黒騎士と姫とギャルル・タイガー8
まあ、とにかく。
「恩返しになりますよ。私はこれが仕事ですから」
嘘である。俺の仕事は領主として領地を治めることであって、別に魔道具の販売が俺の仕事ではない。
ないけど、いくらOMH229号みたいな魔道具を作らせるのが俺の趣味とはいえ、投資費を回収できるならそれ以上のいいものはない。うちの魔道具研究所、万年赤字なんだし、どのみち売れなかったら俺のマジックバッグの肥やしにしかならないだろうし。いろんな意味で、ノールさんが有効活用してくれたほうが俺にとっても得ということだ。
本音はそんなものだったが、
「ナイトさん……!!」
しかしノールさんは何かを勘違いしたのか、感動したようにうるうるした目で俺を見た。
別にノールさんのために言ったわけじゃないんだけど。この取引に好意があるとすると、 ハンナがたまに遊びに来るみたいだから、このミノタウロス農場の安全が確保されればいいなとは少し思ったけど。
ノールさんが顔と同じように感動した声で言った。
「わかったわ。今回はナイトさんの好意に甘えるわ。とりあえず今日の分を除いて、これくらいもらえるかしら」
まあ、いいか。近所の人との付き合いは大事なんだし。
目に残った涙を人差し指でそっと拭き取ったノールさんが、まだ水気が残ている目で俺を見つめながら言った。
わかったわ。ナイトさんの好意に甘えるわ。とりあえず今日の分を除いて、これくらいもらえるかしら」
ノールさんがそう言いながら指を2本伸ばした。
ん? なんか思ったより少ないな。
「二個……ですか?」
「いいえ、20本よ」
二十個!?
思ったより多すぎる!!
二十個だと銀貨六十枚。円に換算すると六十万円ほどの金額だ。
つまり、ノールさんは今、一般人なら何ヶ月も働かずに暮らせる金額を払うと言っているのと同じである。
「ノールさん、そんなに買ってもいいんですか」
「確かにちょっと厳しいけど、構わないわ。お金で人の命は買えないし。 それに、ナイトさんへの恩返しにもなるしね」
「……そうですか」
どうやらいくら農場の主人として貫禄のあるノールさんでも、今回のことは結堪えたらしい。
迷いのないノールさんの言葉に俺は首を縦に振るしかなかった。
そんな感じで話が終わった頃、
「ねえ、話は終わった?」
ギャルルが後ろから声をかけてきた。
「あ、はい。ぎゃあ......ルルちゃん。待たせてごめんね」
「……大丈夫。待つのは慣れてるし。それより、あんたに聞きたいことがあるんだけど」
ギャルルが俺を見ながら言った。
「え、ええと。ナニカナ」
俺は背中に冷や汗をかきながらギャルルに答えた。
まさかさっきやったのに身体能力向上の腕輪を使ってないのがバレたとか!? それとも、その前の『シャドウ・トラップ』を使ったのがバレたとか!? そんなんじゃないよな!?腕輪はギャルルがなにか調べる前に回収したし、『シャドウ・トラップ』も気づかれないように使ったはずだけど! 俺の正体、バレてないよな!?
できるだけ自然な笑顔を演じながらギャルルを見ると、どこか恥ずかしそうな顔でギャルルが言った。
「コホン! さ、さっき助けてくれてありがとう。礼を言おう」
ギャルルがそう言いながら頭を下げた。
これまでの姿を考えると、案外素直な挨拶だった。
余計に照れ臭くなった俺は、恥ずかしさのあまりちょっと微笑みながら手を振った。
「はは、別に大したこともしてないし、そんなに堅苦しく礼を言わなくていいよ」
「あんたがそう思っていても、助けてもらったのは事実だ。 僕は助けてもらっておいて礼も言わない恥知らずの獣人になるつもりはない。 さっきの魔道具も値段を教えてくれると、僕の家の使用......お父さんに頼んで弁償する」
きっぱりと言うギャルルを見て、俺は誰にも聞こえないように口の中で小さくつぶやいた。
「……カプカ、子供にどんな教育をしてるんだよ」
もしかして騎士の見習い教育でもしてるのか?
領主の子供だから早めに教えるのはわかるけど、あまり幼い頃から厳しく教育するのも良くないと思うよ?
「ん? 何か言った?」
「いや、何でもない。 それより俺は本当に大丈夫だ。 子供を助けるのは大人として当然のことだし。魔道具の値段も気にしなくていいよ」
「……そっか」
そう答えたギャルルが、頭を下げて小声でつぶやいた。
「……僕、子供じゃないんだけど」
「ん? 何か言った?」
小さくて聞こえなかったけど。
「いや! 何も言ってない! それよりさっき言ったように聞きたいことがあるけど」
あれ、なんかさっきより機嫌が悪そうなんだけど、もしかして思春期?
いや、そんなことはどうでもいい。気を引き締めるんだ。ギャルルからどんな話が出てくるかわからない。
俺は様々な質問と、それにどう答えばいいのかを頭の中で考えながら言った。
「聞きたいことて? 何が聞きたいんだ? 答えられることなら答えるよ」
答えられないものなら答えないけど。
そんな言葉を心の中に隠しながら言うと、ギャルルが俺の目をまっすぐ見つめながら言った。
「さっきのあの腕輪。壊れたんだって言っただろ。あれ、直せるのか」
えっ、何何、『シャドウ・トラップ』のことか、または本当に腕輪を使ってミノタウロスを吹っ飛ばしたのかを聞くと思ったけど。 腕輪が壊れたことが気になってたのか。
なんか、こんないい子を警戒した俺が悪者みたいだな。
「ええと、たぶん直すのは無理、かな」
「そうか、じゃあ新しく買うのは?」
新しく買う、か。
俺はここが重要なポイントだということに気がづいた。
俺があの腕輪を何個も手に入れることができると言ったら、それを売ってほしいとギャルルが言う可能性が高い。もしそうなったら、俺の嘘なんてすぐにバレてしまうだろう。
だから二度と手に入らないって言ったほうがいいんだろうけど……。
そうなると後で同じような事態が起きて、力を使った場合、なんの言い訳もできなくなる。
だから今ここで言うべき正解はーー。
「ええと。俺にもよく分かんないかな。運が良ければまた手に入れられるかもしれないけど、それもご主人様の許可がないともらえないだろうし」
「……あんたのご主人様て?」
「死の谷の奪命王様だよ」
「……そう」
そこまで言うと、それ以上聞く事が出来なくなったギャルルが身を引いた。
いくらギャルルでも、自分の母親と同格の立場を持つ奪命王が関わってると言われると、もうこれ以上何も聞くことができないのだ。
俺は最後まで笑顔を崩さないように気をつけながら、心の中で安堵のため息をついた。
今までずっと面倒臭いものだとばかり思っていたが、今回だけは奪命王という呼び名が役に立った気がする。
しかし、それで話が終わったつもりでいた俺と違い、ギャルルは話が終わっても、何故か俺の側から離れなかった。
もしかしてまだ何か話したいことでもあるのかな?
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