表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/171

短編 嫌いであること

――僕が何かをするのは、北郷正輝様の……正義の英雄が指し示す世界の為だけ

僕の生きる理由なんてそれだけでいいし、静かに暮らせる日々さえあればそれでいい。


負の契約者や一般人たちの様に、利益や見返りなんて余計な物なんていらない。

医者として成すべき事を成し、純粋に医療の発展に従事する――人なんて本当はそれだけでいい。


――無欲で何が悪い?


欲望に本質を埋もらせ、ただひたすらに見境なく食い荒らし、矛盾を突きつけるしか出来ない者達が、何をもって否定する?

自分以外の人間は迷惑な欲望なんて持たず、ただ正しく生きていればそれでいい――そんな自分勝手な平和の実現を僕達に押しつけておきながら、その願いが齎した結果で何故悪者にする?


自分が願った事すら認めず、都合がいい物だけを抽出し、悪い物は全てを他人に擦り付けのうのうと生きようとする――所詮人はどこまで行こうと、自分勝手なだけ



――僕は、欲望が大嫌いだ。



コンっ! コンっ!


「? どうぞ」


正義の医療連の病室。

以前ひばり達との接触の際負った負傷で大事を取り、今はベッドで医療の勉強をしながら療養中の“正義の鉄槌鍛冶”、東城太助。


「東城先生」


太助は基本的に、医者であり技術者でもある――といっても本職はあくまで医者で、技術者は副職の様な物。

その所為か、東城先生――あるいは東城博士と、2通りの呼び方をされる。


「ああ、冬野隊長代理。お見舞いに来て下さったのですか?」

「――今はプライベートです。そんな言葉づかい、おやめ下さい」


“正義”戦闘部隊長代理、冬野智香。


――彼女は大地の賛美者のテロに巻き込まれ、両親を殺された。

それを太助が見つけ、救った事から正義の傘下に入った経緯を持つ。


その所為か、はたまた幾度となく負傷の手当てを受け持った事もあってか、彼女にとって太助は親であり兄であり――


「――遠くなってしまったように思えますから」


――1人の男性であった。


「ははっ――いつまで経っても甘えん坊だね、智香は。普段はクールな女性闘士ってイメージなのに、僕の前では別人だよ」

「……」

「――だけど、君ももう戦闘部隊長なんだ。甘えん坊は卒業しないと、他に示しがつかないよ?」


と言いつつ、太助は智香の頭に手を乗せ、優しく撫でる。

――智香も目を細め、心地よさそうにその撫で心地に身をゆだねた。


「まだ代理ですし、責任はしっかりと果たしてるつもりです」

「そう――じゃあもうこれはやめようか」

「……」

「はいはい、そんな悲しそうな顔しない――別にもういらないなんて言ってないだろ?」

「――そんな事言われたら、私はどうしていいかわかりません」

「――僕が世話したの、失敗だったかな? ……ごめん。依存症がうつっちゃったね」


苦笑して、太助は読んでいた医療書を閉じる。


「――正輝様も、こんな気持ちだったのかな? ――本当はもっと、楽しい事や嬉しい事を提示したかったのにって思うよ」

「――いえ、後悔はありません。私は……貴方を勝手な理由で傷つけ、貴方の未来に光明を見いだせる功績を踏み躙った挙句悪用し、恥も知らず限界を晒し続けている者たちが許せないだけです」

「――その気持ちがわかるだけに、否定しづらいなあ……ああ、そうか。そう言う事か」


――正輝が本当に願っていた事。

それを実感として――人を介して、理解した


――ただ


「――それでも僕は、欲望が大嫌いだ」


――嫌いである事は、枷となりジレンマともなり、呪いともなる。


時には苦痛を強いる程――大切な存在の願いすらも否定する形にする。

ただ、太助にとっては苦痛もまた救いにはなった。


――正輝の幼馴染であることを理由に、当時10かそこらの自分から全てを奪い、傷を刻んだ大の大人達が抱いた“嫌い”に比べれば。


「来島アキ……君の答えは、どんなジレンマの上に成り立っているか――いや、やめよう」

「……」

「ん? どうかしたかな?」

「いえ――なんでもありません」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