黒騎士と姫とハンナと山菜取り3
俺はそんなことを考えながら弁当を開けた。
弁当の中には、白いパンに野菜とハムが入った食事用のサンドイッチと、フルーツジャムが塗られた甘いデザート用のサンドイッチ。そして口直し用に持ってきたミニトマトと一口サイズのフルーツがきれいに入っていた。
ハンナが黒パンをそのままかじってる前でこれを食べるのはちょっと勇気がいるなぁ。
そんなことを考えていると、ハンナが俺の弁当を見て感嘆の声を上げた。
「わあ! きれい! ナイトさんが作ったんですか」
よし、今だ。ハンナに俺が作った弁当を勧めてみよう。
「ああ、そうだよ。ハンナもどうだ」
「えっ! いいんですか!?」
「ああ、いいよ。もしかしてっと思って、ハンナの分も持ってきたからね」
むしろもらってくれないと困る。
黒パンをそのまんま食べている姪っ子のような子の前で一人で美味しい弁当を食べるなんて、普通に拷問だ。
苦笑いしながら弁当を渡すと、ハンナが弁当箱からサンドイッチを取り出し、パクッ! とかぶりついた。
そして、
「おいしいいいぃぃ~~~~~~~~~~~~~~」
と、とてもいい笑顔で叫んだ。
おいしい、か。よかった。作った甲斐があった。
「ナイトさん! これはどうやって作ったんですか!? 香ばしくて、しょっぱくて、何だか爽やかです!」
ハンナが頬にパンのクズをつけたまま聞いてきた。
俺はそれをハンカチで拭きながら答えた。
「難しくはないよ。パンに特製ソースを塗って、野菜とチーズ、ハムを挟んだだけだからね」
ちなみに特製ソースというのは、マヨネーズとハニーマスタードだ。説明すると長くなるので、今は特製ソースということにしておく。
「特製ソース......ですか。 じゃあうちでは作れないですね。 こんなに美味しいのに、残念です」
「ええと、後で作り方を教えてあげようか」
「えっ!いいんですか」
「ああ、別に難しいもんじゃないし。俺で良ければ後で教えてあげるよ」
ちょうどマヨネーズも残り少なくなったし、ついでにハンナにも作り方を教えると思えば悪くない。
黒パンをそのまま食べる今のハンナの食事をちょっとでも改善したいからな。
「じゃあ、じゃあ、お願いします! ナイトさん」
「ああ、任せてくれ」
ハンナは申し訳なさそうに言ったけど、正直俺としては提案を受け入れてくれてありがたいくらいだ。
ハンスの奴は別に何を食べても構わないが、これから大きくなる年頃のハンナは良いものを食べて欲しいからな。
そんなことを考えながら俺は弁当箱に手を伸ばした。
ハムチーズサンドイッチを食べ終わったので、そろそろデザートのジャムサンドを食べようと思っていた。
「……えっ、ジャムサンドがない」
「ええっ、本当ですね」
「む、こっちのジャムサンドはデザートにしようと思ってまだ手を出してなかったんだけど、どこにいったんだ」
「ぴゃあー?」
そんなことを呟きながらお弁当を見ていると、そっとお弁当に向かって近づいてくる手、ではなく、蔓があった。みずみずしい緑の蔓を辿っていくと、モザモザとした茂みが目に入った。
残ったサンドイッチをこっそり取り込んだ茂みは、白い花を広げ、サンドイッチを一口で丸呑みした。 花びらがモグモグと動いた。中に入ったジャムサンドイッチを味わうような、気持ち悪い動きだった。
「ヒィッ!」
あっ。初めて見る植物だからと観察している場合ではなかった。
ハンナも驚いただろうに……え?
「ひっ! ひゃっ! アハハハハ! くすぐったい! アハハハハーーッ!!」
ハンナの笑い声が静かな森に響いた。
なぜかと思って見ると、茂みから伸びた木の蔓がハンナの頬をなで、うなじをくすぐっていた。
うーん。どう見ても攻撃……してるようには見えないな。もしかして遊んでるのか?
