第99話
鷹久は思い返す
――綾香と同様、かつて上級系譜に成りたての頃に対峙した、正義の鉄槌鍛冶との事を。
「――確か、吉田君だっけ? どうかした?」
「ちょっと話したい事があるんですが――良いですか?」
「? ――良いけど、何を聞きたいの?」
東城太助。
当時は正義の医療担当として、正義が携わった事件での負傷者の救護や、サイボーグ義肢開発で多大な功績を成した功労者。
――ではあるが、大地の賛美者が引き起こしたサイボーグテロ事件により、彼は心なき罵倒や迫害を受けて以来、完全に治療は正義傘下以外を拒み、正義の鉄槌鍛冶と呼ばれる程の兵器開発者として日々心血を注いでいる。
――その事件前に、一度彼に治療してもらった経緯がある鷹久としては、彼の変貌ぶりに思う所があり、一度話をしてみたいと思っていた。
「――貴方はどう思ってるんですか? あんな事……」
「悲しい……とでも思えばいいのかな?」
「……あんなやり方を肯定するんですか?」
「――人なんて放っておいても勝手に生まれる。正しさの前じゃ情も命も無意味……辺りの事言われたんだろうけど、全部事実じゃない」
――明らかに、医者どころか人の言う事ではない。
それを平然と言う太助に対し、鷹久は顔を強張らせるのをこらえつつ会話を続ける。
「――自分が何言ってるのかわかってるんですか?」
「わかってるよ。僕も目の前で、大地の賛美者の前身達に家族殺された身だからね。それ位の分別つくさ」
「だったら――」
「そして、僕の意思にも意味はない――現実なんてそんな物だし、それを無視して何かをやった所で、誰にとっても不幸な結果にしかならないよ」
――僕自身がそうだったようにね。
と、吐き捨てる様に言い放つ。
「――そう思ってるなら、なんで今も医者を続けてるんですか?」
「未来の為さ。欲望を斬り捨てた正しい世界――正輝様が掲げるその世界でも、病気やけがはなくならないからね」
「――でもそれは」
「うん。人が人である意味を失うだろうね――けど、やれ契約者だやれ一般人だ以前にも、肌の色や住む場所、立場に格差で簡単に意味を失って来た物なんだから、今更だと思うな」
――自分の想像以上に、命の価値が彼にとっては軽くなっている……鷹久はそう感じた。
「――貴方の事情は聞いてますし、わかった様な事を言う気はありません。けれど……僕はこのままでいい何て思えません」
「それはなんで? ――僕達を罵倒し、貶す為?」
「違います。僕が欲しいのは――いえ、人が本当に必要なのは敵を打ち倒す為の力じゃなく、身を守るための力なんです。“生きる事はそれ自体が戦い”。1人1人がそう言う自覚を持って生きていける世界を望んでいます」
太助はそう言い放った鷹久の目を見据え――ハァッとため息をつく。
「――まだまだ甘いよ。屁理屈だけど1つ、身を守る為って言うけどさ、“攻撃は最大の防御”って言葉があるよね」
「――ホントに屁理屈ですね。でも僕はそんな使い方する気はありませんし、させるつもりも……」
「――僕もそうだったよ。けど所詮はつもりで終わらされ……いや、終わったけどね」
「……」
「――その時思ったよ。意思を貫く生き方って言うのは、九十九の様に狂気に駆られ、それだけの存在になるか……正解と間違いの狭間で苦痛に苛まれつつ、進み続ける事かじゃないかって」
「――参考にさせていただきますけど、僕は前者は絶対に選びませんよ」
「――そう」
――君にとっての正解と不正解の狭間は、一体どんな物になるのかな?
「――打ち倒す為の力を右手に、そして守る為の力を左手に。そして、貫く意志を刃に」
鷹久はまず、自分にとっての正解不正解を考え――守る力と、打ち倒す力の両方を手にする事を選んだ。
剣と盾と言う様に、攻撃用と防御用――敵を殺す為の力と、守る為の力を。
そして、交互に使わねばならない――という制約をつけた。
傷つける事になれない様、守ることの意味を見失わない様に。
「……行きます」
そして今。
鷹久と綾香は、互いに新たな意思を持って傲慢の上級系譜達と対峙していた。
――本気で前回のPVとかユニークとか、落ちてる気がします。
こっち、つまらなくなったかなと最近不安に……




