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カルラ任侠伝 ~暴力と金で乱世を喰らう、天下無双の女傑~  作者: 隣野ゴロー


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27話 ロリ巨乳

 リュウドウ軍の集結地点となった恵比寿(えびす)寺から北上してすぐ、緩やかに湾曲する祇園川の南側一帯に広がる城下町――祇園原(ぎおんばる)


 普段ならば朝市が立つ寺の門前に人々が集い、その日の糧を求めて大いに賑わう。そこには笑顔が溢れ、家事を預かる女たちが井戸端でなにやら会議を始める。それ以外は落ち着いたもので、昨日と同じく、この日もまた穏やかな日常が始まるはずであった。


 しかし、カルラたちが足を踏み入れた時、町はすでに鉄火場(てっかば)と化していた。


 リュウドウの軍勢が進軍経路上にある家々を次々と打ち壊し、従軍する大工らがその木材を簡易の盾や槌へと加工していく。手の空いた兵たちは小頭(こがしら)の指示のもとに陣を(しつら)え、不意を討たれぬよう周りの建物を破却(はきゃく)して視界を確保していく。


 一方で、陣張(じんは)りの合間に手の空いた組頭や侍大将といった上級武士たちは、保身に走る町の有力者から「お目こぼしを」と差し出された女たちを連れ込み、堂々と乱交にふけっていた。


「いいねぇ……これぞ戦場だよ。ここに立てば、嫌でも生きてるって実感するねぇ」


 戦の前の熱気と緊張。そして、混沌の中を騒々しく響き渡る破壊音と、甲冑が擦れる重い金属音。カルラは恍惚とした表情を浮かべて両手を大きく広げると、血生臭い戦場の風を胸いっぱいに吸い込んだ。


 そこへ影が一つ、カルラの前に転がり出るようにして跪いた。


「団長、早速ですが、少しお手を拝借したく……」


 先に潜入させていた、猟兵(りょうへい)の分隊長だ。


「ものは?」


 カルラはすっと目を細めた。残酷な冷徹さと()も言われぬ色気が共存する切れ長の瞳が、分隊長を見下ろす。


「はっ。たたらの棟梁です」


 製鉄職人、玉鋼を生み出すプロ集団、たたら衆の頭。これはいきなり、願ってもない大物だ。


「でかしたね、とびっきりの上物だよ」


 カルラは腰の鉄扇を抜き、左の掌にパシリと打ち付けた。その乾いた音に、背後に控える従者の目元が鋭く引き締まる。


「ムサシ!」


 背後に整列する中隊の先任、第一小隊長のムサシを呼ぶ。


「ははっ!」


「中隊指揮を任せる。猟兵と連携して、ブツを回収しな。手向かう奴は叩き斬れ。厳しいと思ったら、すぐに使いを寄越すんだ」


 直立不動で頭を下げるムサシへ、端的に具体的な指示を飛ばしていく。


「そうそう。他の悪党が邪魔をしたら、遠慮はいらないよ。問答無用でぶちのめして、赤星に舐めた真似をしたらどうなるか、たっぷり思い知らせてやりな。後始末はあたしがつける」


 同じ勢力に参加する悪党同士は相互不干渉、というのが暗黙の掟だ。しかし、暴力こそが全てであるこの稼業、一度でも下手に出れば、そのまま風下に置かれてしまう。


 対立すれば、容赦なく殺る。たとえ相手に十の分があろうとも、面子のためなら(すじ)を曲げてでもぶち殺せ。カルラの言葉には、その強い意思が込められていた。


「了解いたしました。万事、お任せくだされ」


 ムサシは指示を聞き終えると、落ち着いた様子で、静かに深く頭を下げた。


 だが、その慎ましい所作とは裏腹に、()せた顔には得物を前に牙を剥き出しにして嗤う狼のような、凶暴な笑みが浮かんでいた。


 カルラが猟兵に案内されて向かった先。そこは町の西側、祇園川沿いに構えられた広大な屋敷であった。川を渡った向こうは武家屋敷群、その一番奥にはハンバ氏の居館があるはずだ。


「ちょっとちょっと、ちょっとぉ! あんたら、うちの獲物に何をしようってんだい!」


 ぐるりと白塀に囲われ、立ち並ぶ板屋根の建物の奥に、立派な茅葺(かやぶ)きの主屋がそびえている。護衛も付けられていたようだが、門脇には既に討たれた八人の武者が屍を晒していた。


