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黒騎士と姫とミルク2


 


 それにしても痛い!! 痛い!! 聖石! 聖石……!!


 ……あ、ちょっとマシになった!


 ふぅー。どれどれ。うーん。今度はおむつじゃないな。お尻の下がまだサラサラだし。えっ、じゃあ、じゃあ、なんだーーーーて!! どう考えても育児初心者の俺には分かるわけないだろ!!!! ちくしょう!!!!!


「……お父さん! どうしたの!? 赤ちゃんの泣き声が聞こえたけど」


 慌ててベベの顔を窺っていると、2階にいたハンナが店の方に降りてきた。

 そしてそわそわしているハンスと俺の顔を見て、あきれたようにため息をついた。


「はあー。二人ともどいて」

「え? ハンナ、赤ちゃんの世話できるのか?」

「当たり前だ! うちのハンナはすごいんだぞ! たまに隣のマレさんに頼まれて子守をしに行くこともあるんだからな!」

「……そうか、すごいな」


 いくら村で一緒に子育てをするとはいえ、まだ小さいのにしっかりしてるんだな、ハンナは。

 ハンスは見習ったほうがいいと思うぞ、お前の娘を。 ...... まあ、俺もそうだけど。


 とにかくハンナが助けてくれたおかげで、俺たちはベベを泣き止ませることができた。

 どうやらお腹が空いていたらしい。

 さっきは慌てて思い出せなかったけど。そうだよね。そろそろお腹が空く頃だ。魔王城から出てきてからもう1時間経ってるんだ。

 ……こんな小さな子供を空腹になるまで飢えさせるなんて。俺はなんて悪い大人なんだろ。反省しよう。くっ。


「……だから、赤ちゃんはこうやって抱っこして、ミルクを少しずつゆっくり飲ませるのが大事です」

「へえー、そうなんだ。教えてくれてありがとう」


 この世界の哺乳瓶は地球と同じ形ではなく、小さなティーポットのような形で、赤ちゃんがむせることがないように少しずつゆっくり飲ませる大事なようだ。

 ……ここにハンナがいてくれてよかったな。俺一人だったら大変なことになっただろうし、マジ反省しよう。やっぱり子育ては誰でもできるものじゃない。本当、誰か変わってくれないかな、この仕事。


「はあ、乳母でも雇えたらいいのに」

「え? 雇えないんですか?」

「あー、そうだな。俺の勤務先があそこなんだからな」

「ああっ! そう、ですよね……」


 俺の言葉の意味を理解したハンナが、そっと視線を逸らした。

 ナイトは四天王の一人である奪命王ブレードの側近という設定だ。騎士みたいなものではなく、秘書の方。だから俺が乳母を雇うことになれば、当然その乳母の勤務地は奪命王の領地である「死の谷」ということになる。あの入ったら最後、生きて出た人がないという噂が流れてる領地が勤務先だなんて。同然、人が雇えるわけがないのだ。ハハッ(泣)


「まあ、頑張ってみるよ」

「ナイトさん……」


 ハンナが涙を浮かべながら可哀想そうな目で俺を見た。

 自分でも手伝ってあげたいが、やはり奪命王の領地に行くのは恐ろしいようだ。

 ところでハンス、そんな睨むなよ。俺がわざとハンナを泣かせたわけじゃない。まだギリギリ泣いてないし。

 ……仕方ない。ちょっと慰めるか。

 そっとひざまずき、ハンナと視線を合わせた俺は、口元に絵に描いたような笑顔を作り、できるだけ優しい声でハンナに言った。


「だからハンナ、俺がここに来た時だけでいいから、この子の世話を手伝ってくれないか?」

「……はい!!」


 ハンナが満面の笑みを浮かべて俺の頼みを受け入れ、それを聞いたハンスが嫌な顔で俺を睨みつけてきた。


 な、何だよ! なんでそんな目で見てくるんだ! 決して優秀な子守りに見えるハンナを狙って言ったんじゃないんだからな! もちろん全然そんな企みがないかと言われると嘘になるが! でもハンナを慰めるのが一番の目的だったのは真実だからな!


 心の中でそう言い訳していると、ハンスが音もなく口を動かした。


「ハンナハ・ワタサナイ」



 要らねぇよ!! くれても貰わないからな!! ハンナのことを心配してるのかと思ったら、いつものイカレ親バカだったのか!! した心は確かにあったけど、労働力に対してであって、そういうのじゃないからな!! 確かにハンナは可愛いけど、いくらなんでも姪っ子みたいな子に手を出す訳ないだろうが!! そもそも年の差が何十離れていると思ってるんだ!! 俺はロリコンじゃないからな! ちくしょう!


 あと、ハンス、その顔なんとかしたほうがいいぞ! 今ハンナがお前の顔見てため息ついたんだからな! この親バカ野郎!

 そんな意味を込めて、しばらくハンスと目を合わせていると、


「はい、全部飲みました!」


 ハンナが俺たちの視線を切るように入ってきて、ベベを俺に渡した。慌てて渡されたベベの顔をそっと見ると、大泣きしていたさっきとは違い、ベベはだいぶ落ち着いた表情で目を合わせてくれた。

 俺はそんなベベの頬をトントンと優しく撫でながら、ハンナに礼を言った。


「おお、ありがとう。ハンナ」

「いえいえ、これくらい当たり前ですから! いつでも頼ってください!」

「ハハ。ハンナは本当にいい子だな。ありがとう、ハンナ」


 ぎゅっと拳を握りしめて生き生きと話すハンナの頭をそっとなでると、ハンナは嬉しそうに笑い、ハンスは嫉妬に燃える目でこちらをにらんできだ。

 おいおい、親バカも程々にしてくれよ。ハンス。まったく。


 さてと、これ以上いるとハンスが面倒くさくなりそうだし。今日はもうそろそろ帰とするか。


「じゃあ、ベベも泣きやんだし、そろそろ帰るよ。この子のためにミノタウロス農場を探さなきゃならないし」

「えっ。ナイトさん、ミノタウロス農場に行くんですか?」

「ん。ベベのご飯が必要でね。実は、手持ちが少ないんだ」


 正確に言うと、今食べさせたのが最後だ。まったく、魔王様は何を考えているのやら。少なくとも一週間分は用意して欲しかった。

 そんなことを考えていると、ハンナが片手を挙げて言った。


「それなら私が案内します!」

「大丈夫か? 毎日店の事で忙しいのに」

「一日くらいなら大丈夫です! 今日やることはだいたい終わりましたし、ねぇ、お父さん?」


 まさか、道も知らないナイトさんを一人で行かせるつもりじゃないよね、とハンナが目で言った。

もし反対したら、人でなしと嫌われるに違いない目だった。

 その目は、ハンスが悩むほど強くなっていた。

 ぐぬぬ、と眉間にしわを寄せながら悩んだハンスだったが、結局、親バカなハンスは許可するしかなかった。


「わかった! わかったから、そんな目で見ないでくれ、ハンナ!」

「そんな目って、どんな目? お父さん」

「そ、それは……、くっ!」


 ハンナの問いにハンスは何も言えずに頭を下げた。

 うん、そうだよな。娘が自分の事をゴミを見るような目で見たと言うのは厳しいからな。ましてやその娘の前ならなおさらだ。

 その代わり怒りの矢は俺に向けられた。

 ハンスが人差し指を俺に向け、警告するように言った。


「おい、ナイト! 案内が終わったら、ハンナは返せよ! すぐにだ! わかったな!」

「ああ、わかった」


 わかっだから睨むのはやめろよ。またハンナが隣でため息をついているぞ。


 

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