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カルラ任侠伝 ~暴力と金で乱世を喰らう、天下無双の女傑~  作者: 隣野ゴロー
1章 動乱

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5話 力の一端

実は、内政チート物語だったりします。

 カルラという強烈なカリスマによって率いられる悪党、赤星(あかぼし)。名の由来は、カルラが赤を好む、ただそれだけの理由で付けられた。星という言葉も、深い意味があったわけではない。ふと、彼女の口をついて出ただけだ。


 見ての通り荒くれの集まる悪党。しかしその実態は、カルラに鍛え上げられた精鋭中の精鋭、強力な武装集団である。集権的な統一国家が存在せず、大小の軍閥が割拠する戦乱の中にあっては、何をするにもまずは自衛する暴力が必要なのだ。


 弱肉強食、弱きものは強きものに貪られるのが世の道理。


 誰にも飼われず、支配を受けず、一本独鈷を貫くには、まずもってわかりやすい暴力による力の裏付けが必要であった。


「わー! かったかった! またかったー!」

「かるらねぇちゃん! かえってちたー!」

「おみやげ おみやげー」


 寺で遊んでいた子共らが、赤星の一団を目ざとく見つけて駆け寄ってくる。


 カルラは長い石段を見上げ、幾百段を登り切る。巨大な山門を抜け、さらに奥へ。次の唐門を越えた先で、視界が一気に開けた。この一帯を荘園として領する大寺――夢幻山鳳財寺(むげんやまほうざいじ)。赤星の屯所がある大寺院だ。


 山の尾根全体を切り開き、十を超える塔頭(たっちゅう)(くるわ)のように配されている。峻険な地形と石垣を駆使した巨大城郭ともとれるような、大伽藍(だいがらん)であった。


「また貴様ら人を殺めてきおったな、血なまぐさい不浄の輩どもめ!」


 紫の法衣に金糸をあしらった豪奢な袈裟。一目で高位と知れる老僧が、二人の小僧を連れて出迎えた。しかし、薄汚れた一同の姿を一瞥するなり、その顔を不快そうに歪める。


「出迎えありがとうよ、ジジイ」


 カルラが軽く右手を上げ、老僧の前で足を止める。それに合わせ、後に続く兵たちも一斉に立ち止まった。


「そういえば、四日前だったか。あんたによく似たジジイが、あたしの風呂を覗いていてね」


 長い睫毛(まつげ)に縁取られた切れ長の目を細め、艶っぽい瞳を高僧に向けた。


「ずいぶん息を荒らげていたけど……ちゃんと最後まで楽しめたのかねぇ?」


「なっ——」


 二メートル近い巨躯が、見下ろすようにして一歩詰める。口元には薄く、意地の悪い笑みをうかべていた。


 射すくめられるような視線を受け、老僧は思わず右足を半歩退いた。顔を真っ赤にしたまま、言葉を失う。次の瞬間、どっと兵たちの間から笑い声が湧き上がった。


「僧正、我ら修験者でさえ、あのお方に忍び寄ることは叶わんのだ。おそらく、すべてお見通しでござろう」


「――っ!」


 何かを言い返そうと口を開いた老僧だったが、言葉は喉に詰まり、声にならない。


「気にするな。今度また、暇なときに相手してやるよ。楽しみにしてな」


 そう言ってカルラは、子をあやすように老僧のハゲ頭をぽんぽんと二度叩いた。ぺちぺち、と場違いなほど可愛らしい音があたりに響く。


 同時に、兵たちからは先ほどとは違う、殺気を帯びた剣呑な視線が老僧へと向けられた。


「カルラ様。これでも我らの寄り親なのですから、あまり失礼な態度を取るものではありませんよ」


 老僧の横に並ぶように現れたのは、赤星の兵部参謀を務める男――トドツ・コウメイである。カルラからは単にコウメイ、兵たちからは軍師と呼ばれていた。


 少し茶色がかった柔らかそうな髪を後ろで一つに束ね、その長さは背の中程にまで届く。切れ長の目に高い鼻筋。目元には凛とした知性が宿りながらも、全体の雰囲気は穏やかで、柔らかい印象を与える優男だった。


