黒騎士と姫とハンナと山菜取り4
「あっ!?」
「ぴゃあッ!?」
「……」
驚いたハンナとベベが悲鳴を上げる中、俺は一人口を閉ざし、ただ肩をビクッとさせた。
いきなり花が枯れることに引っかかるところがあったからだ。
アンデッドは基本、邪気というものを持っている。そしてそれはデスナイトメアという新種の魔族である僕も同じだ。 そしてこの邪気というのは弱い生命体には毒となる。
でも邪気はいつも抑えているから、ちょっと触れたくらなら問題無いと思ってたんだけど!?
そうだよな。問題ないよな!? 結構よく会うハンナも元気だし! あ、でも初めて見る植物だから、ないとも言い切れないぃ!
……もしかして俺のせいで枯れちゃうのか? ちょっといじっただけで、殺すつもりはなかったけど、この茂みそんなに弱かったのか!?
今すぐ土下座した方が良い!?
とか考えている間。枯れた花びらが落ち、そこから瑞々しい赤い実が実った。
「……い、イチゴ!?」
「ぴゃ、ぴゃあッ!?」
さすがファンタジー世界というか。 もう200年以上生きているけど、いまだにこういう光景は慣れないな。
本当に不思議だ。推測だけど、くすぐったことへのお詫びと、俺を止めてくれたことへのお礼なんだと思う。
ていうか、よかったぁ。茂み、死ぬんじゃなかったんだ。
本当に良かった。
ホッと胸をなで下ろしていると、茂みが自分の体についたイチゴを摘んでハンナに差し出した。
「えっ! くれるの?」
ハンナが尋ねると、茂みがバサバサと体を動かした。
かなりの量だが、どうやら本当に全部あげるらしい。
茂みの答えにハンナはスカートを大きく広げ、そこにイチゴを受け取った。
「あ、ありがとう」
ハンナがお礼を言うと、どことなく楽しそうにバサついた茂みがそのまま森の奥の方へ消えていった。
気配がどんどん遠ざかっていくのを見ると、ここから遠くのどこかにいくみたいだ。
茂みにこんなことを言うのは可笑しいかも知らないけど。
「……嵐のような茂みだったね」
「そうですね」
「ぴゃあー」
ぼんやりと答えたハンナは、スカートの上に山盛りになっているイチゴを見て困ったように笑った。
「これはどうしたらいいでしょうか」
「そうだな。……食べればいいんじゃないか。毒もなさそうだし」
「えっ。いいんですか?」
「あぁ、いいよ。あれはタビイチゴっていって、氣のまま旅をする魔界の植物なんだ。よっぽど運に恵まれないと会えないから、幸運のイチゴとも呼ばれてるらしいけど。とにかくそのイチゴはすごく美味しいらしい」
先ほど実をつける姿を見て思い出したんだけど。
ああ、タビイチゴだとわかっていたなら、あんなイジリ方しなかっただろうのに。 そうしたら俺もイチゴを一つくらいは……いや、ムリか。
俺、アンデッドだし。嫌われてるし。
そんなことを考えていると、しばらく考え事をしていたハンナが俺の方に近づいてきた。
「はい、ナイトさん!半分こにしましょう」
「えっ! いいのか? ハンナがもらったものだろ」
「いいんです! うちで食べるには多すぎですから。 それに、さっきナイトさんに助けて貰いましたし」
助けて貰ったって……。ああ、くすぐられた時のことか。 気にしなくていいのに。元々そういう時のために俺がついてきたわけだし。
でもハンナの好意を無視するのもなぁ。
それに、何よりタビイチゴは一度も食べたことがないんだから気になるんだよね。
「ええと。じゃあ、三分の一くらい貰っていいか? 俺、一人暮らしだからさ」
「 はい。どうぞ」
「ぴゃ! ぴゃあッ!」
ハンナとそんなことを話していると、ベベが自分の分を主張するように、タビイチゴに向かって身を寄せてきた。
「あっ、わかった! わかったから! ベベの分もちゃんと残してあげるから、今はおとなしくしててくれ!」
俺がそう言ってなだめると、頬を膨らませたベベが忘れちゃダメだよ! という顔で俺を見上げた。
その姿を見ているうちに、ふとこんな言葉が口から出てきた。
「……こんなに食い意地をはるなんて、もしかしてベベちゃん、意外食いしん坊だったのかな?」
「ぴゃあッ!?!! ぴゃッ!! ぴゃあッッ!!」
すると、さらに頬を膨らませたベベが全身で聖力を発しながら俺の頭を狙ってきた。
どうやら前回の経験から、俺の弱点が頭部だと認識したらしい。
間違った話ではないけど! ヤメテ!! ヒッパラナイデェ!!
