第100話
朝霧裕樹、大神白夜両名がぶつかり、2日が経過。
「――はっ……はっ……」
「――流石に続けると堪えるな」
流石に疲労は隠せず、2人は膝をつきつつもそれぞれ剣を握りしめ、互いを見据え合う。
――2日間続けてユウの背にしがみつくひばりも、最強格2人の戦いという極限以上の危機的な立場にもかかわらず、躊躇や迷いはなかった。
「――何が目的かは知らんが、よくここまでできるな?」
「私は大罪として成すべき事をしているまでだ。文句を言われる筋合いはない」
「その成すべき事に、俺と一条の同盟破棄が含まれるってのかよ?」
「含まれる。ガキの我儘で今の均衡を崩されてはかなわん」
「――ガキの我儘とは随分ないい方だな」
「――落ちついてください。ユウさん」
ユウのブレイカー――“憤怒”の稼働音が、少しばかり強くなった。
その背にしがみつくひばりもそれを察知し、宥める様にしがみつく腕で撫でて宥める。
「お前が――と言うよりも、ナワバリが一条の意を汲んでいるとは到底思えん」
「それは仕方ないじゃないですか。あんな事に――」
「だから何だ? 人が望む正しさなど、“間違いを犯した者に許す物等何もない”、“正しさの前では全てが無意味でなければならない”――その2つにすぎんだろう。その時お前達は一条を裏切り、攻め入った。だから正義はそれを行使しただけの話だ」
「――そんな一方的な正しさがある訳!」
「あった筈だ」
――そう言われたひばりの脳裏に浮かんだのは、白夜襲撃前の修哉達とのやりとり。
「人の考える正しさ“突きつける為の正しさ”に、困難に立ち向かう意思――勇気などある訳がない。本来なら勇気が正義に敗れた時点で、気付くべき事だ」
「――って事は、あの映像を流したのも」
「私だ。一条の意を汲めるかどうかを確かめるつもりでな」
「あー……」
――そう言われ、ユウも流石に納得せざるを得なかった。
答えを明かした以上、白夜も次を許す程甘くはない。
「わかったなら悪い事は云わん、今すぐ手を引け。お前も一条の方針を無駄にし、秩序を壊す事は本意でないだろう?」
「――だったら説得するさ。困難であることは承知の上だ」
「そうです。欲望を斬り捨てれば、確かに争いはなくなるかもしれない――でもそんなのって生きてる事にならないし、成長だって……」
「成長など出来んさ。確かに欲望は人にとってなければならん物であり、成長を促す要素である事も事実」
――だがそれはあくまで、理性で制御できる範疇での話だ。
「理性のない欲望、我儘で成長など出来ん。そう言う人間程、“間違いとは他人の物”――そう思いこみ、道理を捻じ曲げて使おうとする。犯罪契約者も大地の賛美者も一般人どもも、そう言う点では皆同じだ」
「でも人には可能性があります! 確かに修哉君たちは、正しさの使い方を間違えてたかもしれませんが、だからって可能性を奪うなんてそんなの間違ってます!」
「お前の悲しみはその程度の物か、“悲愴”」
「――!」
「美徳自体が、“慈愛”と“友情”が地に堕ち、“誠実”と“希望”は選択肢を縛られ、“勇気”は力と意味を失い、“正義”が守護者ではなく殲滅者でなければならない――正義以外の理性が悉くボロボロになり果てていると言うのに、それを省みもせず悠長なことを言っていれば、悲劇等起こって当たり前だ」
「――そりゃ確かに勉強不足だったな!!」
ユウが右腕を振り上げ、ぐらぐらと煮え繰り返る膨大なマグマを圧縮し、構えを取る。
白夜もそれを見て、右腕に“空間破壊”を展開し、構えを取り――互いに抜き打ちの体勢に入る。
「契約者社会は、ブレイカーの恩恵で成り立つだけの社会じゃない。俺達大罪、そして美徳の比率――欲望と理性の均衡なくして成り立たない世界。だから俺達は、余計な物が余計な力を持ち過ぎたこの世界を変え、失ってはならなかった意味を取り戻す」
「ならばまずは我儘の矯正法でも考える事だな。」
「そうさせてもらうか――お前をぶっ倒した後にな!!」
火山が噴火する様な轟音が響き、マグマが撃ちだされる。
それを迎え討つかのように、白夜が拳を突き出し空間が砕け――砕けた空間に、マグマがぶつかった。
流石に離れると感覚が追いつかないです。




