黒騎士と姫とサンドイッチ作り9
「えっ! お父さんの嘘つき! 父さんはハンナしかいないよ〜、っていつも言ってたのに、私が小さい頃はお母さんに任せっぱなしだったんだ!!」
「ああっ! ハンナ! 違う! 違うんだ! あの時はいろいろと事情があって……!!」
「ふん! 嘘つきのお父さんの言うことなんて信じない! どうせまた嘘でしょ!」
ハンスが震える声で言い訳をしたが、ハンナは頬を膨らませて、ぷいっとハンスから顔をそらした。
すると、ハンスがさっそく俺にベベを渡して、ハンナにしがみついた。
俺はすぐベベを中心に防音シールドを張り、ハンスが泣き叫ぶのを見た。
「ううッ! 違うんだ!! ハアンナァァァ!! おい! ナイト! お前も何か言ってくれ!!」
「いや、過去の自分がやったことを俺に言ってもなぁ……」
何も言うことがないというか。
……嘘である。
ハンナがハンスに見えないように笑っているのを見て、俺はハンナのいたずらに付き合っているだけた。
ああやって笑っているところを見ると、ハンナも本気で怒っている訳じゃないみたいだし。
あれでハンナの気が晴れるなら、ハンスも文句は言わないだろう。
しかし、今、それを知らないハンスは、マジ泣きしながらハンナにしがみついていた。
「ハアンナぁぁぁ!! 許してくれえぇぇ!!」
「ふん!」
これ、横から見ると一本のコメディだな。
二人のやりとりを見て、思わず笑っていると、しばらく間を置いたハンナがぽつりとした声で言った。
「お父さん、許してほしい?」
「ああ、ゆるしてほしい!!」
「じゃあ、私のお願い何でも聞いてくれる?」
「ああ! もちろんだよ! 何か欲しいものでもあるのか? パパが何でも買ってあげるぞ!!」
ハンスから言質を取ったハンナが両手を腰に当てて言った。
「じゃあ、ナイトさんと仲直りして」
「「えっ」」
「さっきのこと、ただの事故だったし。ナイトさんは何も悪くなかったのに怒ったじゃない。 しかも今日、ナイトさんは私に料理を教えに来てくれただけなのに。だから仲直りしよう、ね?
「「ええっ」」
ハンナのその言葉にハンスと俺の声がハモった。
まさかハンナがそんな条件を出すとは思っていなかったからだ。
まあ、確かに今はハンスがサンドイッチを食い過ぎたことに気を取られていて、悪くない雰囲気になっているけど、俺たちは先ほどまで口喧嘩をしてたものだからな。
ハンナが俺たちを仲直りさせようと思うのもおかしくはない。
しかしそうか。そもそもあまりこういういたずらをしないハンナがなぜ突然こんないたずらをしたのか疑問だったのだが。ハンスと俺を仲直りさせるためだったのか。
こんなことをしなくても、時間が経てばいずれハンスの怒りが収まると思っていたから、後でハンスの好きな酒でも持ってこようと思っていたのだが。
ハンスが俺に怒った原因が自分が怪我をしそうになったせいだと思っているハンナとしては、それを待つのも嫌だったようだ。
まったくいい大人がこんな小さな子に気を使わせて。情けないな。
「……」
ちょうど俺と同じことを考えていたのか、ハンスが妙な顔をして俺に視線を送った。
ハンナに許してもらうには俺と仲直りするしかないと頭では思っているだろうが、ベベの力を知っていながらもちゃんと目を光らせてなかった俺への怒りがまだ収まらないのだろう。
はあ、しょうがないな。
「すまん、俺が悪かった。次からはちゃんと見張っておくから許してくれ」
ハンスより先に俺が頭を下げて謝った。
これでハンスも多少は怒りが収まるだろう。
そんなことを考えながらそっと横目でハンスの方を見ると、顔を真っ赤にして肩をぷるぷる震わせているハンスが見えた。
えっ、なんでもっと怒ってんの?
