黒騎士と姫、また森へ2
というわけで、今日はカフカ・タイガーの娘ギャルルを含む3人、いや、ベベを加えて4人と森に向かうことになった。
ハンナの手をつないで目の前に見える森に向かって歩きながら、デイルがわくわくした顔でハンナに声をかけた。
「ねえ、ハンナ! やっと一緒に森に行くことができたね! 僕、すっこく嬉しいよ!」
「うん。そうだね! 私も嬉しいよ。楽しみだね、デール! ギャルルちゃん!」
村から出るのが珍しいのか、浮かれているデールと、そんなデールの面倒を見るハンナを追いかけながら、俺はギャルルに声をかけた。
「デールは初めて森に行くって聞いたけど、ルルは森に行ったことあるか?」
「もちろん! 僕を誰だと思ってるんだ、僕は……!!」
「ノールさんの農場で働く見習いのルル、でしょ?」
おいおい、今、自分でギャルル・タイガーと名乗ろうとしたな? させないぞ。 絶対にな。
せっかく人が知らないふりをしてくれてるのに。自分で名前を名乗っちゃったら俺の努力が台無しじゃないか。
とにかく過程はともあれ、森に行ったことがあるという、ギャルルの答えは得たな。
これでギャルルの中で俺が仮面の男かも知らないという疑惑は一段と薄くなるだろう。
森で出会ったことがある人なら、彼女に森に行ったことがあるかどうか聞くはずがないからな。
さて、この次に聞くことは一つだけだな。
「じゃあ、この森に来たことは?」
「……ない」
「そうか」
そうだろうと思っていた。
ここはタイガー領内でも領主城から遠いほうに属する森だからな。
まだ幼いギャルルがくるには遠すぎる。
それこそ罰としてこのスターン村に送られなければ、大人になるまで来ることはなかっただろう。
そんなわけで、俺は耳を尖らせながらも、なぜか退屈そうに周囲を見るギャルルに言った。
「なら知っているだろうな。君が森に慣れているとしても、この森は君が知っている森じゃない。 森に入ったら、あまり俺から離れないように気をつけてくれ」
「……わかった」
どうだか、肉食系獣人は体が先に出る癖があるからなぁ。万が一に備えて気をつけておこう。
そうやって30分ほど歩いて森の入り口にたどり着いた俺は、すぐ森に入らず、森の入り口で子供たち3人に言った。
「さて、じゃあ、みんな行ってみようか、注意事項は覚えてるな?」
「はい! 一! ナイトさんから10歩以上離れないこと!」
「ぴゃあ!」
「二! 美味しそうだからといって、拾い食いしない! 食べるときは、必ず許可を取ること!」
「ぴゃぴゃあ!」
「……三。見知らぬ魔物を見つけたら、すぐに知らせること」
「ぴゃあう!」
子どもたちの言葉が終わることに合わせて、ベベがぴゃぴゃあと声を上げた。
応援のつもりだと思うが……。
ちょっと顎に拳が当たって痛いな。
しかし、大人としてそんなことを顔に出すわけにはいかない。
いくら顎だからとはいえ、いくらその小さな手にかなりの聖力が込まれているとはいえ、赤ん坊の手に打たれて痛いだなんて。
大人として言えないのである。
俺はちびっと出ようとする涙を堪えながら声を上げた。
「よし! みんなちゃんと覚えてるな! じゃあ、早速森に入ろう!」
「「おお!」」
「……おう」
そうやって入ってきた森の中だが、やることは前回と同じく採集だった。
俺とハンナ、デールはゆっくりと林道を歩きながら、山菜や薬草を採り始めた。
「わあ! 見て、デール! これ美味しいキノコだよ!」
「うわあー! ハンナすごいね! あっ! ハンナ! あっちにもおいしそうな果物があるよ!」
「そうだね! すごく美味しそうだね! あれも取って行こう!」
「うん!!」
ハンナとデールは仲よく手をつないでいろんなものを採集していた。
二人とも俺の忠告を忘れてないらしく、俺からある程度以上離れないあたりがとても素晴らしい。
そしてギャルルは何をしているのかというと、
シュッ! シュシュッ!
遠く離れないようにという俺の言葉に従いながら、石を投げて動物を狩っていた。
石を何個か投げつけてウサギの動きを誘導したギャルルは、最後に大きく腕を振って石をウサギの方へ投げた。
シュッ!
『ぴえッ!』
石に打たれたウサギがお腹をひっくり返してそのまま地面に倒れた。
たぶん死んだんだろうなぁ。
ウサギとはいえ、魔気の影響でモンスターになってしまったウサギだというのに。さすがカフカ・タイガーの娘だとしか言いようがない。
ギャルルは軽快な足取りで駆けつけてウサギを取ってきた。
敏感な耳をつかんでも何の反応もないところを見ると、やっぱり死んでしまったのだろう。
「うわー! すごいね!」
「ルルちゃん、すごい!」
獲物を持ってくるギャルルを見たハンナとデールが手を叩きながら喜んだ。
すると、ギャルルが少し恥ずかしそうに顔を横に向けて二人に言った。
「……後で一緒に食べさせてあげる」
「わあ! ありがとう、ルルちゃん!」
「ありがと!」
二人の感謝にギャルルの尻尾が元気に動いた。
とても微笑ましい光景だった。
とても微笑ましいのだが、俺は今少し落ち込んでいた。
なぜなら、森に入ってから今まで果物もキノコも何一つ採れなかったからである。
くそー、この前はリンガは見つけられたのに、一つも見つからないなんて。
「いや、まだ遅くない、まだ時間はたくさん残ってるんだから! 頑張ろう!」
と気合を入れていると、腕の中でおとなしくしていたベベが、その小さな手で俺の髪をぐっと引っ張った。
ベベはなぜナイトの髪を引っ張ったのでしょう?
もしかしたら、ナイトをハゲにさせるつもりとか?
その理由は次回に!
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