第103話
なんか、久しぶりに光一書きました。
まあ、前回が前回だけに、そんな気分です。。
眼を覚ましたその先――それは、幾何学的な文様。
まるで絵具を幾つも垂らした水のようで、それで居て混じり合う事のない――そんな文様がゆらゆらと、どこまでも広がるその光景の中に、アクセントを添えるかのような、浮遊するのとは違う軌道を描きながら、まるで水晶の様な物体がゆっくりと飛び交っている。
「……いてて」
そんな空間内で目覚めた男、久遠光一はゆっくりと起き上がり――刺された腹をさすり、ほっと一息。
「――何とかなったか」
光一はさされる直前、元素操作と放電能力で自身の身体を指されたその瞬間、血液や脳に干渉して仮死状態にし、最悪の事態を逃れていた。
とはいえ、刺された事に変わりはない為、一先ず身体の傷を塞ぐ事に集中し――傷がある程度塞がった所で、周囲を見回す。
「……何なんだ、ここ?」
光一は改めて、自身の周囲を見回す。
周囲の光景はまず現実で見る事がない物であり、自身もまたその中を浮いていると言っても、浮いているのとも固定されいるのとも違う感覚の中で――
「……うーん」
まずは冷静に、唸りつつ情報を分析し始めた
ここが傲慢の空間破壊により壊された隔ての先の空間である事。
そして、ここから出る術が自分にはない事――大罪格の支配する空間である以上、憤怒や勇気のメンツでは辿り着く事が絶対に出来ない事。
「……さて、どうしたもの――ん?」
ふと感じる、強い意思――いや、怨念めいた悪意。
それを醸し出しているのは、今自分の頭上に存在感を醸し出す、一際巨大な異様な形状の水晶の様な物体――白夜が“異界物質”と呼んでいた物。
「――なんだ?」
一先ず情報を得る為に、光一はそこへ向かう事に。
「――えーっと」
光一はまず、及ぶように手足をかき始めた。
何せ、今まで感じた事もない感覚――水に入った時、無重力の影響下、空を飛ぶ浮遊感等、そのどれとも違う中で、移動する等どうすればいいかがまずわからない。
幸いにもその方法で合っていたらしく、自分の身体がゆっくりとだが、邪気を醸し出す異界物質へと向かい始めていた。
「――なんだこれ?」
ようやくたどり着いた光一が眼にしたのは、見渡す限り“異界物質”に突き立てられた武器の数々。
銃やバズーカと言った、近代兵器は1つとしてなく、剣や槍、刀に斧と言った人を殺すことを前提として作られだ武器が、ずらりと不規則に突き立てられている光景。
光一は恐る恐る、近くに突きたてられている剣の柄に手を賭け――良い様のない悪寒を感じ、瞬時に手を引いた。
「コレ……まさか、魔剣か?」
“魔剣”
死霊使いにより、怨念などの悪意を込められた、あるいは元々込められた怨念を引き出された、意思を持つ武器。
それを握る事により、使い手は一般人だろうと下級契約者にも匹敵する力を引き出せる――ただし、その力を得たと同時に自我を失い、殺戮の狩人と化す魔性の武器として、禁忌に位置する技術。
その人格的な危険性を孕むその性質上、反契約者組織“大地の賛美者”も手を出す事は決してなく、現在では研究しようと言う者も1人としていない――筈だった。
「――傲慢ならあり得ない話じゃないか」
傲慢は実力主義であり、如何に危険思想だろうと有用出来ると判断されれば、前科があろうと人格的に破たんしていようと、大神白夜は快く受け入れる。
その性質上、大罪で最もキナ臭い部分を多く孕んでいるにも関わらず、頂点である大神白夜のカリスマ性と統率下の元で、最も統率された組織として機能している。
――だからこそ、魔剣の様な禁忌とまで言われる危険性の高い実験だろうと、傲慢の中で進めている可能性は決して低くはない。
「……しかし、何なんだこの光景?」
改めて、自分が立っている水晶のような塊をざっと見回し――見渡す限り、まるで墓場を連想させるかの如く、墓標のように突き立てられた武器の数々。
日本刀に西洋剣、槍に斧――その全てに、魔剣としての機能を象徴する文様が描かれていることから、ここに突きたてられているのは全部魔剣という事になる。
「――しかし妙だな?」
光一も以前、魔剣絡みの事件を担当した事がある。
その時当然魔剣と一戦交えた経験上、何故か目の前に広がる魔剣の墓場1つ1つの本体からは、何故かその時感じた様な邪気が希薄に感じられた。
「……まさか、失敗作?」
『チガウ!!』
突如、光一の脳に直接ブチ込まれたかのような怒声。
光一は慌てず、冷静に周囲を警戒し見回す。
「――誰だ? 誰かいるのか!?」
『白夜様デハナイナ――モシヤ、我等ノ媒体ヲ遣ワシテクダサッタカ?』
『ヤットカ。ヤット白夜様モ、我等ヲ使ッテクダサルノカ?』
『血ガ呑メル! ヨウヤク血ガ呑メルノダ』
「――1人じゃない? ……まさか」
周囲を見回し、声の主――辺りに突きたてられている魔剣を見回す。
『我等ガ心配スル必要ナドアル訳ガナイ。戦イハ終ワラナイ、終ワル訳ガナイ』
『ソウダ、終ワラナイ。人間ナド、敵ノ血ヲブチ撒ク事ガ限界ノ愚カナ存在』
『気ニ入ラナイ程度デ息モ出来ナイ、自分勝手ニ依存シキッタ弱イ存在』
『不孝ハ他人ノ所為、幸福ハ基礎代謝、現実ナンテ見向キモシナイ我儘ナ存在』
『ドコマデモ他人ヲ殺ス理由バカリヲ求メ続ケル、最低ナ存在』
『ソンナ人間ニ、戦イヲヤメル事等出来ル訳ガナイ』
『『『アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!』』』
「――おい、耳障りな声の連奏してんじゃねえぞ! どこだコラ!!」
流石に耳障りになってきたため、光一が怒鳴ると――
ガタガタ――っ!
「ん?」
急に突き立てられた魔剣という魔剣が、がたがたと震え始める。
そして……その中の、明らかに他とは違う存在感を醸し出す一本が、勢いよく宙に舞い――放物線を描き、光一の前に突き立てられた
「……これは」
それは、漆黒の――無明を連想させる、黒い剣。
魔剣の証である、特別な文様の刻まれた柄にはめ込まれた赤い宝石が、目の様にぎょろりと蠢き、光一を見据えるように焦点を合わせた。
『我等ハ“カオス”、白夜様ノ最強ノ剣』
『白夜様ノ最強ノ兵』
『白夜様ノ為――身体ヲヨコセエエエエ!!』