目を丸くして見ていると、ハンスが何かを抑えているような声で俺を指さしながら言った。
「……お、おま、お前が先にそれを言うと、俺が……!!」
「……?」
何が言いたいのだろう。
じっとハンスの次の言葉を待っていると、天井を見上げながら深くため息を吐いたハンスが、頭に血管を浮かばせながら言った。
「ふぅー! はぁー。ふぅぅ。わかった。仲直りしよう。許してやるからさっさと頭を上げろ、これでいいか?」
怒りが全く解けてないように見えるんだが。
だけど、言葉だけでもああ言ってくれるってことは、本当にこの件はこれで許してくれるってことなんだろう。
ハンナも横でジィーと見ているし。ここでは俺も素直に受け入れないと。
俺はハンスの言葉通り頭を上げながら言った。
「ありがとう。許してくれて。これからは、こんなことがないように気をつけるよ」
「ああ、そうしてくれ。」
さあ、これでハンスと仲直りもできたわけだし。
ハンナも少しは気が済んだかな?
…… あれ? ハンナ、もしかしてまだ怒ってる?
ハンスもそれに気づいたのか、焦った顔でハンナの顔色を覗きながら言った。
「は、ハンナ。ナイトと仲直りもしたし、もうお父さんを許してくれないか?」
「まだダメ。お父さんは謝ってないでしょ」
「いや、それは、ナイトと俺もいろいろあってだな……」
俺もハンスの隣でうなずいた。
そもそもベベの危険性を知っていながら、事前に準備しておかなかった俺が悪いのは事実だからな。
だから俺もハンスに謝ってもらうつもりはないし、謝られても困るだけだ。
そんなことをハンナに伝えようと口を開けたとき、俺が話すよりも早くハンナが言った。
「お父さん、さっきナイトさんの料理、無視したでしょ! ちゃんと謝って!」
「「えっ」」
今日のハンナには驚くばかりだな。
まさかハンスが俺の料理を無視したことまで謝れと言うとは。
なんていうか、ちょっと嬉しくて涙が出そうだ。
ハンナ、いつの間にかこんなに大きくなって! おじさん嬉しいぞ。シクシク。
心の中で嬉しい涙を流しながら、俺はちらりとハンスの方を見た。
ハンスもまさかハンナがそんなことを言うとは思ってなかったのか、何も言えずうろたえていた。
さあ、どうするんだ、ハンス。
俺の料理が美味しいのはすでに自分の舌が認めたはずだろうし、ハンナに許してもらうためにも俺に謝る必要があると理解しているだろう。
しかし、理解している上で悪友である俺にこんなくだらないことで謝るのは嫌だとも思っているはずだ。
一人娘の前で悪友とはいえ他人に頭を下げるのも嫌だろうしな。
それがさっきまで怒っていた相手だからなおさらに。
つまり、男のくだらないプライドである。
「……」
いろんな音でうるさかった台所に一瞬静寂が訪れた。
だがそれもほんの一瞬で。
「くっ。わ、悪かったな。認めたくないけど、おいしかったよ! お前の料理!」
親バカなハンスがハンナの視線についに屈した。
プライドに傷をつけられたハンスは、頭を下げてくううッと歯を食いしばったが、俺は少し胸の中がスッキリした。
ベベからハンナを守れなかったことで悪口を言われるのは仕方ないと思っていたが、料理の腕を貶されたのには案外傷ついていたようだ。
これは後でハンナに何かプレゼントでもしてあげないとな。
でもその前に、
「ありがとう、ハンナ。おかげでハンスに謝ってもらえたよ」
そう言いながらベベをなだめていた手でハンナの頭を撫でると、ハンナが恥ずかしそうに頬を赤く染めながら言った。
「えへへ。だって、そもそもあれはお父さんが悪いんですからね。いくら友達でもやっていいことと悪いことがあります! お父さんはそういうところではダメダメですから! だから、この際、反省してね、お父さん!」
「……はーい。わかりました、ハンナさまぁ」
ハンスがしなしなとした態度で答えた。
人の料理をバカにするからこんな目に合うんだよ!
じゃまーみろ、はっはっは!
『黒騎士と姫とサンドイッチ作り』はこれで終わりです。
書くときは気付きませんでしたが、思ったより長かったですね。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします!
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