閑話 正義派閥、美徳3人の憂鬱(2)
「成長とは何か――まあ妥当な所で言えば、目的を達成する事だね」
「うむっ。頂点を目指す、守れる存在になりたい――そう言った願いを持ち、そこへと突き進む。それこそが、生きると言う事だ」
「だが、誰もがそうなれる訳ではない――その意味を誤れば、たちまち別者へとなり果ててしまう。生きる事、それは望み欲するだけではなく、自らを律する理を持たねばならない……」
“それこそが我等美徳が司る理性であり、大罪が司る欲望”
凪がそう締め括ると、昴と王牙は頷いた。
「だけど、それは決して平坦な道じゃない――どんな物を目指すにしても、必ず立ちふさがる壁。それが現実だ」
「無論、それに屈せず突き進む事――それこそが根性だ!」
「……流石に、この手の話には食い付きが良いな。王牙」
「では聞こうか――突き進むと言うのは、どうやってだい?」
「無論、正面突破。そして、根性だ」
「うん、君はそれでいいと思うよ。だけど、それがまかり通らなかったら?」
昴の眼鏡越しの瞳――それが冷たい鋭さを持ち、王牙を射抜く様な眼光を発する。
無論王牙はそれに怯む事無く、真正面から相対する。
「現実ほど残酷で理不尽な物はない――最強と呼ばれる僕達美徳ですら、抗えない現実は当然存在する。極端な話、起こりうる事なんて無限通りあるし、その全てに根性論が通用はしない。今がそうであるようにね」
「だが、諦めれば何も残らん――正義陣営に与したとはいえ、ワシはまだ諦めたわけではない」
「――確かに、どんなに力を持とうと抗えない現実は、今確かに存在する。だが諦めてしまえば、その時点で現実の奴隷ではないのか?」
凪、王牙の2人の視線
それに応える様に、昴はゆっくりと口を開く。
「現実の奴隷、か――」
メガネの位置を直すように、ふちに手を当てくいっと上げる。
「もしかしたら人の限界って言うのは、現実に抗えなくなる事を指すのかもしれないね。こう考えれば、限界と評する者がいるのも……」
「待て昴。それでは、正義の戦闘部隊――特に隊長である、椎名九十九の様な思想が生まれる事の説明がつかんぞ。ワシが見る限り、そんな事であんな思想が生まれるとはとても思えん」
「あれはどう考えても、過激すぎる思想と強過ぎる意思が噛み合って生じた物――明らかに諦観ではなく、“悪魔に魂を売り渡した”の方が説明がつく。突き進もうとするならともかく、とても人を限界と評する者の意思ではない」
凪と王牙の指摘に、昴はふむっと顎に手を当て考えるしぐさをし――。
「限界と評する者の狂気か――面白いテーマだね。僕達どころか、一条君がやるべき事も示してくれるかもしれないね」
「――一条が、か。お前は……」
「僕は一条君だろうと北郷さんだろうと、どちらでもいいさ。人との戦いなんて何千何万と殺した所で、所詮は前哨戦。本当の戦いは、まだ始まってすらいないんだ――なのにこんな所で、時間も手間もかけられない」
さて、肩慣らしに始めたテーマですが……思ったより深くなりました。
皆さんはどうお思いでしょ?
次回の参考にもなりますので、ぜひよろしくお願いします。




