第97話
人は脆弱だ――理を壊す程に。
人は愚鈍だ――自分の願いが何を意味しているのか、気付きもしない程に。
人は我儘だ――願いを壊し、狂気を生みだす程に。
人は身勝手だ――齎された終焉を無意味にできるほどに
人は無責任だ――他人を狂気に駆りたてておきながら、それを無視できる程に
「――それはお前の人に対する評価か?」
「何も違いはない筈だがな。北郷を否定するには“これまでの事を水に流し、未来を模索し成長出来る事を示す”。それ以外ない事もわからん位だ」
「――それ絶対出来ないってわかってて言ってるよな?」
「北郷が何の為に今の方針を貫いているか、私が何故対として機能していないかは実証されている。後は人の問題だろう?」
きっぱりと言い放つ白夜に、ユウは苦虫をかみつぶした顔になる。
――それをやるには、あまりにも障害が多過ぎるが故に。
「増して、ブレイカーに依存する特性上、一般人と契約者の区別など曖昧だ。今更どちらが悪いかの定義など不可能」
「……そう、ですね。ブレイカーを手に入れてすぐ、強姦猟奇殺人を犯しておきながら、ブレイカーを隠して一般人だと言い張る事例も、ある位ですから」
「人は無罪だろうと罪を犯す。誰もが悪くはないが悪くはなれる。それを忌み嫌うが故に忌み嫌われる。潰すことを望むが故に潰される。そして――」
――許さない事を望むから許されない。
「――それが正義が今の考えに至った原点か?」
「そうだ。正義を否定する声等、所詮は“他人がやるから”――という身勝手なものだ。確固たる意志どころか、ジレンマでも狂気でもない」
「そんなの暴論じゃないですか! 誰もが正義のやり方を望んでる訳じゃ……」
「望む声はなかろうと、自分がその立場に立つ事前提での望む意思は、確かに存在している――“他人がやるから悪い”だけだ」
そして、それを繰り返すだけの現状では、正義の対などやる気になる方がおかしな話。
――吐き捨てる様に、白夜はそう言い放った。
「――それだけ、お前は北郷が今に至る経緯に納得してるってコトかよ?」
「力は両刃。秩序もまた然り――自分だけが大丈夫などと勘違いした者程、醜い物はない」
「――対として機能すれば、秩序を乱すどころか貴方自身の思想に反する様な事なんですね……その経緯を、教えてはくれないんですか?」
「知りたいなら教えてやる――代償は一条との同盟破棄。嫌なら納得出来る覚悟の提示だ」
白夜は空間を叩き割り、大剣ではなく今度は双剣を取り出し、それを右手を逆手に左手を通常にと構える。
「――とか言いながら、やる気満々じゃねーか。てか見た目に寄らず、大剣なんてパワーファイターな得物使うわりに、そういう武器も使えんのかよ」
「それしか使えない――等と言った覚えはない」
「……昔からそればっかだよな、お前は!」
焔群をベルトに挟み、6本の太刀“六連”を2本抜いての二刀流
「すぅーーっ……はぁーーっ……」
――イメージするは、研ぎ澄まされた刃。
自身の力の根源“憤怒”を研ぎ澄ませ、刃として敵を両断する。
「――我が力は最強にして無双、我が勝利は絶対……故に私に敗北は許されん!」
――片や、イメージするは最強たる自分自身。
自身の力の根源“傲慢”の土台をならし、絶対を持って敵を粉砕する。
「しっかりつかまってろよ、ひばり。一瞬だろうと力を緩めるな?」
「――はい、ユウさん」
「そのままでやる気か? 別に手は出さんぞ」
「――1対1なら、お前は絶対に真正面から受けて立つだろ? 剣戟でならひばりを背負ったままでも、俺に負ける道理はねえよ!」
「言ってくれるな」
すーっと息を吸い――止めると同時に。
ガキィンっ!!
2人はぶつかった。
「――得体のしれん奴ではあるが、こうして相対すれば正々堂々とぶつかるのは確かだよな、お前は!」
「道理を無視出来るほど恥知らずではない。増して確かな物が何もない者が、人を惹きつけ一大組織を率いるなど出来るか」
「違いない!」
2人は剣をはじき、後ろへ飛んで距離を取る。
――そして足が地に着くと同時に、2人は再度駆けだし。
ガキィンッ!
ユウが剣と、白夜の逆手の剣がぶつかる。
「――ハンデがある事は不快だが、面白い勝負ができそうだな」
「出来そう? ――出来る、だろ」
軽口をかわしつつも、2人の意識は相手の一挙手一投足に集中していた。
ギリギリと刃のこすれ、押し合う金属音だけが鳴り響く中、2人はただひたすらに押し合う。
ギリっ!
一際大きな音が鳴ったと同時に、2人は同時に踏み込み、もう片方の剣を振り――交差した。
「……」
「……」
「……え?」
ザンッ!
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「うっ……!」
「くっ……!」
ひばりが疑問の声を出すと同時に、2人に刀傷が刻まれる。
「――こりゃ、真実をかけた戦いってだけじゃねえな」
「ふっ……大罪最強の座、奪ってみるか?」
「――興味ねえ……とは、現状じゃ言えねえな」
「欲しくはないが、必要ではある――不相応な立場は絶対に欲望のタガを壊す以上、最強の座とは本来そう言う物なのかもしれんな」
「――すごい」
風を斬る音、金属がぶつかる音、踏み込む音。
相手の剣戟に正確に合わせて弾き、フェイントと蹴りも織り交ぜつつ、2人はぶつかる
それを音楽に、剣舞を踊っている様な光景。
一撃一撃が、下級契約者を吹き飛ばす程の衝撃を生む剣戟。
そうでありながら、洗練された身のこなしと剣速は軽やかで、綺麗な軌道を描く。
――ユウの背にしがみつくひばりは、腕に力を込めつつその動きに見惚れずにはいられなかった。
「はっ!」
「くっ!」
白夜が剣を交差させ、突っ込むのをユウが受け止めた。
そこで動きが止まり、ギリギリと刃がきしむ音がなり始める。
「……今なら」
――拳銃はまだ弾丸が残ってる。
そんな考え頭に浮かんだ――が、その考えをふり払った
「――ユウさん」
「なんだ?」
「――あたし、信じてます。ユウさんが勝つ事を」
「――任せろ!」




