黒騎士と姫とハンナの呪い19
「……!!」
老魔法使いの言葉が終わると、沈黙が空間を満たした。
しかし、その沈黙は普通の沈黙ではなく、無数の声を含んだ静寂だった。
テネブレ。
それが誰かと問われれば、答えはたくさんある。
この魔界の二代目の王であり、稀代の暴君。残虐な虐殺者。
しかし、何よりもあの者を表現できるのはこの単語だと俺は思っている。
『戦争の元凶』
全てはあの魔王の欲から始まった。
あの残酷だった戦争も、それによって失われた無数の命も。魔王が人界を狙って戦争を起こさなければ、起こらなかったと誰もが口を揃えて言う。
俺が死んだのも、あの魔王が起こした戦争の結果だったな。
でもそんなことが大した問題にならないほど、あの戦争では多くの命が散った。
だからこそ、三代の魔王となった魔王カシャベルは、鬼のごとく執拗に二代魔王の残党を虐殺したのだ。
これ以上同じことが起こらないように。
なのに、今になって、こんなところであの暴君の名前が出てくるなんて。
一瞬、目の前が真っ赤に染まったような気がした。
「……ハンス」
「……ああ、わかった」
俺の呼びかけにハンスが重くうなずいた。
「頼む」
その言葉が終わると同時に、俺は老魔法使いに向かって体を飛ばした。
「はっ! 今さら足掻くと言うのか! いいだろう! この大魔法使いゲード様が相手してやる!」
今まで俺が積極的に攻撃する姿を見せなかったせいか、老魔法使いゲードはむしろ体を大きく広げて俺の方へ杖を向けた。
しかしーー。
「出よ!【カスーー】」
周りの被害を考えず本格的に能力を解き放った俺のスピードは、老魔法使いが呪文を唱えるよりも速かった。
老魔法使いゲードが呪文を唱え終わる前に、俺の剣が魔法使いの喉元に届いた。
魔法を使う前に急所を取られたゲードは驚いて呪文を唱えるのを忘れ、大きく開いた目で俺を見つめた。
高速で動いた俺の疾走の余波で、ゲードの全身に細かい切り傷ができたが、驚いたあまりそれにもまだ気づいてないように見えた。
勝った。
このまま首を切れば俺の勝ちだ。
ハンナはハンスが何とかしてくれるはずだ。
さっきは突然の出来事で対応できなかったが、今はハンナも悲鳴をあげていない。
おそらくハンスが吸魔石で作った魔道具をハンナに着けたのだろう。
だから、俺はこの魔法使いの首を切るだけでいい。
そうすれば、この場での出来事は全て無かったことになって、俺たちは平和な日常を取り戻すことができる。
残っている第二魔王派の残党に関する情報を聞き出すのは、後で霊墓城の魔法使いを使えばいいから問題ない。死者の扱い方を誰よりも理解している彼らなら、きっと有用な情報を引き出してくれるだろう。
だから、俺は、この魔法使いの、首を、切るだけでいい。
それなのにー、
魔法使いの首から爪一つ離れたところ、そこで剣は動かなかった。
いや、それを超えて、今になってはチカチカと視界が白く途切れ始めている。
白くなった視界の向こうから、赤一色の地面が見えた。
果てしなく続く血塗れの地面、その向こうで記憶にない顔たちが叫んでいた。
その顔は、顔に大きな傷がついたゴツゴツの中年から、そばかすのある女性の顔に変わり、そのあとはやんちゃな笑顔が似合う少年になった。
何の共通点もないように見える者達。
しかし、彼らは皆一つになって叫んでいた。
ただ悲痛に、胸が張り裂けるごとく悲痛にー。
彼らが何を言っているのかはわからない。
ただ俺は頭痛がするほど悲痛な叫びと、くるくる回るような青紫色の空を見上げながら、手に持った剣を握りしめた。
「くうッ! く……そッ!!」
突然の幻覚に剣先が震え、無駄に多く入った魔力のせいで剣が割れそうに泣いた。
その最中に聞こえる魔法使いの嘲笑う声も、どこか遠くで聞こえるような気がした。
そしてその先に、
パリンッー!
とした音と共に剣が真っ二つに折れ、先端に近い部分が俺の頬を切って後ろに飛んでいった。
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