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黒騎士と姫とギャルル・タイガー7




「……うッ!!」


 反射的に防御態勢をとったが、すでに手遅れだということが本能的にわかった。


 いくら身体能力の高いギャルルでも、中型モンスターに属するミノタウロスの拳を正面から受ければタダでは済まない。

 致命傷を防ぐため頭の上に腕を上げて防御したが、それでも骨の1つや2つは折れるに違いない。

 ギャルルは覚悟を決めて歯をくいしばった。


「……?」


 しかし、いくら待っても、痛みは感じられなかった。


 おかしい。


 そう思ったギャルルは、頭の上に上げた腕の間からミノタウロスを覗いた。

 すると、なぜか拳を突き出したまま固まっているミノタウロスが目に入った。


 いったいどうなっているのだ?


 そう思ったとき、


「ええと、ルルさん、大丈夫かな?」


 ミノタウロスの方から例の緊張感のない声が聞こえてきた。

 声の聞こえる方へ視線を向けると、ミノタウロスの横でその腕を片手で掴んでいるナイトという奴の姿が見えた。

 その姿を見てギャルルにできることは、


「……は!?」


 と驚きのあまり、間抜けな声を出すことだけだった。

 しかし、驚くことはまだ終わってなかったようだ。

 一瞬何かを考えているように見えたナイトというものが、「えいっ!」とミノタウロスを投げた。すると飛んでいったミノタウロスが、残っていた2匹のミノタウロスを石に当たった薪のように倒した後、頭から地面に落ちて、頭から地面をすべった。


 ズザザザザッーーーー!!


 と、頭についた角で地面を耕しながら前に進むミノタウロス。

 それを見たギャルルは思わず目の前の人を指差しながら言った。


「あ、あんた、一体、何!?」








***





「あ、あんた、一体、何!?」


 一方、ギャルルに指さされた俺は、今の状況に困った笑いながら頬をかいた。

 一応、ギャルルの言葉に素直に答えるなら、言えることは多い。

 元聖国の騎士であり、現魔王軍の四天王の一人の奪命王、またはデスナイトメア。 しかし今、ギャルルに俺が答えるべきは、そんなことではない。

 俺はぎこちない笑みを浮かばせながら言った。


「俺? 俺は死の谷から来た普通の下級魔族なんだけど……」

「下級魔族にこんなことができるわけないだろ!」


 俺の言い訳にギャルルが全力でツッコミを入れた。

 しかし、ここで彼女の言葉を認めるのは、俺としてはあってはならないことなのだ。

 それに、やらかす前にこういう時に使う言い訳も考えておいたし。

 俺は手のひらをポン!と軽く叩いた後、けろりと言った。


「あは! さっきのあれね、あれはちょっと仕掛けをしたんだよ」

「は? 策略って、何……?」


 首をかしげるギャルルの前に、俺は先ほどこっちに駆けつける前に腕に付けておいた腕輪を差し出した。


「これだよ、これ。職場で万が一の事態に備えて、と言ってくれた、身体能力を向上させる魔道具だけど……」


 と言っている間に、パキッ、と腕輪にヒビが入った。

 それを見たギャルルがぼそりとつぶやいた。


「……ヒビが入ったけど」

「えーと。そうだね。今使ったことで壊れたみたいだ……」


 俺はそう言いながら、割れた腕輪を残念そうに手で撫でた。


 もちろん嘘である。


 腕につけたこの腕輪が身体能力を強化させる魔道具であることは間違いない。

 だが、その効果はほとんどないに等しい。ランニングで言うと、100mを13秒で走る人を12.8秒で走らせるくらいのものだ。

 あと、先ほど俺がミノタウロスをぶっ飛ばしたのは、あくまで俺の純粋な筋力でやったことであって、さらに腕輪に入ったヒビも、俺がさっきこっそり力を使って入れたものだ。


 したがって、今の俺の言葉はすべて嘘であり、ギャルルの目をごまかすためのただの見せかけに過ぎない。


 俺は演技を続けながら、腕輪をマジックバッグにそっと入れた。

 さあ、これで証拠も消えた。ハハハッ!


 ギャルルがマジックバッグに入る腕輪をしつこく見ていたが、この先、この腕輪がマジックバッグから出ることは二度とないだろう。ゴミ箱に入る時以外にな。(笑)


 そうやって一件落着させた俺は、そのままノールさんのいる方へ足を運んだ。


 まだ農場の職員たちは倒れているミノタウロスを畜舎に入れているが、とりあえず俺がやるべきことは終わったし、何よりもまだ泣いているベベが気になったからだ。

 俺はOMH229号に絡まれたまま、泣き叫ぶミノタウロスと気絶しているミノタウロスを畜舎に運ぶ農場の職員たちを後ろにして、俺はガラガラを振りながら、まだ泣いているベベをなだめた。


 ガラガラガラガラー


「はい、ベベちゃん!うるさい牛さんたちは全部倒したよぉ」

「ふ、ふぇ……」


 ガラガラを振りながらべべをなだめると、ガラガラの音に夢中になったベベの泣き声が少しずつ小さくなった。


「う、うぅー」


 ようやくベベが泣き止むと、近くで見ていたノールさんが近づき、深く頭を下げた。


「ありがとう、ナイトさん! おかげでルルちゃんとデールが無事だったわ」

「いえいえ、当然のことをしただけですから」


 これからもベベの牛乳をもらわなければならない取引先だし。 助けるのは当然のことだ。ハンナも友達のデールに何かあったら悲しむだろうし。


「いや、そんな事ないわ。前回も迷惑になったのに。 今回はうちの子たちまで助けてもらったし。 今度こそ何か欲しいものないの?」

「んー。あまりないですね」


 ノールさんの言葉に少し考えてみたが、どう考えても欲しいものはなかった。

 だって一番必要としていた牛乳をタダで貰っているわけだし。 前に貰ったチーズもまだたくさん残っている。

 だと言ってお金を貰うにも、お金も四天王としての給料だけで十分だった。むしろ貰いすぎて、領地のあちこちに投資しているくらいだから。


「はあ、欲がないのも困ったものね」

「はは、そうですか」

「そうよ」


 でも、本当に欲しいものがないからな。

 あ。



「あ、じゃあ、今日使った魔道具、今日使ったのを含めて、ノールさんが買ってくれませんか? ちなみに値段は前回と同じ、一個につき銀貨三枚です」

「えっ。それがお礼にならないと思うわ。 むしろ私が売って欲しいくらいだもの。後、値段もおかしいわ。こんなに助けてもらえたもの、もう少し値段を上げても文句は言わないから」


 いや、値段を上げたら、その上げられた値段を払うのはノールさんですからね。そんなこと言っていいんですか?


 

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