まあ、だとしてもこのまま見過ごすわけにはいかないけどさ。
ハンナが顔をもう真っ赤にしている。あの茂みに悪意がないのはわかるが、このままにしておくにはハンナが可哀想すぎる。
俺は念のためベベを抱き抱えてこっそり見えないシールドを張った後、ハンナに近づいた。
「おいおい、いい加減にしろよ。ハンナがかわいそうじゃないか」
「ぴゃッ! ぴゃぴゃッ!」
「ほら、この子もハンナをいじめるなって言ってるだろ。だからいい加減にー」
そう言いながら木の蔓を外そうとする所、ペシッ! と蔓に手を叩かれた。
露骨な拒絶反応だった。
……生物に俺みたいな邪気を含んだ存在が不愉快なのはわかっているけれど! でもさすがに酷くないか! あと、ハンナに触るのやめろって言っているだろ!
カッとなった俺は速攻で蔓を掴み、それをフン!と叩き飛ばした。
すると、ブーンと飛んだ茂みが地面に転がり落ちた。
[キッ!! キエエエエエエエエエーー!!]
……ていうか、どこから声出してるんだ、この茂みは。
あと、この状況でもサンドイッチを食べるなんて、どんだけ食いしん坊なんだ!
俺は避けたくせに俺が作ったサンドイッチは食べるなんて、この!このっ!
胸の中のモヤモヤを込め、俺は茂みをぐしゃぐしゃした。
[キッ! キエッ!! キエエエエエエエ……!!]
しばらくぐしゃぐしゃしていると、暴れるように抵抗していた茂みが弱々しい鳴き声を出し始めた。
何だろう。なんか、俺がこいつをいじめているような気がする。俺はただこいつを押さえるついでにちょっといじっただけだけど。
そしてそう思うのは俺だけではなかったようで、後ろで俺が茂みを石っているのを見ていたハンナも俺を止めてきた。
「あのー、ナイトさん。あんまりいじめると可哀想です」
「ぴゃあ……」
ハンナの言葉に同意するかのように、ベベが茂みの奴を同情の眼差しで見た。
うッ! なんか俺が悪人になった感じ!
「ええと、でもハンナもくすぐられて大変だったでしょ?」
俺の言葉に、ハンナが困ったように笑いながら答えた。
「それは、そうですけど……。木の蔓でちょっとくすぐっただけで、怪我をさせたわけではないですから。 お仕置きは十分やったと思いますので、このぐらいにしませんか」
「そうか。ハンナがそう言うなら、このくらいにしておくよ」
「ぴゃあ! ぴゃっ!」
俺の言葉に、ベベがよく考えたかのように手を叩きながら笑った。
本当に、しようがないな。
「運が良かったな、おまえ」
ハンナが止めてくれなかったら、あと五分はぐしゃぐしゃ刑だったぞ。
小さな声でそうつぶやきながら両手で掴んでいた茂みを放すと、キィィと鳴いた茂みがハンナの方へ向かった。
「ええど、何かな?」
「キイ、キ!」
もしかしてハンナを攻撃するんじゃないか、と少し警戒していたが、どうやらそれはなさそうだ。ハンナの足元まで行った茂みはそれ以上近づかず、キィ、キィィ、とただただ泣いていた。
俺の思い込みかもしれないが、どうやらくすぐったことを謝っているように見えた。
俺と同じことを考えたのか、クスクスと小さく笑ったハンナがそっと茂みに向かって手を伸ばした。
なでなで。
[キィ! キィッキィー!]
ハンナに優しく撫でられた茂みがバサバサしながら嬉しそうに飛んだ。
そしてそれと同時に茂みの体のところどころに咲いていた花が何故か急速に枯れ始めた。
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