季節企画話 『花見(2)』
「――の筈だったよな?」
ご馳走や飲み物の入ったペットボトルがおかれている場所とは、少し離れた地点。
そこで全員が、まずは北郷正輝の点てたお茶を飲む事に。
「我に場を盛り上げる様な芸はないからな。だがまさか、美徳が揃う場はわかるが――大罪まで揃う場で、茶を点てる事になるとは思わなかった」
「――いやいや、オレはお前の趣味が茶道って事にドッキリだけどな」
「別に驚かせるために好んでいる訳ではない。それより、作法は知っているのか?」
「小生が熟知しておりますので」
シバのからかう口調に、憮然とした口調で北郷が返し――
疑問を投げかけると、今度は我夢が割り込む。
「怜奈ちゃん、知ってる?」
「はい。ワタクシも、茶道の心得はございますので」
「じゃあ美徳は怜奈ちゃんに、大罪は我夢君にだね」
アスカが怜奈への質問を機に場を取り仕切り、講師を決定。
「――めんどくせえ。文字通りの美女と野獣だ」
「ちげえねえな。おい月――に詠、お前ら茶道の作法知らねえか?」
「…………(今妾を無視しようとしたな?)」
「教わるんならガキより美女が良いんだよ」
「――(ブチッ!)」
「やめなさい!! あんた達首相の顔に泥を塗る気!?」
シバと詠のケンカの仲裁に、慌てて月が間に入り――少々荒れた空気にもなる。
「ああ、僕達は良いよ。何度か北郷さんには馳走になってるからね」
「ああ。作法も一通り知っている」
「という事だ。ワシらは先に馳走になるから、頑張って勉強してくれ」
「――あれ? 美徳で知らないの、もしかしてボクだけ?」
「くすっ――それではよろしいですか?」
「……はーい」
総スカンともいえる状況に、少々肩身狭さで縮こまるアスカは、どんよりとして怜奈に作法を教わる事になった。
「……」
「不満か? 朝霧」
「――別に」
席は大罪、美徳側と別れていた為、今ユウは白夜の隣に座っている。
「――で、何考えてるんだ? お前が参加するってだけでも胡散臭いのに、北郷を説得するなんて、怪しいと思わん方がおかしいだろ」
「興味ないな。ただ遊んでいれば良いだけで、何を不満に思う必要がある? ――そもそも我等にとっての問題等、精々美徳として、大罪としての物のみだ。個人としての問題等、最初から存在しなかったろう?」
「……まあ、確かにそうだけどよ」
「ならば黙っていろ。血と屍がなければ納得できん等と、正義の方針はなるべくしてなったことの証明をしたくなければな」
そんな大騒ぎに参加してない大罪の内、白夜と裕樹は場に似つかわしくない、衝突ムードを醸し出す会話を交わし――
「――一体何でまた?」
「言ったでしょう? 私は貴方達の範となる為に考えた事――謝らなくていいわ。一条君にしても北郷君にしても、私の落ち度でもあるからね」
「上手くいってくれれば――いや、うまくいかせないと」
「そうね。こういう事は、意思を受け取って貰えなければ意味はないから」
「……そこまで愚かではない。そう信じたいです、俺は」
そう呟く一条の前に、お茶が差し出された。
「――お前に茶を振る舞うのは久しぶりだな」
「……そうだな」
「……人はそこまで愚かではない、か。寧ろ愚かだと理解せねば、何も学べないのだけど」




