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短編 牧師の願いと苦悩

……本格的な更新、やっぱなかなかできない。

これも執筆の合間に書いた物ですが、今はこれが限界です。


もちっとちゃんとした形で出せるのは、もう少し先になります。

正義城礼拝堂


クラウスは正義の上級系譜である以前に、敬虔な牧師である

その為、正義城の一角には、彼の為に礼拝堂が建てられていて――。


「――」


クラウスは牧師らしく、日々の祈りを習慣にしていた。


ここには基本的に、クラウスに用がある以外で正義の構成員が立ち寄る事はないし、基本的に正義に所属する者は、祈りなど無意味と断じてしまっている。

その為、正輝以外を崇める者などいなければ、祈るよりも1人でも悪を殺す事が大事――そう考える者が大半を占めている正義では、完全にクラウス専用だった。


「――今日も熱心だね、クラウス」


――ただ、そんな考えにも拘らず、東城太助は休む際にはここで本を読む事が多い。

クラウスとは付き合いも長く、ある程度考えも理解はしているし――


礼拝堂の磨かれた床に壁、立ち並ぶ机に教壇、象徴たる十字架、それらに幻想的な光を当てるステンドグラス、そして雑音など一切ない静寂。

傷つけてはならない――そう直感に呼び掛けるかのような、“正しき世界”の見本ともいえるこの空間が、太助には居心地がよかった。


「――私は正輝様に忠義を尽くす身であると同時に、神の教えに従う者ですから」

「その辺りは羨ましいと思うよ――君は罪だと思えるんだから」

「悪もまた人であり、命です。どんな悪人であろうと、どれだけ重い罪を犯そうと、人である事には変わりはありません」

「――君の説教自体は嫌いじゃないよ」


人嫌いではあるが、太助はクラウスとの会話自体は嫌いではなかった

彼自身、罪を知り正しさを知り現実を知り――その事を重く受け止めている事を理解しているだけに、太助も彼の言葉には否定の意を示さない。


「――罪悪感も持とうとしない癖に、命がどうだの迷惑だだの、自分の都合を正しさの尺度にする口の臭いゴミ共とは違うからね」

「――私は正義の一員であると同時に、神に仕え神の教えを信ずる牧師です。正輝様の意に逆らう気はありませんが、その意思を捨てるつもりはありません……私は怪物になりたい訳ではないのですから」

「けれど、九十九はその“怪物”になった――クラウス、君に九十九を責められる?」

「――彼のやっている事は、許されて良い事ではありません……ですが、責めるなど出来る訳がありません」

「それで正解――だって本来人を裁くって言うの、軽く考えて良い事じゃないだろ? だけど――」


圧倒的勝利こそが正義であり、正しさなんだ。

正しさは揺らいだ時点で、正しさなんかじゃないんだ。

間違いは悪とみなされ、悪とみなした者は明日さえも許さない。


「……だから正義は今の形になり、九十九はそれに沿った正義の殲滅者になった。人が願った事の通り……ただそれだけのことなのにね」

「――そう思うなら、何故彼女たちと握手を?」

「――僕はこの傷をつけた奴等と一緒になりたい訳じゃない。変わろうとするなら許すつもりも、過去を水に流す気もある。彼女たちに関しては、その一端にすぎないよ」

「……ですが、まだ望みはあります」

「井上首相の案? ――別に受け入れられるなら、いいんじゃない? 失敗しても、僕達は僕達であればいいだけ。受け入れるんなら、僕も少々見方を改めるだけ――僕にとっては、どっちだっていい。やる事は大して変わらないんだから。最も――」


パタン……!


読んでいた医学書を閉じ、太助はこきこきと身体を鳴らし立ち上がる。


「罪悪感なんてゴミでしかない――それが今の人の概念である限り、誰が何をやったって無駄な事だし、僕達の方針を否定出来る訳がない。クラウスを否定したい訳じゃないけど、僕の技術や知識は正義の為以外に使わない……僕がこの傷を消しても良い。そう思える日が来るその時までね」


コツコツと、静かな空間に響く足音が徐々に遠のき――扉の開閉音を境に、礼拝堂は静寂を取り戻す。


「――主よ。お教えください……何故試練ともいえぬ苦行を、我等に課すのですか?」


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