「なんだてめぇ!」


「ほほぉっ! すんげぇいい女だぜ」


「後でたっぷり相手してやるから、そこで待ってな! 逃げんじゃねえぞ」


 死体を無造作にまたいで門をくぐったのは、カルラと従者のシンザ、ゴンタの三人。その少なさに油断したのか、眼を欲に血走らせた悪党どもが、下卑た笑みを浮かべて言い返す。


 広場には扇状に包囲する悪党が、ざっと見て三四人。対して、屋敷を背に半円陣を組むのはわずか十二人。屋敷の中には、武器を持たぬ女子供が肩を寄せ合っていた。


 その陣容は素槍を手に直垂に胴丸を付けた武者が二人、薙刀と短槍を構えた職人らしき男が八人、必死の形相で悪党たちと対峙している。


 その中心で守られるように立つ獲物の姿に、カルラの目は釘付けになった。


 身長は四尺半、約一三五センチほどと小柄ながら、上半身の衣をはだけて(さらし)一丁。その(さらし)を押し破らんばかりに実った豊かな果実が、いやらしく色香を放っている。腰には鎧袴(よろいはかま)を履き、脛紐(すねひも)をきつく締め、足袋(たび)で地をしっかりと踏みしめるその姿は、小さな身体に似合わず凛として勇ましい。


 ぱちりとした二重の瞳に、後ろで束ねた黒髪のポニーテール。庇護欲をそそる愛らしい容姿でありながら、身の丈を超える大薙刀を脇に構え、悪党どもを射殺さんばかりに睨み据えるその眼光は、まさに「たたら場」を守る女傑のそれであった。


 その横にぴたりと侍り、逆手に握った短刀を二刀構えているのは、昨晩のうちにこの町へ送り込んだ猟兵の一人だ。彼はカルラの姿を認めると、わずかに目元を緩め、張り詰めていた緊張を解くように安堵の吐息を漏らした。


「夢幻山鳳財寺の大悪党、赤星のカルラだ! その娘にはあたしが先に唾を付けてんだよ。横入りとはいい度胸してるじゃないか!」


 カルラは高らかに言い放ち、悠然と歩みを進める。その名を聞いた途端、悪党どもの間にさっと戦慄が走った。だが、目の前の獲物を諦めきれない数人が、虚勢を張って怒鳴り返す。


「なんだと、てめぇ! 先にここへ踏み込んだのは俺たちだぜ! なあ、みんな!」


「おうさ! 赤星だか何だか知らねえが、さっきまでおめえら影も形もなかったじゃねえか!」


「がたがたうるさいよ!」


 男たちの声を一喝し、カルラは手首を振るようにして鉄扇をバッと広げる。そして、すぐさまガシャンと鈍い音を立てて閉じた。そのまま晒し姿で大薙刀を構える女を、鉄扇の先でビシリと指し示す。


「あのロリ巨乳の横にいる男が見えないのかい? ありゃ昨晩のうちに忍び込ませた、あたしの手駒さ。先に手を付けたのはどっちか、その腐った頭で考えな!」


 指された女は、新たな悪党の登場に困惑し、複雑な表情でカルラを睨みつける。しかし、カルラはまったく意に介さず、取り囲む悪党に視線を向けていた。


「……カルラ様。一つよろしいでしょうか」


 背後から、シンザが表情一つ変えずに、真顔で呟いた。


「ロリ巨乳というのは、……どういった隠語で?」


 伝令役を主に務める従者だ。主人が使う隠語を理解しておかねば、いざというときに言葉の齟齬(そご)が生まれるかもしれない。そう慮っての真面目な質問だった。


「シンザ。あんた、たまに口を開いたと思えば、本当に碌なことを言わないねぇ」


 カルラは忌々しげに首をひねり、肩越しに背後の従者を睨みつけた。


「ただの勢いだよ。そんなもんに、一々深い意味なんてあるわけないだろ……」


 呆れたように肩をすくめるカルラ。実は深い意味もあるのだが、それは数千年という時の流れに埋もれた記憶に過ぎない。もはや誰も口にせず、意味すら失われた太古の言葉であった。


