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黒騎士と姫とハンナと山菜取り1





 翌日。

 ハンスの家に行く途中、マレさんの店に行って尋ねると、マレさんが大きな声で笑った。


「あははっ! そりゃあ、食べるのが大変だからだよ!」

「えっ! 食べるのが大変ですか」


 オートミール粥を超え、オートミールスープレベルにしてあげたのに、それ以上に薄めろってこと?


「あはは!いくら頑張ってもオートミール粥は牛乳より水っぽくないからね。 しょうがないよ」

「それは! そうですけど、……難しいものですね」

「そうだね。難しい。でも子育てていうのは元々そういうものなんだよ」


 全く、 恐れ入ります。

 これなら一日中運動場を走った方ががいいな。あれはそれでも終わりというものがあるからなぁ。


 俺はお礼を兼ねてマレさんの店で野菜を少し買った後、ハンスの店に向かった。

 この世界の一週は、なぜか七日に一週という現代日本と同じものになっている。言い方は少し違うけど。


 その中で木曜日は新芽の日ということで、子供たちはこの日に休んだり、勉強をしたりする。まだ成長期の子供たちに週五で働けというのは、あんまりにも過酷なことだからだ。

 なぜ今この話をするかというと、俺がハンナと一緒に森まで行くことにした日が今日、新芽の日だからだ。


「あっ! ナイトさん、おはようございます!」


 店のドアを開けて入ると、ハンナが明るい笑顔で俺を迎えた。


「おはよう、ハンナ。ハンスから話は聞いてる?

「はい! お父さんから聞きました! 嬉しいです! ナイトさんと一緒に森に行けるなんて」

「俺も嬉しいよ」


 言ったことはないけれど、幼い頃から見てきたハンナを姪っ子のように思っているので、一緒に出かけるのは俺にとっても嬉しいことだ。

 それに、これをする代わりに一日ベベを見てくれるってことだからなおさら嬉しい。

 ハンスがハンナの後ろで悔しそうに歯を食いしばっているのは嬉しくないけど。


「ナイトォォ。お前、絶対にハンナにケガさせんなよ」

「わかってる、少しは信じろよ」


 俺を一体誰だと思ってるんだ? 今はこんな有様だけど、人を殺せなくなる前は世界でも数えられるほどの強者だったんだぞ。俺は!

 あとハンスお前、それだからハンナが娘離れさせるとか言うんだよ。まったく!


「じゃあ。行こうか、ハンナ」

「はい! ナイトさん! お父さんも店、ちゃんと見てってね!」


 そうしてハンナと一緒に店を出ると、後ろからハンスが「ハンナァァァァーー!!」と泣き叫ぶ声が聞こえた。

 その声を聞いたハンナは、はあ、とため息をついた。

 ハンナの言葉通り、ハンスの奴は本当に娘離れが必要なのかもしれない。





 さて、そんなこんなで村の近くの森まで来たけど。

 俺は細い森の道を歩きながら、ハンナに尋ねた。


「それで、ハンナはどうして森に来ようと思ったんだ」


 ハンスが出した条件が魅力的すぎて、ハンナに聞くのを忘れていたが、少々気になる。

 今のままでもハンスの店を継げるから何もしなくていいのに。

 なぜ危険な森の中まで来ようとしたのかわからない。何か特別な理由でもあるのだろうか?


「ええと、そうですね……。その、お父さんに言わないでもらえますか?」

「ああ、もちろんだ」


 目を泳がせながら言うハンナの言葉に、俺はためらいなく言った。

 すると、考えをまとめるように、静かに森の道を歩いていたハンナが、しばらくしてぼそっと言った。


「ええと、これからのためなんです。私はお父さんと違って、外部魔力があまりないじゃないですか」

「……ああ、そうだな」

「だから、もしお父さんの店を継いだとしても、このままではちゅうとはんぱな感じになると思ったんです。

「それは……」


 違う、とは言えない。


 魔力には内部魔力と外部魔力がある。

 内部魔力というのは、文字通り人の内部に存在する魔力で、体内の力を強化するために使われる。


 外部魔力とは、人の外部に存在する魔力であり、魔力を使って現象を起こすために使われる。

 この内部魔力と外部魔力というのは、適性によって使える人と使えない人に分かれ、基本的に獣人は外部魔力を使えない人が多い。

 そして、獣人とのハーフであるハンナもそこに含まれるということだ。


 しかし、普通はそんなことは問題にならない。

 外部魔力がない人でも、普通に生活して生きていくには問題ないのだから。

 外部魔力がない人でも、魔道具は普通に使える。そして、才能のある人が修練を繰り返せば、体に触れたもの、つまり、鎧や剣などを強化するのはできるようになる。

 だから普通なら、そこまで気にすることではないということだ。


 問題は、ハンスの雑貨屋が、普通の店じゃないというところにある。


「ハンスの店は『あれ』だもんな」

「そうなんです。『あれ』ですからね」


 ハンスとハンナが住んでいるスターン村は、獣人王カプカ・タイガーの傘下の領地である。

 だが、ここは普通の傘下領地ではなく、避難民が集まってできた避難村に近い。

 それなのになんで街にやたらと獣人が多いかというと、戦争が勃発する前からこの辺りが獣人の住処だったからだ。そして戦争が勃発した後、その獣人たちが獣人王カプカの庇護を求め集まったのがこの村の始まりだと聞いている。

 なので今もまだスターン村の住民はほとんどが獣人なのだ。

 そしてそれはつまり、外部の魔力を持たない人が多いということになる。


 そんなスターン村で、魔法を使えるハンスの店は少し変わった立場になっている。

 外部の魔力を持たない村人たちは、魔道具のようなものを修理するのが苦手だ。新しい魔道具を作る作業など不可能に近い。

 そんな中でハンスは雑貨屋を営みつつ、困った顔で訪ねてくる人々の魔道具を修理し、場合によっては新しい魔道具を作ることもしている。

 例えるなら、ハンスの店は雑貨屋というよりは「魔道具屋」や「何でも屋」に近い。ハンス本人は頑なに認めてないけど。

 とにかくそんな状況でハンスの後を継いで店の店主になるのが、外部魔力のないハンナなのだ。

 ハンスがやっていたことと同じことができなくては、店の店主になっても半人前としか言えない。

 それはハンナが困るのも当然だ。


 しかし、そこで終わらないのが、ハンナの良いところだろう。


「だから思ったんです! 私もお父さんみたいに自分の長所を見つけよう、って」

「そうか、だから森に」

「はい!森に行くのはお父さんが許してくれなかったので、あまり行ったことがないですから!始めるならここからがいいと思ったんです!」

「いいアイディアだね」


 確かに慣れない環境でしか見つけられないものもあるのだから、ハンナの発想は悪くない。


 それにしてもちょっと泣けるな。ベベみたいに喃語しかできなかった子が、いつの間にかこんなに大きくなって! くすん!


「よし! 俺もがんばるぞ!まず何からやろうか!」

「えっと、まずは山菜採りからやりたいです! 食費節約のために!」

「おおっ」


 さすがハンナ、しっかりしてるなあ。ここで食費の節約まで考えるとは。 思わなかった。 感心感心。

 それにしても山菜取りか。 大人の俺のほうが経験豊富だろうし。ハンナが何か聞いてきたら一生懸命教えてあげよう。頑張ろう!


 

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