黒騎士と姫とサンドイッチ作り1
ふう。これでこの件はなんとか片付いたかな。
それじゃあ、次の話に移ろうか。
「聞きたいことがあるんだが。獣人王の領地から何か話とか来なかったか」
どうしてもこの前ノールさんの農場でギャルルに会ったことが気になる。
話では職業体験のようなものだと言ってたし、たまたまノールさんの農場で働くことになったのかもしれないが、どうも不安だ。
獣人は基本勘が鋭いから。ひょっとして俺があの仮面の男だと気づかれたのではないか、という疑いを捨てることができないのだ。
だから、俺は情報に詳しいロベランに聞く事にしたのだ。
もしギャルルが俺の正体に何か疑いを抱いているのだとすれば、真っ先にやることは俺の背後調査だろう。そこまではしなくても何かしらしてくるに違いない。
だが俺の心配は余計な心配だったようだ。
しばらく考えをまとめているようだったロベランが言った。
「話……ですか。何も聞いておりませんが、何かあったのでしょうか」
「そうか。何もなかったらいいんだ。 ちょっと気になってただけだ」
何もなかったらそれでいい。
ギャルルがナイトという身分を疑っていたとしたら、こっちを探ろうとするんじゃないかと思っただけだから。
ノールさんのミノタウロス農場で会った時も、最初は少し妙な挙動を見せたが、その後は俺が使った魔道具のほうに気を取られていたし。この感じだとしたらギャルルに何も疑われなかったということだろう。ん。そうに違いない。
しばらく考えをまとめていると、ロベランが静かな声で言った。
「わかりました。でも、もし後日何かあればおっしゃってください」
「ああ、そうするよ。……念のためだけど、今後、もし向こうから何か動きがあったら、俺に知らせてくれ」
「はい。畏まりました」
ロベランが軽く頭を下げながら言った。
仕事熱心なロベランだ。ここまで言っておけば俺がわざわざ気を使わなくても、ロベランが気にかけてくれるはずだ。
後は何か動きが見えてから考えばいいだろう。ん。
***
……と思った時が私にもありました。
「おはようございます、ナイトさん!」
「……ああ、おはよう。ハンナ。いい朝だね」
「ぴゃあ♥ ぴゃあ♥」
ハンナに料理を教えてあげると約束した整地の日。
ベベを腕に抱いてハンスの店を訪ねると、すでにハンナが店の前でほうきがけをしていた。
ここまでは日常の風景だった。
問題はハンナの隣にいる人物にあった。
……なぜかギャルルタイガーがハンナの隣に立っていた。
「……おはよう」
「……ああ、おはよう」
俺はギャルルにぎこちなく挨拶を返しながら、珍しく店の前に出ているハンスにそっと近づいた。
「おい。これは一体どういうことだ。ハンナの友達が来るとは聞いていたが、それがギャルルタイガーとは聞いてないぞ!」
「ハンナが友達ができたからって、いきなり連れてきたんだよ」
「そうだとしても! 俺の立場をわかってるくせにそれを放っておくとか。お前はおにか! 途中で止めろよ! この薄情者!」
「できるか!! ハンナが3年ぶりに付き合った友達なんだぞ!! 理由もなしに追い返すなんてできるもんか!!」
ハンスが頭を上げて見下ろすように言った。
堂々だな、おい!
しかし、堂々としてるのはハンスだけで、その横で俺とハンスのやり取りを見ていたハンナはそうではなかったようだ。
ハンナがこっちの顔色を伺うような顔をして俺に話しかけてきた。
「あの、ナイトさん……。もしかして迷惑だったでしょうか」
「え? 何が?」
もしかして俺がギャルルを避けてるのバレた!?
「その、ナイトさんの表情があまり良くない気がして。 あの、ルルちゃんは、前にナイトさんから買った魔道具のついてちょっと聞きたいことがあって来ただけなんです。ついでに一緒にナイトさんが作ったサンドイッチを食べられたらいいなと思って、お願いしたんですけど......。ナイトさんが嫌なら、やっぱりルルちゃんには帰ってもらいます。ごめんなさい、ナイトさん」
「あ、いや、いいよ。ハンナ。大したものを教えるわけでもあるまいし。何より俺がいいと言ったんだから、ハンナが謝る必要はないよ」
ハンナの友達がまさかあのギャルルタイガーだとは思わず、油断していた俺の落ち度もないわけじゃないし!
