1話 序幕(プロローグ)
新作、プロローグです。
正義は勝つ、か。
滑稽だな。勝った者が正義を名乗る――ただ、それだけの話だ。
そもそも「正義」などというものは、主観と環境に左右される極めて曖昧な概念にすぎない。
気質や利害、倫理観や立場……年齢や性差。何を正しいとするかは、状況次第でいくらでも姿を変える。貴様が「絶対悪」と憎む振る舞いすら、当人にとっては「絶対の正義」なのだ。
全員が正しく、同時に全員が間違っている。その不条理こそが、この世界の真実である。
ゆえに、相容れぬ正義が対立し、そこに争いが生じたならば――異端の正義を掲げる者をねじ伏せ、屈服させることでのみ、己の正義は貫かれる。
争わずとも理解し合えるなどというものは、弱者の見る甘い幻想だ。それは、人類が紡いできた闘争の歴史がとうに証明している。かつて高度に発展したと誇った文明世界でさえ、法や裁判という体裁を取り繕った「争い」を続けていたではないか。
どれほど崇高な正論を吐き、小賢しい理屈で道徳を説こうとも――頭蓋を砕かれ、喉笛に刃を突き立てられれば、後に残るものは物言わぬ敗者の骸と、勝者の理屈、正義のみ。
すなわち、究極的には暴力こそが絶対の正義であり、暴力によってのみ正義は証明されるのだ。
そして、敗者は例外なく悪となる。
命を懸けた理想も、高潔な信念も、敗北した瞬間に呪いへと姿を変える。その血肉を分けた子孫までもが「敗者の血」として蔑まれ、正義に楯突いた悪として、永遠の汚名を着せられるのだ。
この積み重ねこそが歴史であり――この世界の揺るぎない理である。
ゆえに、誰もが己の正義を証明すべく力を渇望し、我こそが最強たらんと相争う。
そうして人類は際限なき血みどろの闘争に身を投じ、自ら破滅のへと至るのだ。
硬派なダークファンタジー作品、魔法は登場しません。