「おいっ! チンパン! そっちはお前んとこに任せたぞ」


 包囲している悪党どもは一枚岩ではないらしい。いくつかの徒党が寄り集まり、この屋敷を襲撃していたようだ。全体を取り仕切る頭役の男が、仲間に向かって指示をだす。


「おぅ、任せとけ! その代わり、この赤い大女……最初に犯すのは俺だからな」


 チンパンと呼ばれた男が下衆な笑いを浮かべて頷くと、十三人の悪党が囲いを解き、カルラの前へと立ち塞がった。


「シンザ、ゴンタ……下がってな」


 カルラが敵を見据えたまま静かに告げると、二人は一切の躊躇なく、脱兎のごとく門まで引き下がった。


「ぎゃはは! お供に見捨てられてやんの!」


 チンパンはわざと余裕を見せているのか肩に槍を担ぎ、空いた手でカルラを指さして肩を揺らした。だが、その嘲笑が止まぬうちに。


「うるさいよ」


 カルラの低く、冷ややかな声が鼓膜を叩いた。


 ――その瞬間。


「べぎょっ」


 無理やり空気が抜けるような声と、熟した瓜が潰れたような、湿り気を帯びた破壊音が響いた。瞬きの暇もなく、凄まじい速度で踏み込んだカルラの一撃。


 チンパンの顔面に叩き込まれたのは、閉じた鉄扇。鼻梁(びりょう)に命中したそれによって、押しつぶされるようにひしゃげ、顔面そのものが陥没して原型をとどめぬほどに破壊されていた。


 チンパンは悲鳴を上げる暇もなく、鮮血と共に桃色の脳髄を無惨にぶちまけ、その場に崩れ落ちる。


「こいつ!」


 言うが早いか、隣の男の脳天へ、閉じた鉄扇が叩き込まれた。再び響く、怖気(おぞけ)を催す破壊音。頭の高さが半分ほどにまで圧し潰された男は、呻き声一つ上げられぬまま前のめりに沈んだ。


「なんだよこれ! やべぇ、やべぇよ!」


 恐怖に引き攣った声が響いた時、すでに近くにいた別の男が、首を鷲掴みにされて宙に浮いていた。


「さて、誰があたしの相手をしてくれるんだい。強い男に組み伏せられて、獣のように犯されるんだろ? あたしはその気になってるんだけどねぇ」


 カルラは艶然(えんぜん)とした笑みを浮かべ、片手一本で大の男を軽々と吊り上げている。男は眼球が飛び出さんばかりに目を見開き、武器を放り出して、自身の喉を絞めるカルラの腕を必死に掻きむしった。しかし、その抵抗も空しく、カルラの指が喉を突き破る。


「ご、ぼはっ……べ、ぼべんな……ざい」


 血の泡をごぼごぼと吹き出しながら、必死の謝罪を絞り出す男。やがて男は全身の力を失って脱力し、だらりと垂れた手足を揺らして動かなくなった。絶命した男の喉から指を引き抜くと、カルラは血に濡れた指先を自らの唇に添え、(つや)やかに紅を引いた。


「ほら、あんたたち。突っ立ってないでかかってきなよ。あたしを満足させてくれるんだろ?」


 返り血を浴びた顔に、男を(ねや)へ誘うような挑発的な笑みが浮かぶ。カルラは悠然と足を肩幅に開いて左手を腰に当てると、右手に持った鉄扇でトン、と自身の肩を叩いた。


 男を誘うむせ返るような色香とは裏腹に、彼女の全身から放たれるのは濃密な死の気配だ。さきほどまで下卑た笑みを浮かべていた男たちは、もはや声を上げることすら忘れ、蛇に睨まれた蛙のように立ちすくんでいる。


 男たちが恐怖に喉を鳴らす音だけが響く中、カルラはふと、その血塗られた視線をロリ巨乳の女へと向けた。そして、驚愕に目を見開く彼女に対し、悪戯っぽく片目を瞑ってみせた。


(あ・た・し・の・も・の・だ)


 声には出さず、ただ唇の動きだけでそう告げる。


 ロリ巨乳はその言葉を正確に読み取ったのか、あるいはその圧倒的な覇気に当てられたのか。大薙刀を握る手に力を込めながらも、わずかに目を伏せて頬を赤らめた。

皆さんからの応援が、物語を続けていくモチベーションであり、最高のご褒美です。


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