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黒騎士と姫とハンナの呪い15




 その歓喜の声に魔法使いたちは驚き、俺は思わず口元を上げた。

 一番大きな反応を見せたのは、呪文を唱えていた老魔法使いだった。


「ガッ!!なん……!!」


 老魔法使いが血を吐き、発動寸前だった魔法がキャンセルされた。

 状況から推測するに、先に発動していた【犠牲の陣】がハンスに無理矢理キャンセルさ れたせいで、逆流を起こしたのだろう。


「し、師匠!!」

「師匠!!」


 老魔法使いの弟子二人が心配そうに師匠を呼んだが、老魔法使いはそこには目もくれず、後にいたハンスを睨みながら叫んだ。


「……キサマ、また儂の計画を邪魔する気か!?」

「はっ! 邪魔したのはテメエの方だろ! 俺の大切な一人娘に呪いをかけて、誘拐までするなんて! 覚悟はできているだろうな!」


 ハンスはそう言いながら、ハンナをちらりと横目で見た。

 普段ならそんな弱み丸出しのような行動はしないはずだが、ハンナが捕まっていることがかなり気になっていたようだ。

 そして、それに気付かないほど老魔法使いは鈍感ではなかった。

 老魔法使いがすぐにハンナの首を握って言った。


「動くな!! もし動いたら、この小娘がどうなるかわかっているだろう!」


 老魔法使いの脅しにハンスがびっくりして動きを止めた。

 いくハンスでも、あんな風に首を掴まれていては、ハンナを助けることはできない。


 その一瞬の躊躇が作った隙間。

 その短い隙間に、俺と戦っていた二人の魔法使いが再び防御魔法を発動させた。

 急いで防御魔法を放った二人の魔法使いは、師匠に向かってひざまずきながら謝罪した。


「師匠、申し訳ございません! 私の警戒が足りなかったせいで!」

「申し訳ございません! 師匠!」


 深く頭を下げたまま震えている姿を見ると、この件で老魔法使いにどんな罵声が飛んでくるか怯えているようだった。

 そんな二人を見下ろした老魔法使いが舌打ちをしながら言った。


「もういい。ピエト、こっちへ来い」

「は、はい!」


 老魔法使いの呼びかけにピエトは膝をついたまま老魔法使いに近づいた。

 すると老魔法使いはピエトを見下ろしながら優しい声で言った。


「前回言ったな、これが最後のチャンスだと。丁度いいから、お前を儂の魔法の供物にしてやろう。【エナジー・ドレイン】」

「な、何……きゃああああああああッ!!」


 あまりにも穏やかな声に遅れて状況を把握した魔法使いピエトが逃げることもできず、師匠の手元で悲鳴を上げた。

 手の先から乾き始めたピエトの体は、数秒も経たずして痩せたミイラとなって倒れ、老魔法使いは満足げなため息を吐きながらフードを外した。


「……はあ」


 そして目にした老魔法使いの姿に、そこにいた全員が目を見開いた。


 フードの下からも分かるほど腐っていた肌が、まるで若返ったかのように引き締まっていた。

変わったのはそれだけではなかった。

 前かがみになっていた背中も真っ直ぐになり、先ほどより背が高くなったように見えた。いや、見えてるじゃない。そうなっていた。


 ええと、だからこれは……。


 コイツ、弟子を生け贄にして若さを手に入れたのか。


 師匠が何のためらいもなく弟子を生け贄にしたその光景に、そこにいた全員が口を閉ざした。

驚きのあまり言葉が出なくなったのだ。


 しかしそれも束の間。

 老魔法使いの言葉に周囲の視線が集まった。


「おい、小僧、一つ提案をしよう」


 そう言う老魔法使いの視線は俺に向けられていた。

 その視線を一身に受けながら俺は考えた。


 ハンナとベベを救うためには、まだ生きている魔法使いアルケの防御魔法を突破し、老魔法使いの手からハンナとベベを救出しなければならない。


 昔ならともかく、人を殺す前に手が止まってしまう今の俺には難しい。


 本気で掛かれば、狙いのハンナと結界に包まれてるベベならともかく、敵の魔法使い二人は余波に巻き込まれて殺してしまうかもしれない。

 それを考えるだけで、足が重くなり、わけのわからない苦痛が頭を痛くした。


 幸い、ハンスは老魔法使いの牽制を防御しながら、なんとか防御魔法を解除しようと奮闘している。


 防御魔法さえ解除できれば、ハンナとベベを救うことはどうにかできる。


 そう考えた俺は、結局、ハンスがあの防御魔法を解除するまでの時間を稼ぐことを決意し、老魔法使いの声に答えた。




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