「コウメイ。風呂は沸いてるかい?」


「はい、準備万端、整えております」


 その返事を聞くなり、カルラは老僧を押しのけるように前へ出て、コウメイの首へ腕を回した。そのままコウメイの顔を大きな胸元に埋めるように抱え込み、ぎゅうっと力を込める。


 巨漢の抱擁に圧されたコウメイが、思わずよろめき、二歩ほど後ろへ後ずさった。


「気が利くじゃないか。さすが軍師だ」


 カルラは構わず背中をとんとんと叩きながら耳元へ顔を寄せ、艶っぽく声を潜めた。


「布で拭くだけじゃ、どうにもすっきりしなくてね。気持ち悪いったらありゃしない」


 そう言って、名残惜しむように一拍置いてから、ゆっくりと身体を離した。


「団長、おかえりなさいませ。で、何人連れ帰りましたか」


 続いて声をかけてきたのは、団を内側から支える商務参謀。赤星を経済面から支える勘定方のヒイラ・ショウカだ。カルラからはショウカ、兵たちからはお奉行と呼ばれている。


「男が一三、男児が五、女児が九だ」


 ショウカは腕を組んで少し考えるそぶりを見せた後、捕虜の列へ冷ややかな視線を走らせ、小さく頷いた。


「年小の女児が多いですな……年下から六人を里の女衒(ぜげん)に流しましょう」


「年下から?」


 カルラは片眉を上げ、胡乱(うろん)げにショウカを見る。


「安く叩かれるじゃないか」


「十を越えれば働けます、学びもできるでしょう。しかし稚児(ちご)は居ても役に立ちませぬ」


「それもそうだね。いらないからと、山に捨てるわけにもいかないし。是非も無し……か」


 カルラは肩をすくめ、短く息を吐いた。


「団長、キヌエに聞かれると、またどやされますよ」


 ショウカの一言に、カルラは慌てて虚空へ視線を泳がせた。


「い、今のは無しだ。忘れろ、いいな」


 その姿を見てくすりと笑ったショウカだったが、すぐに表情を消し、事務方らしい無機質な声に戻る。


「それと、男と男児はブツを見てから考えます」


「そうかい、任せた」


 カルラは面倒ごとは終わったとばかりに、視線を上げ、振り返る事もなく声を張り上げた。


「おいっ!」


 カルラの声に兵達が背筋を伸ばし、姿勢を正す。


「村の者らを連れて、ショウカについていきな」


「はっ」


 とらえた村人を連れていた分隊が、黙ってショウカの後に着いていく。それを見送る老僧が、肩を落として大きく息を吐いた。


「相変わらずえげつないのう……末法(まっぽう)の世じゃ」


「まったくだ」


 カルラは老僧の頭越しに本殿を見やり、口の端を吊り上げる。


「あんたんとこの仏さんは何をしてんのかねぇ、あれだけ立派な家を建ててやってるというのに」


「なんじゃと! この罰当たりめが」


 目を剥いて怒る老僧に対し、カルラは悪びれる様子もなく、親しみを込めてその痩せた背中をバシリと叩いた。


「ははは。ごめんよ、口が過ぎた。後で胸を触らせてやるから、それで許せ」


 そう言ってカルラは手をひらひらと振り、老僧の横を抜けて歩き出すと、本堂の前で兵を整列させて丁重に頭を下げた。隊列を追いかける子どもたちもそれに倣い、揃って頭を下げる。


 帰着の儀礼を済ませた一行は、再び奥へと隊列を保ったまま進んでいく。追いかける子どもたちは相も変わらず、きゃっきゃと声を上げながら兵達にまとわりついていた。


 本堂が鎮座する境内の裏手――なだらかな坂を一つ下りた先で、視界は大きく開けた。そこに広がっていたのは、表の寺院の顔とはまるで異なる、生活と労働の熱気が生々しく息づく空間だった。