しかし、両手でベベを抱いている以上、俺は蚊にかかったネズミのようなものだった。結局、俺は避けきれずベベに髪を掴まれてしまった。
「ああっ! ヤメテ!! 食いしん坊と呼んだこと謝るから!! イッタイィィィ!!」
「きゃあッ! ダメよ! ベベちゃん! やめてあげて! ナイトさんがお父さんみたいになっちゃう!!」
うわッ、ハンナ! ありがとう!! 助けてくれて!! でも後ろの言葉は何!? ハンス、最近ハゲてきてるのか!? その情報気になるんだけど!! いたたたた!! そんなこと考えてる時じゃなかった!!
「ベベちゃん、俺が悪かったから! 放してくれ~~!!!!」
タビイチゴと別れた後、もう少し山菜取りをした俺たちは夕方になる前にハンナの家に戻った。
その後、そんなこんなで、俺たちはようやくハンナの家に戻ることができた。
「ハンナ、無事でよかった!!!」
ハンスが長い間離れていた家族にでも会うようにハンナに抱きついた。
態度だけ見ると、はるか彼方、魔界と人間界の間にある「夜の帳」にでも行ってきたようだ。
俺は鬱陶しいくらいハンナにくっついているハンスをハンナから外しながら言った。
「一緒に行った俺に感謝の言葉はないのか」
「フン! ウチのハンナを誑かした奴に何も言うことはない! さっさと帰れ!」
「お前よく言うな。自分から頼んでおいて」
まあ、いいや。俺もハンナから色々もらったし、タビイチゴとか。
しかし、ハンス。お前のその対応は間違いだとだけ言っておこう。 ハンナが白い目をしてお前を見ているからな。
ここでちゃんと大人の対応をしてれば、ハンナの中でのハンスの評価も上がっただろうに。
まあ、自業自得というものだな。
「はぁ、おまえの言う通りもう帰るよ。俺もちょっと疲れたし。ああ、一応言っとくけど整地の日にまた来るからな」
因みに整地の日とは、日本での土曜日のことだ。
「は? 何でだよ。うちでべべちゃんの世話をするのはその次の日だろ」
「ハンナが料理を教えてほしいらしくてさ」
ハンスの店に戻る途中ハンナと話した結果、サンドイッチの作り方を教えるのは整地の日になった。
日曜日はハンスの家でベベの子守をしてくれると約束をした日だし、次の新芽の日にはまたハンナと一緒に山菜取りに行かなきゃいけない。そうしたら消去法で残る日が整地の日しかなかったのだ。
代わりにその日、ハンナは俺の離乳食作りを手伝うという約束だ。
「えっ、ハンナ? 別にこんな奴に習わなくてもいいんだよ? すでにハンナの料理は世界一美味しいんだから!」
「ううん、私が学びたいの。ナイトさんのサンドイッチすごく美味しかったから!」
「だ、そうだ」
あと、こんな奴なんて、さすがに言い過ぎだろ。 こう見えても料理には自信があるんだからな。
「とにかくそういうことだから、整地の日にまた来るよ。 あ、あと、ハンスこれ用意してくれ。 サンドイッチの具材なんだけどーー」
「はい! ナイトさん! 私がかっておきます! 朝一で!!」
「ああ、ハンナがしてくれるのか。ありがと」
すごい勢いだな、ハンナ。
よーし、俺もその日は朝一で何か良さそうなものがあったら買ってこよう。
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