第106話
大地の賛美者によるサイボーグテロ勃発
それは世間において、サイボーグ義肢の装備者に対する敵意を生みだし……暴徒と化した者たちが、サイボーグ義肢装備者の保護区画を襲撃するという事件を起こし、その矛先はさらに開発者である東城太助にも向けられた。
「……~♪ ……~♪」
「太助」
「んにゃ~? やっほー、だいすけ~♪ ぼくちんになにかごよう~?」
「……」
“ありがとう”
そう言って笑ってくれた子供の墓の前で、精神的におかしくなり始めていた太助は、鼻歌を歌いながらぼんやりと墓を眺めていた。
「……ねえ、だいすけ~……いのちってさ~、なんなんだろうね~?」
「……太助」
「ぼくちんがやったことって~、なんのいみが~……」
「あっただろ!」
大輔にとっては、太助のそんな姿を見る事は辛かった。
太助の身に起こった事
それを、北郷正輝の説得で抑えて、懸命に勉強し練習し……ようやく、正義の一員として貢献できる技術を作りだし――
その果てが、こんな結末だったコト……。
「……大丈夫だ。俺達が絶対にお前を守ってやる! 残ってるサイボーグ義肢の装備者は絶対に死なせない! お前だって、絶対に傷つけさせやしない!」
「……」
「大丈夫――正義の味方ってのは、他人の為に一生懸命になれる奴の事を言うんだ! きっといつかはわかってくれるさ!」
しかし大輔の説得も、所詮は子供の夢でしかなかった。
正義のナワバリでは太助の殺害要求が声高に行われ、それを拒む正義の姿勢に反発し、各地のメディアは“身勝手な正義”と称し、貶し始め……
それでも汚名返上をと懸命になるも、批判的な姿勢となった民衆は悉く叩きあげ、次第にリンチじみた行為を平然と行っていくこととなる
そんな正義のあり様を見て好機を見たのか、犯罪契約者達までも、こぞって正義のナワバリで犯罪を犯し--乱れに乱れる悪循環となっていた。
「――理性は所詮、後付けの物だからな」
そこまで話すと、そう結論付けて白夜は一旦話を区切る。
「正義、誠実、希望、友情、慈愛、知識、勇気……美徳と呼ばれるそれらは、人に最初から備わっている物ではない」
「……だから欠陥が生じやすいとでも?」
「欠陥? ――バカを言え。理性とはその定義次第で、幾らでも姿を変える。度を超えた正義が狂気となった様に、無鉄砲な勇気を無謀という様にな」
そう言い放ち、白夜はユウに背負われているひばりに眼を向ける
「“良い子でありたい”」
「――!」
「それ1つを取っても同じだ。良い子とは何か……間違いを認め、改める事が出来る子の事なのか、大人の言う事を聞ける“都合の”良い子なのか」
「……」
「だから美徳は大罪と違い、明確な定義はされていない。我らの場合は、たまたま北郷達が該当する契約条件を満たしていたが故に、そう定義づけられた」
最も、私の対は北郷となる……それは最初からわかってはいたがな。
と、白夜は締めくくった。
「――そもそも人は、“人”等と一括りにされる事を嫌悪している。故に自分より上、自分を縛り、悪と断じる存在など許せず、自分の気に入った人間以外は、淘汰せねばならない。だから誰もが、ブレイカーを手に入れた程度で思い上がる」
「――正義が傲慢の対である理由。とでも言いたいのか?」
「そうとも。人は傲慢であるが故に他人を淘汰し、それを正義が許さない――この世界と同じだ。自分が何をやっているのか、自覚もしないままに北郷と私に責任を押し受けようとする」
「でも、それは変わらない理由になりません。さっき貴方が理性は後付けと言っていたように、今からでも手遅れなんて事はない筈です!」
そこで白夜は、パチンと指を鳴らした。
すると、ひばりの目の前の空間が歪み――指輪に首飾り、そして貴金属などが現れた。
「……?」
恐らく白夜の仕業だろう事はわかったが、どういう事かまでは分からなかった。
ひばりとて女の子で、それに加えて上級系譜として、上流階級主催のパーティーなどに顔を出す事も多い為、宝石などには詳しい。
自分の前に現れたのは、そこらの資産家では手に入らなければ、宝石店でもカタログでしかお目にかかれない……自分も直接見る事は滅多にないほどのグレードの高さの代物。
「……何のつもりですか?」
「命より重い物だ」
カチンッ!
「――ふざけ……どういうつもりですか?」
ひばりは白夜程、悪ふざけや冗談が似合わない人間を知らないが故に、言いなおした。
「丁度それ位の額だった」
「……?」
「サイボーグテロによる負傷者、12059名。サイボーグ義肢装備者保護区画の襲撃による死傷者、20098名分」
それを聞いて、ひばりは嫌な胸騒ぎを感じた。
「私も調べたのだ。正義は私の対である事もそうだが、流れがどうにも不自然でな」
「サイボーグテロに関しては、ある程度なら知ってる……報道関係に大地の賛美者の息がかかった連中がいて、そいつらが正義に矛先を向ける様に仕組んでた事くらいは」
「そうだ。しかしそれ以上に、真実は呆れの一言だった――正義に対して率先して抗議し、リンチを仕掛ける輩に、大地の賛美者に東城太助の研究資料を“お小遣い”の為に売り渡した、元凶がいた事を知った時はな」
『――全ての欲望を……根絶やしにする』
「そして、私がそれを突きとめるより先に、中原大輔がそれを知り――椎名九十九を名乗ったその時から、既に今は決まっていたのかもしれんな」