 まず目を引くのは、武骨な二階建ての木造建築が三棟。この寺が営む孤児院だ。その傍らには、周囲を圧するかのように、孤児院の一・五倍ほどの高さを誇る巨大な木造建築が鎮座していた。


 さらに脇には作業場と思しき平屋が軒を連ね、その奥――山の斜面へと視線を移せば、手入れの行き届いた背の低い桑の木が、斜面一面を覆い尽くしている。さらにその左手には、山のふもとまでが一望できる絶景が広がっていた。


「キヌエ! 帰ったぞ!」


「おかえりなさいませ、カルラさま」


 飛び出してきたのは、優しげな雰囲気の大人びた女だった。所々に傷みの目立つ日に焼けた黒髪を紐で束ね、大きな房にして右前へと流している。丸顔に垂れ目、大きな口元と豊かな肉付き。


 見るからに柔和で母性溢れる女――孤児院の責任者にして、ここで営まれる殖産事業を一手に取り仕切るキヌエである。


「また子供を連れて来たからね、頼んどくよ」


 キヌエの背後から、三人の女と二人の男が姿を現し、揃って頭を下げた。キヌエは先頭に立つと、きょろきょろと新しい子供の姿を探す。


「あらあら……で、子供たちはどちらに?」


「ああ、ショウカが吟味しているところだ」


 カルラが言うと、キヌエは眉をしかめた。


「みな連れてくればよろしいのに、惨いことをなさいます」


「無茶をいうんじゃないよ。この乱世、孤児など佩いて捨てるほど居るんだ、皆を養う事なんて出来ないんだからさ」


 多くの子供を抱えるこの孤児院では、適性を見極めたうえで一人ひとりに教育が施され、多くの者が働き手として赤星の運営を支えていた。


フソウにおける生糸の生産は、長らく農家が小銭を稼ぐために細々と営む、家内制手工業の域を出なかった。供給量は常に不足し、需要の多くを大陸からの輸入に頼らざるを得ない。


その結果、生糸は恐ろしく高価な――それこそ金と並ぶほどの貴重品とされている。


 そこに目を付けたカルラは、生糸の生産――すなわち殖産の工程を徹底的に分業化し、組織的な生産体制を構築した。ここに築かれたのは、この世界の文明レベルでは存在しないはずの、工場と呼ぶべき生産システムである。


 すべては、彼女の脳内に眠る旧文明の知識から引き出されたものだ。分業による専門化、工程を(つな)ぐライン化、そして大量生産と厳格な品質管理。それらが組み合わさることで、この世界においては異質とも言える生産力が生み出されていた。


 山を覆う広大な桑園では蚕の糧となる桑の葉を育て、収穫する係が働く。そして収穫された葉を貯蔵・管理し、刻んで餌へと加工する係へと引き継ぐ。


 加工された桑を蚕の元へと届ける給桑係。蚕の飼育施設では施設内の温度を一定に保ち、清掃と衛生を管理する育成係。さらに、十分に育った蚕を移動させ、繭を作らせて収穫する係。


 収穫した繭を連窯(れんがま)を利用した大窯で茹で上げ、糸口を見つけ出す係。糸口が出た繭を引き上げ、冷まして機械に据える係。ひたすら糸を紡ぎ続ける係。そして各工程の末端で品質の瑕疵を見定める検品係。


 かつて個人の技に依存していた作業は解体され、すべてが工程として再構築された。その結果、一人当たりの生産力は従来の数十倍へと引き上げられ、品質も輸入された高級品を上回る。


 ひときわ高い巨大施設は、その心臓部だ。内部には空間を垂直方向に多段式の飼育棚が幾重にも積み上げられ、滑車式の昇降装置など、効率的に作業を行うのための工夫も随所に施されている。


 赤星の強さは、兵の武力だけによるものではない。こうした事業から生み出される、未来技術を取り入れた他ではまねのできない優れた製品の数々。これこそが、彼女を、そして赤星を支える力の源であった。

皆さんからの応援が、物語を続けていくモチベーションであり、最高のご褒美です。


ぜひブックマークや☆での応援をお願いします。

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