表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/8

第七話 腹黒参謀候補の接触

 エドワード。カイ。

 未来史で悲惨な最期を迎える二人に、ようやくアナスタシアは小さな手を伸ばした。


 けれど残る三人も放ってはおけない。

 その中でも、もっとも危険なのは――


「……テオ・ラングフォード」


 未来史に記された彼の死は、実に不気味だった。

 ――『裏切りを疑われ、処刑される』。

 誰が彼を疑い、なぜ断罪に至ったのかは書かれていない。ただ、学園を去った後、彼の名は歴史から完全に消えた。


「裏切りを疑われるって、どれだけ腹黒いのよ……」


 アナスタシアは資料室で未来史を閉じ、額に手を当てた。

 確かに学園内でも「ラングフォード家の次男は策謀家」と噂が絶えない。

 頭が切れ、交渉力も抜群。けれど、人の心を読むような冷たい笑みを浮かべることから、皆一様に彼を恐れていた。



 数日後。

 アナスタシアは学園の中庭でその「腹黒参謀候補」と鉢合わせた。


「……グランディール嬢」

「……ラングフォード様」


 テオ・ラングフォードは黒髪に灰色の瞳を持ち、学園の制服を完璧に着こなした青年だった。

 年齢はアナスタシアと同じだが、纏う雰囲気はずっと大人びている。

 整った笑顔の奥で、計算を巡らせているのが透けて見えるほどだった。


「お噂はかねがね。王太子の婚約者、そして――学園一の悪役令嬢」

「……わざわざ嫌味を言いに来たの?」

「とんでもない。ただ、ご挨拶をと思いまして」


 彼は恭しく頭を下げる。

 けれどその仕草のどこかに芝居がかっているのを、アナスタシアは見逃さなかった。


(……これよ。未来史で『裏切り』を疑われる要素。表と裏が違いすぎるのよね)


 未来を変えるためには、彼の本心を知る必要がある。

 だが不用意に近づけば、逆に利用されかねない。

 アナスタシアは唇を引き結んだ。


「グランディール嬢。あなたは……『未来を読む』そうですね」

「……っ!」


 一瞬、心臓が跳ねた。

 彼はあっさりとそう口にした。噂なのか、探りなのか、あるいは直感か。


「……何を根拠に?」

「勘ですよ。ただ……あなたの視線は普通の人とは違う。僕と同じように、先を見ている者の目です」


 テオの笑みは、刃のように鋭い。

 彼は他人を観察し、弱みを握ることを楽しんでいるのだろう。


「僕は将来、国の参謀になるつもりです。あなたと組めば――きっと大きな力になる」

「……それは提案? それとも脅し?」

「もちろん、提案ですとも」


 言葉とは裏腹に、彼の目は「断れば面白いことになりますよ」と語っていた。



 その夜。

 自室の机に座り、アナスタシアは溜め息をついた。


「……やっぱり危険だわ。未来史で処刑されるのも納得」


 テオは生まれついての策士。

 彼の知略は必ず国にとって必要になる。

 でも、それを恐れる者たちに疑われ、潰される未来が待っている。


「放っておいたら確実に死ぬ……。でも、味方につければ――」


 アナスタシアは羽ペンを握りしめる。

 未来を変えるためには、彼とどう向き合うかが大きな鍵となる。


 そして胸の奥で静かに決意した。


「テオ・ラングフォード……あなたを処刑なんてさせない。利用されるのは嫌だけど、私が利用してやるわ」


 窓の外、月明かりが彼女の決意を照らしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