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黒騎士と姫とギャルル・タイガー4





「あの、売る前に一つだけいいですか」

「ん? なあにナイトさん」

「この服の効果が持続する期間は 3ヶ月から半年くらいなんです。その後は普通の布に戻ってしまいますから、その時はまた新しく買わなければなりません」

「いいわよ、あの地獄みたいな洗濯の山から解放されることができるなら。それくらいは払うわ。それより値段は?」

「一着に銀貨二枚といったところでしょか。ちょっと高いですけど、いいんですか?」


 銀貨2枚なら円建でおよそ2万円。ちなみにこの世界では銀貨一枚あれば、そこそこ良い服を買うことができる。それなのに、この世界の人間の目ではへんてこなデザインの服が銀貨2枚なんて、多少の機能がついているとはいえ、ちょっと高い方だと言える。


「いいわ、その代わり、30着くらいできるだけ早くもらえる?」

「ええと。大丈夫だと思うんですが……ちょっと耳を貸してもいいですか?」


ノールさんに近づいた俺はノールさんの耳元で、他の二人には聞こえないほど小さい声で言った。


「これを作ったのアソコなんですけど、いいんですか?」

「ああ、アソコ……ね」

「はい、アソコなんです」

「……ええと、生地だけもらえないかしら。裁縫はうちでなんとかやるから! お願い!」


 やっぱりそうなるよな。

 でもそうなると、銀貨を2枚ももらうのはもらいすぎだ。 生地自体は適当な布を買ってスライムボンド液を塗るだけだし、裁縫費もかからないから。


「じゃあ、銅貨1枚に1mで、どうですか?」

「あら、安いわね!じゃあ、200mお願いするわ! せっかくだから、いろいろ作ってみたいし」

「わかりました、じゃあ今度くる時に持ってきます」


 さて、服の話はこれでいったんまとまったな。だが、まだ本当の仕事は始まってすらない。


 あのフン、片付けるのにいくらかかるんだろうか。



「……はぁ、ヒドイ目にあった」

「ううッ。まだ鼻から臭いが抜けない。吐きそう」


 つなぎについた汚れを水で落としながら、俺はギャルルの言葉にうなずいた。


 足元はぐちゃぐちゃして臭いし。それに、ミノタウロスは体がデカい分……ううっ、思い出すだけで吐きそうになった。


 しかもこれ、ちゃんとつなぎを着て、臭い対策としてマスクまでしていたのに、それでもまた鼻から匂いが消えないって。さすがとしか言うようがない。


これ、まさか体に臭いがついたんじゃないだろうな


「あ、やっぱりダメだ! ちょっと走ってくる!」


 ずっと鼻を鳴らしていたギャルルが、そう言って遠くへ走って行った。

 俺はそんなギャルルを後にして、応接室がある小屋に足を運んだ。


「あら、もう終わったの? 人が多いとすぐ終わるわね!」

「アハハ、そうですか」


 その分、俺たちは苦労しましたけどね!

 と、ツッコミを入れたいところだったが、そうする前にノールさんが一足早く言った。


「ささ、入って! お腹空いたでしょ? 賄いいっぱい作っておいたんだから!」

「ぴゃ♥ ぴゃあ♥」


 ノールさんの言葉に合わせて、ベベが手を差し伸ばした。

 くっ。かわいい。ノールさんの言う通り、お腹も空いてるし、いい匂いもするし。それに何よりバイト代として離乳食のレシピをもらう約束もしてるから、苦情を入れるのはやめておこうか。


 そんなことを考えながら、ノールさんからベベを渡されたのだがーー。


「う、うええええんーー!!!!」


 渡された瞬間、ベベが泣き始めた。


「うわっ! いきなりなんで泣くんだ!?」


 お腹が空いたのか!? それともおむつが濡れたとかか!?



 と、一瞬思ったが、手触りで見た感じではおむつは濡れてなかった。そしてお腹が空いていると見るには、 ノールさんに言われてベベにミノタウロスのミルクを飲ませて1時間も経ってない。


 ……もしかしてとは思うが、俺から臭い匂いがして泣くんじゃないよな?


 俺はまさかと思いつつも、ノールさんにお願いして、ちょっとベベを抱っこしてもらうことにした。

 そして。


「ふえ、うぅ……」


 ノールさんの腕に抱かれてまもなく、ベベが嘘のように泣くのをやめた。


 ……マジかぁ。本当に臭くて泣いたのかよ。 ちょっとショックなんだけど。(泣)


 ショックのあまり肩を落とすと、ノールさんが『あら、まあ』と困ったように微笑んだ。

 ノールさんもベベが泣いた理由に気がづいたのだろう。


「……賄い食べる前にちょっと洗ってきます。お風呂を借りてもいいですか?」

「ええ、いいわ、洗ってきて。お風呂に案内してあげるから」

「ありがとうございます」


 今日ばかりは何も言わないノールさんの優しさが身に染みる。 そもそもこんな状況になったのは、ノールさんが農場の仕事を手伝わせたからだけど。(泣)


 とにかくそうやって体を洗って戻ってくると、やっとベベは俺の腕に抱かれても泣かないようになった。


「ぴゃうー♥」


 頬がピンク色に染まるのを見ると、むしろシャワーを浴びたばかりの俺の体温が暖かくて気持ちよさそうにも見える。

 俺はベベを優しく撫でながら、ノールさんに聞いた。


「そういや、デール君とルルさんはどこにいるんですか?」

「ああ、うちのデールが久しぶりの新入に気合が入ってね。もう少し農場の仕事を教えるって、ルルちゃんを連れて行ったわ」

「ああ、そうなんですね」


 そういえば、今日なんかずっと気合が入ってたな。

 デールからすると、農場に同じ年頃の友達ができるんだから、浮かれるのも仕方ないか。


 そんなことを考えていると、


「うわぁああああッ!!」


 外から悲鳴が聞こえてきた。

 それはデールの声だった。


 

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