黒騎士と姫とギャルル・タイガー6
「......」
一方、ギャルルは今、自分がやった、いや。魔道具が起こした凄まじい成果に驚いていた。
獣人王カフカ・タイガーの娘として持つ優れた肉体のスペック、毎日欠かさず行った鍛錬、そして遊びと呼んではいるが、優秀な護衛たちとの狩りの練習。
そのすべてが重なって、ギャルル・タイガーは獣人の中でも優れた戦闘能力を持っていた。
そしてそれは同じ年頃の獣人の子供たちの中では比べることもできず、あえて比べようとするならば、大人、それも普通の大人ではなく、実力主義で有名な獣人王カフカ・タイガーの部下たちと比べるのがふさわしい実力だった。
子供たちはギャルルと戦うことを考えることもできなかったし、城内の大人たちも日々成長するギャルルの実力に、そろそろ手加減をするのも難しいと言うほどだった。
だからこそ、前回のバジリスクとの戦いはギャルルに大きな衝撃を与えた。
まるで手が出ない。相手にもならない。むしろ獲物に狩られ、殺されそうになった。
いや、あの時、あの仮面の男が現れなかったら、そこで僕は死んでいたのだろう。
そう思うほど、ギャルルはあの仮面の男のことを思い、憧れるようになった。
目でも追えないほどの素早い剣技。あの巨大な蛇すら自分が死んだことに気が付かないほど鋭さは、ギャルルの頭に火傷のように残っていた。
もう一度、あの剣が見たい。
その想いだけが頭の中を埋め尽くした。
だからこそ、父親に助けてくれた人の事を聞かれた時、ギャルルは思わず素直に答えてしまったのだ。
よくよく考えれば、仮面の男が自分の正体を知らせたくないことはひと目でわかったのに。 本当なら、あの人のことは誰にも話さないべきだったのに。 僕は恩知らずの悪い子だ。
そう思いながらも、ギャルルは思わず思ってしまうのだった。
もう一度あの剣に見たい、と。
それからしばらくはずっと上空だった。
いつものように体を鍛え、前より数が増えた使用人たちと狩りをしながらも、ギャルルはそれに全く集中できなかった。
そしてそれを見抜かれたのだろう。
「ギャルル、お父さんの知り合いの家に行って、ちょっと仕事を手伝ってきなさい」
お父さんは知り合いの家が忙しくて急いで人手が必要となったと言ったが、それが単なる口実であることは深く考えなくてもわかる。
もし本当に人手が足りないのであれば、部下の中で仕事ができる人を出せばいい。いくら領主の娘とはいえ、まだ幼いギャルルを送る必要はないのだ。
だから、あくまでも推測だが、
おそらくこれはお父さんが僕に下す罰なのだろう。
両親や使用人の言うことを聞かずに深い森に入り、死にそうになり、帰ってきてからも鍛錬に励むどころか、心を乱してまともに集中もできなかった。
領主の娘として有るまじき行為であって、父がギャルルに罰を与える理由としては十分なものだった。
だからギャルルは何の文句も言えず、ただ拳を握りしめて「はい」と答えることしかできなかった。
しかし、だからといって罰を受けて悔しい心が消えるわけではない。
だからだった。父親の知りあいが経営しているという農場に行って、思わず嫌な態度をとってしまったのは。
それなのに、父の知りあいのノールさんも、その子のデールも、客として来たというナイトという奴も、そんな彼女にとても親切に接してくれた。
仕事というのはものすごく臭くて大変なものだったが、それでもこんなに優しい人たちにずっと嫌な態度を取るのは悪い気がした。
しかし、だからといってどう態度を変えればいいのかも分からず、それで飛び出してしまったのだ。畜舎から移った臭いが気になるという言い訳を言って。
その道でノールさんの息子のデールと会ったのは偶然だったが、悪くはなかった。
小さい頃からずっと農場で暮らしてきたデールは、農場の事なら知らない事がなくて、ミノタウロスに餌を与える方法や、ミルクの搾り方、そして搾りたてのミルクのおいしさをギャルルに教えてくれた。
デールの言う通り、搾りたてのミノタウロスの乳はとても美味しかったし、農場の仕事も意外悪くないとすら思えた。
しかし、コップのミノタウロスの乳を半分ほど飲んだところで、問題が起こった。
「ムオオオオオッーー!!」
突然、大きく声を上げたミノタウロスが、その筋肉で満ちた前足を持ち上げ、畜舎を壊した。
真っ赤に充血した目、ミノタウロスの鼻から出る興奮しきった鼻息から、ギャルルはミノタウロスが暴走状態に落ちたのが一目で分かった。
「うッ! デール! 逃げて!!」
そこまで考えたギャルルは、ミノタウロスの乳が半分ほど残っているコップを地面に投げ捨て、デールの手をつかみ走り出した。驚いてうまく走れないデールが何度も転びそうになり、途中からはデールを腕に抱えて走った。
全速力で走っているというのに、どんどん近づいてくるミノタウロスの気配に尻尾の毛がブワッとなった。
せっかく生き延びたのに、このままここで死ぬのか!?
そんなことを考えたとき、
「ムオオオォォォォ……!!!!」
凄まじい勢いで迫ってきていたミノタウロスの気配がいつの間にか止まった。
不思議に思って振り返ると、いつの間にか網のようなものに捕らわれてもがき苦しんでいるミノタウロスの姿が目に入った。
一体何が起こったのかわからなかった。
何かが後ろに飛ばされたような気はしたが、逃げるのに必死で、それが何んだったのか見ることができなかった。
だが、その疑問は間もなく解けた。
「ルルさん。ちょっと手伝ってくれないかな」
と、緊張ひとつない声で言ったナイトという奴が、ミノタウロスに向かって投げるだけでいいと言いながら、僕の手に丸いボールのようなものを何個か渡した。
あくまで推測だが、さっき僕の後ろに飛んでいったのはおそらくこれだったらしい。
これがどうやってあの網のようになるのかわからないけど、投げてみればわかるだろう。
ギャルルはぎゅっとボールを握りしめ、一番近くにいるミノタウロスを狙って勢いよく投げた。
もしあのボールがミノタウロスに当たって何も起こらなかったら、そのまま抜けるつもりだった。
しかし、そんなことは起こらなかった。
ミノタウロスの鼻に直撃したボールは軽く光を放った後、パッ!と弾け、ミノタウロスを網の中に閉じ込めた。
網に捕らえられたミノタウロスは、どういう原理かわからないが、足掻けば足掻くほど網に絡まり、やがて身動きもできなくなってしまった。
しばらくわけがわからなかったギャルルは、自分の手と網にかかったミノタウロスを交互に見た。
そしてやがて、自分が投げたボールがあの巨大なミノタウロスを動けなくしたということに気づいて、
「……ッ!」
背中に走るゾクゾクを感じた。
ゾクゾクと言っても悪い感じじゃない。
むしろ気持ちのいい、快感と言ってもいい感覚が背中を走った。
尻尾の毛を立てながら、ギャルルは思った。
これなら、これなら僕もあの恐ろしいバジリスクを倒せるかもしれない。
あの仮面の男のような強大な力がなくても、似たようなことができるかも知らない!
そんなことを考えて興奮したギャルルは気がづかなかった。
いや、気づくのが少し遅かったというべきか。
「ムオオオオオッーー!!」
いつの間にか近づいてきたミノタウロスがすぐ隣でギャルルを狙って拳を上げていた。
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