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黒騎士と姫とハンナと山菜取り2






 と、思ったのがついさっき、だったが


「ハンナ、すごいな」

「えっ、そうですか」

「うん。すごいよ」


 まだ1時間も経っていないのに、ザルをいっぱいにするとは。

 ハンスの店の後継者でなければ、山菜取りを生業にすることを真剣に勧めたかもしれない。

 三歩に一度のペースで山菜を見つけるなんて。しかも薬草や珍しい果物なんかもたくさんとったし。 もうこれは才能としか言いようがない。

 それに比べて俺が今まで見つけたのは、ベベが今遊んでいる、市場でもよく見かけるリンゴのような果物、リンガ一個だけだった。


「ぴゃあっ♥」


 ベベは喜んでいるけど、それでも。


「……恥ずかしすぎる」


 何がハンナが聞いてきたら一生懸命教えてあげようだ、過去の俺!

 森に入ってから今まで俺が発見したのといえばリンガ一個だけじゃないか! 過去の俺の、バカ!

 ハンナの横で一緒に採って、ザルはいっぱいになったけど! それが余計に恥ずかしい!! 子供に助けられるなんて!! 恥ずかしくて首のところがが熱くなっちゃう!

 くっ! 穴があったら入りたい!


 そうして自分の情けなさを嘆いていると、ハンナが俺の袖を軽く引っ張った。


「あの、ナイトさん」

「う、うん」


 俺は目を泳がせながらハンナに答えた。

 もしかして恥ずかしがってるのハンナにバレた? バレないように頑張ってたんだけど。


 そんなことを考えていると、ハンナが片手でお腹をさすりながら言った。


「そろそろお昼にしませんか? 私、お腹空きました」

「ああ、そうだな。そろそろご飯にするか」


 結構早い時間に会ったのだが、村から森まで来るのに時間がかかったので、少し山菜を探しただけで、もうお昼の時間になっていた。


「そういえば言ってなかったけど。ハンナ、弁当は持ってきたか? もし持ってこなかったら、俺のを分けてあげるけど」


 そう尋ねると、ハンナが得意気に言った。


「はい! 持ってきました! 早起きして作りました!」

「おお、そうか。えらいな、ハンナ」


 そういや、この世界ではこういう場合、お弁当は各自持参するのが基本だよな。

 念のため弁当を二つ持ってきたけど、必要なかったな。後で自分で食べよう。


 ハンナと俺は近くの平地にマットを広げて座り、弁当を取り出した。 

 ハンナの弁当は童話に出てきそうな小さなバスケットにカラフルで可愛い布をかぶせたもので、俺の弁当は木製の弁当箱を藍色の布で包んだものだった。


「ナイトさんのお弁当不思議ですね!」


 この世界で弁当といえば、ハンナが持っているピクニックボックスみたいなものを指すので、俺の弁当は確かに珍しく見えるかもしれない。 


 でも俺はこっちの方がしっくりくるんだよな。


 そんなことを考えながら俺はミノタウロスのミルクを入れたポットを取り出した。俺がご飯を食べるよりも、ベベのご飯を食べさせるのが先だったからだ。


「ハンナ、俺はベベのご飯を食べさせてから食べるから、先に食べてていいよ。お腹空いてるでしょ」

「えええと、やっぱり待ちます」

「ん? でも待たせるのは悪いし……」


 本当に先に食べていいのに。


「いいんです! このくらい待てますから。それにご飯は一緒に食べた方が美味しいですし!」

「そうか、うーん。じゃあ、これでも食べてってくれ」


 俺の分の採集カゴから拳半分くらいの大きさの黄色い果物を一つ取り出した俺は、それをハンナに渡した。


「えっ! いいんですか? これ、すごく美味しいですよ」

「ああ、大丈夫。だから食べてくれ」


 そもそもハンナが探してくれなければ手に入れられなかっただろうし。まだ二つもあるから、俺が食べる分は十分だ。


「じゃあ、ありがとうございます! いただきます」


 元気よくお礼を言ったハンナが、サクッと黄色い果物をかじった。


「あまーーい~~~~」


 俺は美味しそうに果物を食べるハンナを見て思わず唾を飲み込んだ。

 ハンナが今食べている黄色い果物は「リンゴマンゴー」という名前の果物で、文字通りリンゴとマンゴーを混ぜたような味がするフルーツだった。

 ジューシーで、ほんのり酸味があり、ジュースとしても、食後のデザートとしても人気の果物だ。今は前菜だけど。

 とにかく重要なのは、あれがめちゃくちゃ美味しいってことだ。


 俺も食べたいけど、今はベベのご飯を食べさせるのが先だ。

 今日はミノタウロスの乳だけを食べさせる予定だ。外で慣れないものを食べさせて体調を崩したりしたら大変だからだ。


 俺はミノタウロスの乳が入ったポットをベベの口元にそっと近づけた。

 すると、ベベが喜んでそれを飲んだ。


「……離乳食もこれくらい食べてくれると助かるのに」

「えっ! ベベちゃん、もう離乳食食べてるんですか?」

「うん。まだ始めたばかりだけどね。だけど、あんまり食べてくれないからちょっと困ってるんだよね」


 ミノタウロスの乳はこんなにも喜んで食べてくれるのに。

 離乳食はどうやって食べさせようかを考えだけで、ため息しか出てこない。ノールさんのミルクスープは、もう少し食べてくれるけど、それもミノタウロスの乳ほど食べてくれる訳じゃないし。


「ベベちゃんもそうなんですね。マロンちゃん、あっ、マレさんの子なんですけど、あの子もそうでした。そういう時は頑張るしかないってマレさんが言ってました」

「そうか。子供にはたくさん食べてほしいんだけど、難しいものだな」


 そんな話をしているうちに、ベベがポットの中にあったミノタウロスの乳を飲み干した。


「ミノタウロスの乳だからか、今日は食べるなが早いな」


 ベベにゲップをさせた俺は、マットの片側にクッションを置き、その上にベベを乗せた。さっきまで遊んでいたリンガをきれいに拭いてベベの上げると、ベベが「ぴゃあ♥ぴゃあー♥」と嬉しい悲鳴をあげた。

 何が気に入ったのかわからないけど、べべが喜んでるなら今はそれでいいだろう。


「じゃあ、ハンナ。俺たちもご飯にしようか」

「はい!」


 明るく答えたハンナは、ピクニックボックスの上に被せていた布を外して、中から黒パン、チーズ、ハム、そして水が入ったガラス瓶を取り出した。

 森でサンドイッチを作る気で、具材を別々に持ってきたのかな? と思っていると、ハンナがあーんと黒パンをそのままかじった。

 そうだ。ハムや野菜なんかも挟まれてない、ただの黒パンを。他の具材もちゃんとあるというのに。


 もしかして黒パンをそのまま食べるのが好きなのだろうか。黒パンの独特の食感が好きという人もたまにいるし。


 そんなことを考えていると、喉を詰まらせたハンナが慌てて胸をポンポン叩き、水をゴクゴクと飲んだ。


「ぷはぁ! お腹が空いて早く食べちゃいました。黒パンが嫌いなわけじゃないんですけど、喉がよく詰まるのはちょっとつらいですね」


 ヘヘと笑ったハンナが再び見るからにも硬そうなパンをかじった。


 えっ。好きで食べてるんじゃなかったのか。



 

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