だから、そんな悲しそうな顔しないでくれ、ハンナちゃん! ハンスの目がどんどん怖くなってるから!!
俺は鋭いハンスの視線を一生懸命無視しながら、ハンナの隣にいるギャルルに声をかけた。
「あらためて、おはよう。ルルさん。数日ぶりだね。あの日、帰って大丈夫だった? ルルさんも驚いたでしょ」
「ああ、うん。僕は全然平気だったよ。初めてのことじゃなかったし。 それより、あんたの作る料理が美味しいってハンナから聞いたんだけど、本当?」
ぎこちない笑みを浮かべながらギャルルに聞くと、ギャルルが好奇心たっぷりの顔で聞いてきた。
この前のことで、何かに気づいて、さっそく俺の正体を探って来るのではないかと心配していたが、幸いにそんな気配はなかった。というか、好奇心丸出しな顔で俺を眺めているところを見ていると、
もしかして俺を疑って来たのではなく、美味しい食べ物に釣られて来たのか?
という考えが自然に頭に浮かんだ。
何であれギャルルの関心はそれがなんでもぜんぜん嬉しくない俺は、とりあえずしらを切りながら言った。
「えーと、普通じゃないかな」
うん。普通だ。 めちゃくちゃ普通だ。 だから今からでも家に帰ってくれないかな。
そんなことを考えていると、ギャルルが何か言うよりも早く、ハンナが反応した。
「そんなことないです! ナイトさんのお料理、すごく美味しいですから!」
「ははは、そんな 大袈裟な」
「大袈裟じゃないです! 本当にすごく美味しいですから!!」
「そ、そうか。ありがとう。ハンナ」
まさかハンナがここまで言うとは思わなかった。
もしかしてハンナ、この前食べたサンドイッチめっちゃ気に入ってる?
それはそれで嬉しいけど、今だけは困る。
ギャルルの尻尾がふわふわと動いた。
楽しそうなギャルルの顔は、まるで獲物を見つけた猛獣のようだった。
どうやら完全に興味を引いてしまったようだ。シクッ。
そしてその予想通り、ギャルルが俺の方へ一歩近づきながら言った。
「そんなに美味しいなんて気になるな。なあ、僕にも食べさせてくれないか? 金なら払うから」
「いや、さすがにそれは……」
「あ、もしかしてお金が足りないかもと思ってるのか? それならほら。友達の家に遊びに行くって言ったら、父さんにもらったんだ。これくらいで十分でしょ? もし足りなかったら、あとで持ってくるよ」
そう言ってギャルルが差し出した袋には、きらびやかな金貨がぎっしり詰まっていた。この世界での金貨の価値を考えると、一家が1年は働かずに食べて暮らせる金額だった。
どう考えても、こんな田舎の、こんな道の真ん中で出していい金額じゃない。
その証拠にハンスとハンナは、金貨の強烈な輝きに目を大きく開いていた。
金で物を言うと言うが、ギャルルのそれは金で物を言わせる金額だった。
俺は急いでギャルルの手の中の袋の口をぎゅっと締めた。
ハンスとハンナならまたいいが、こんなものを他の人が見たら大騒ぎになる。
「わかった。わかったから、お金はもうしまおうか」
「む? これは今日のご飯代としてあんたにーー」
「いや、要らないから! お金なんて! 君はハンナの友達だし! さすがにお金は受け取れないって!!」
「むむ。そうか、なら仕方ない」
しばらく揉めたギャルルと俺だが、強く言うとどうにか納得してくれたようだ。
ふぅ。よし、これで流血沙汰は起こらないだろう。
いい事をした、と涼しく汗を拭いたが、よく考えたらまだ何も解決していなかった。
結局、こいつの前で料理をすることになってしまった!!
しかもそれが今回で終わるかどうかは誰にもわからない。
それにギャルルがハンナを利用して近づいてきたとしても、唯一事情を知っているハンスがあの状態では俺の代わりにディフェンスをしてくれるのも期待できないし!
ぬおおおおッ!! 今すぐ家に帰りてぇぇぇーーーー!!
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