輝様。住民の方が――」

「――今度はなんだ? 抗議か? それとも……」

「いえ、それが……」


ボォォォオオオン!!


――それは、突如起こった事だった。


「なっ、何だ!?」

「市街地からです! 今のは、爆音ですよ!?」

「救助隊、救急班を編成しろ! ――我が向かう!」


正輝は胸騒ぎを感じながら、駆けだした。

――爆発に対して、胸騒ぎを感じながら。


「――これは」


燃え盛っているのは、銀行だった。

そしてこの地点は、銀行強盗が立て籠っている――そう情報が入って来ていた筈で。


「おい、どうした! 何があった!?」

「それが……」


「――お久しぶりです、正輝様」


ふとかけられた声――それに反応して、振り向く。


「だ……!?」


そこに居たのは、先月失踪した一徹の契約者、中原大輔その人。

しかし、正輝はその姿を見て、戸惑いを隠す事は出来なかった。


纏う雰囲気が、自分の知る中原大輔とは全く異なっていた事――そして、眼にあの頃の様な、正義に燃える希望に満ちた輝きがこもってはいない。

逆に、情を一片も感じさせず、相手を威嚇し凍りつかせる様な、無機質な冷たさを醸し出しており――とても、自身の知る中原大輔と同一人物とは、思えなかった。


「……ひぃっ!」

「……? どうした!?」

「――何故恐れるんだ? たかが悪を吹き飛ばした程度で」

「……何?」


その言葉を聞いて、正輝の頭に嫌な予感が走った。


「――まさかこれは……」


――お前が、やったのか?」


「ええ――銀行強盗という悪を殺す為に。何やらチンタラとやっているようでしたからね」


躊躇いもなく、まるで普通に会話する様に肯定の意を示した。


「よくも!」


そこへ、怒りに狂ったように1人の中年の男性が、大輔に掴みかかる。


「あそこにはワシの娘がいたんだぞ!! なのによくも――」


ドンっ!


その言葉が途中で遮断されるかのように――中年男性は、その場に倒れ伏した。

中原大輔の手に握る、銃による発砲によって。


「――どういう事だ? 何故殺した!?」

「どうもこうも――正義を執行しただけですよ」


倒れた人物を意にも介さず、大輔はその眼をくわっと見開いた。


「平和にとって、人の意思や欲望など邪魔でしかない。増して維持する為には、命などゴミでなければならない――平和は確固たるもの、変化など齎してはならない」

「――え?」

「なぜなら平和を維持する為には、人の意思や欲望は枷であり害だから――正義の成すべき事、それは欲望を消す事……それが人にとっての真の平和ではないですか」

「――何を言って……いや。本当にお前は、大輔なのか?」


――お前は、誰……なんだ?


「今の“自分”は、椎名九十九ですよ――正輝様」


中原大輔が椎名九十九を名乗った上での豹変。


それはこの事件の異常性以上に、正義の組織にしろナワバリの住民にしろ、大きな影響を与えて行くこととなる。

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