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黒騎士と姫とハンナの呪い10





「たぶん、夜の帳あたりだろう」


 ハンスの言葉に、俺は小さくうなずいた。

 この魔界の中ならともかく、夜の帳の近くまで移動して魔界を抜け出すことになったら、ハンナを取り戻せる可能性は限りなく低くなる。

 ハンスは聖国から逃げ出した身だし、ハンナと繋がりのある俺やギャルルもこの魔界の人間だ。なので夜の帳の外に影響を及ぼすことは難しい。


「あの魔法陣が完成する前に、この状況をどうにかしないとな」


 俺と同じことを考えたのか、ハンスが心を決めたように袖から杖を握り出しながら言った。


「お前は囮になって視線を引き付けろ。俺は後ろに回って魔法陣を解除する」

「ああ、わかった。ちなみに、犠牲の陣にどいつが繋がっているか分かるか?」

「……わからん。陣の繋がりが複雑すぎる」

「そうか」


 俺はハンスの言葉にうなずきながら思った。

 正直、まだ人間と戦うことには抵抗がある。

 

 しかし、ハンナとベベの命がかかっているこの状況で、できないと言えないのも事実だ。


 幸いにも俺がやるのは囮役。

 そのくらいならどうにかなるだろう。後の処理は誘拐犯たちを倒してロベランあたりに任せればいいし。


 そんなことを考えながら身構えていると、横からギャルルが割って入った。


「僕も手伝う」

「……いいのか? 万が一、危険な状況になっても、必ず助けられるとは言えないぞ」

「そんなの当たり前だろ。それくらい覚悟はできている」


 俺の言葉に、ギャルルは緊張した表情をしながらも頭を縦に振った。

 決意に満ちた顔だった。それを見る限り、どうやら何の覚悟もなく言ってはないように見えた。


「そうか。覚悟が出来てるならいい。人手が必要なのは確かだし」

「……ッ。ありがとう」


 俺の言葉に、ギャルルがどこか照れくさそうに言った。

 たぶん、子供である自分の言葉を無視せず受け入れてくれたことへの感謝なのだろう。


 そんなに感謝することはないけどね。

 ギャルルにはああ言ったが、獣人王の娘であり、まだ幼い子供であるギャルルを見捨てるわけにはいかない。万が一の事態が起こったら、有無を言わさずシュナイダーを使って強制脱出させるつもりだし。


 ……俺だって、獣人王との全面戦はできるだけ避けたいんだよ。


 そんなことを考えていると、ハンスが俺たちに向かって両手を差し出しながら言った。


「ほら、二人ともこれを着けてくれ」


 そう言うハンスの両手には、腕輪が一つずつ置かれていた。

 俺はその腕輪を見るなり、見覚えのある姿にそれが何なのか気づき、何も言わずその腕輪を腕にはめた。

 しかし、ハンスが出した腕輪を初めて見たギャルルは、表面に小さな魔石が一つ埋め込まれた腕輪を見て、首をかしげながら言った。


「何これ?」

「ええと。今回の作戦に必要なものなんだけど。……説明するのがちょっと難しいな。とりあえず付けてくれるか」

「むむ、……わかった」


 説明に悩むように眉間にしわを寄せながら言うハンスの言葉に、ギャルルが腕輪を左腕につけた。

 ハンスは私俺たち二人が腕輪をつけたのを見た後、俺たちの腕のものと違い、複雑な模様がぎっしり組み込まれた腕輪を自分の腕につけた。

 すると、ハンスの姿がうっすらとぼやけて見えるようになった。

 半透明に近くなった姿は、まるで幽霊のようだった。

 その姿を見たギャルルが尻尾の毛を立てて小さな声でハンスに聞いた。


「何、何だ! それは!?」

「俺が作った魔道具だ。体を透明にする魔法がかかっている」

「えっ、透明? ぼんやりしているけど、ちゃんと見えてるけど」


 ハンスの説明にギャルルが首をかしげながら言った。


 そう。ぼんやりとはいえ、ちゃんと見えているのだ。

 これでは体を透明にするのとは程遠い。

 しかし、これがこの魔道具のすごいところと言える。


 ギャルルの問いかけににっこり微笑んだハンスがこう言った。


「ちょっとその腕輪を外してみるか?」

「あ、うん。わかった」


 ハンスの言葉に、ギャルルが腕輪を外した。

 そして、それと同時にギャルルの尻尾の毛がパババババッと立った。


「……消えた!?」

「厳密に言うと消えたわけではない。目に見えなくなっただけだ。もう一度腕輪を付けてみるか」

「ああ、わかった。えっ? また見えるようになった。ということは……」

「そう。その腕輪を媒介として俺の姿を見えるようにしているんだ」


 ハンスの言葉に、ギャルルが不思議そうに自分の腕に付けられている腕輪を見た。


 ちなみにハンスは軽く言ったが、実はそれほど簡単なものではない。

 普通は透明化魔法を使うと、周囲の人の目にはもちろん、自分の目にも自分の体が見えなくなる。

 そのため、一人で行動する時はともかく、多人数での作戦となると使うのが難しいのが透明化魔法の現実なのだ。

 だからみんな透明化魔法は戦では使えない、サプライズパーティーにしか使えない遊びのための魔法だと言っていた。


 魔族との戦いでハンスがこの腕輪を開発するまでは。


 ハンスが開発したこの腕輪は、一組となる腕輪を媒介として魔法を無効化し、透明化魔法を使用している人を認識できるようにする、とてつもない魔道具だ。

 事情があって表には知られてないが、革命としか言えない代物だ。


 そしてそのようなとてつもない魔道具だからこそ、隠してベベとハンナを助けなければいけない今の狀況にぴったりなものだと言える。


 ギャルルも同じことを考えたのか、あらためて自分の腕につけられている腕輪を真剣な眼差しで見つめた。

 そんなギャルルを複雑な心が込められた顔で見ていたハンスが再び俺の方を向け、拳を前に出しながら言った。


「じゃあ、俺が先に行くから、よろしく頼むぞ。団長」

「……ふっ。任せておけ。副団長」


 そう言いながら俺はハンスの拳に俺の拳を当てた。




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