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第二話 破滅フラグを発見!

 「破滅フラグ」――そう名付けるのが一番しっくりくるだろう。

 未来史の記録に目を通して数日。わたくしはすでに、自分の人生に待ち受けるいくつもの落とし穴を見つけてしまった。


 まず一つ目。

 ――学園の卒業パーティにて、王太子ルシアン殿下から断罪される。

 罪状は、平民出の令嬢を苛め抜いた挙げ句、命を狙ったというもの。

 その場で婚約破棄を宣言され、アナスタシア・グランディールは国外追放。数年後、盗賊に襲われ命を落とす。


「……これが一番の大フラグね」

 未来史の書をぱたんと閉じ、わたくしは深くため息をついた。

 なんとも容赦のない未来だ。婚約破棄だけでも痛手なのに、その後の結末があまりにも救いがない。


 二つ目のフラグ。

 ――魔術の実技試験で暴走事件を起こす。

 このとき現場に居合わせた魔術師カイは庇って命を落とす。

 本来ならわたくしも同時に死亡するはずだったが、なぜか助かってしまう。そのせいで「魔術師を犠牲にして生き残った悪女」として憎悪を一身に集める。


「これもひどい話ね……」

 自分の死よりも、周囲の人間を巻き添えにしてしまう未来が何より胸に刺さる。

 泣き虫騎士にしても、参謀候補にしても、魔獣使いの少年にしても――彼らは皆、この未来史の中で必ず命を落としていた。


 まるで、わたくしの存在そのものが彼らの不幸の引き金になっているよう。


「……これは、放っておけないわね」


 机の上に広げた羊皮紙に、フラグと思しき出来事を赤いインクで書き出していく。

 断罪イベント、魔術暴走、騎士の戦死、参謀の裏切り死、魔獣使いの暴走――。

 一つ一つが物語の節目のように記録されており、そこから先の未来は破滅へまっしぐらだった。


 冷静に考えれば、この未来史自体が「誰かにとって都合のいい物語」だ。

 王太子と平民ヒロインが結ばれるために、悪役令嬢であるわたくしは不要だから切り捨てられる――そういう筋立てにしか見えない。


「……冗談じゃないわ」

 わたくしはにやりと笑った。

 これほどわかりやすく破滅のルートが並んでいるのなら、やることは一つ。

 フラグを片っ端から折って、わたくし自身と――そして攻略対象たちの未来を救ってみせる。


 けれど、そのためには……。


「婚約者の殿下をどうにかしないと、ね」


 ルシアン・フォン・ヴァルデール殿下。王太子にして、未来史ではヒロインと結ばれるツンデレ王子様。

 わたくしにとっては、最初にして最大の難関だ。

 未来史によれば、わたくしを心底嫌っているらしい。断罪の場面では、冷たい笑みすら浮かべていた。


「……ま、今のうちに手を打っておきましょう」


 ツンデレ王太子を手懐ける。

 泣き虫騎士を一人前に育てる。

 落ちこぼれ魔術師を導く。

 腹黒参謀を味方にする。

 孤独な魔獣使いの少年を守る。


 ――そして何より、悪役令嬢アナスタシア・グランディールの破滅を回避する!


「さぁ、未来を作り直すのよ!」


 わたくしは未来史を抱きしめ、決意を新たに立ち上がった。

 その姿を、部屋の隅で控えていた執事セドリックが静かに見守っていたことに、わたくしは気付いていなかった。

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